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真実の愛を見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ】  作者: 彩戸ゆめ


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82話 クリスマスイブSS ランタン祭り 前編

「ランタン祭り、ですか?」


 マリアベルがガレリア帝国での暮らしに慣れてきて、初めての冬を迎えた。


 王国で育ったマリアベルにとって新年のお祝いは、雪景色の記憶しかない。


 王都で妃教育を受けていたマリアベルが唯一バークレイ領に戻れるのはこの時期だけで、すっかり刈り取られた麦畑に積もる雪を懐かしく思い出した。


 雪景色といっても、一面が白く染まるわけではない。


 王国の中でも南にあるバークレイ領は温暖で、王都ほど雪は降らない。

 だからマリアベルの記憶にある雪景色は、雪の中に小麦畑の畝の土の色が交じる、白と黒の大地だ。


 新年の祝いも、雪が降り積もる外ではなく、家の中で家族だけで祝うのだ。


 そのバークレイ領よりもさらに南にあるガレリア帝国では、滅多に雪は積もらない。

 だから年越しと新年の祭りは、集まって盛大に祝うのだ。


 特にガレリア帝国の皇都で開かれるランタン祭りは有名だ。


 ガレリア帝国では一年の間に起こった出来事をランタンに乗せて、神様の元へ届けて感謝する。


 普通は小舟に乗せたランタンを川に流すのだが、皇都だけは空へと放つ。


 その光景は幻想的で美しいと評判で、マリアベルも今年は見ることができるのではないかと、密かに楽しみにしていた。


「もちろん存じております。この部屋からも見えるのでしょうか」


 忙しい執務の間をぬってマリアベルとのお茶の時間を確保したレナートからランタン祭りの話を聞いて、マリアベルは目を輝かせる。


 現在マリアベルが住んでいるのは、皇太子妃の部屋だ。隣にある皇太子の部屋と扉でつながっているが、まだ婚約者という立場なので、当然その扉には固く鍵がかけられている。


 皇太子妃の部屋はローズピンクと白で統一された部屋で、正面には大きな窓が、そして両側の壁には大きな鏡が取り付けられており、華やかで美しい。


 カーテンや椅子の背に使われている生地には、百枚の花弁という意味を持つ「ロサ・センテフォリア」という薔薇と、バークレイの麦を表す紋章がモチーフとして使われている。


 内装はすべてマリアベルのためにレナートが手掛けており、青を基調とした皇宮の中で、ここだけが女性的な可愛らしい部屋になっている。


 大きな窓から直接皇都を見ることはできないが、空に飛ばされるランタンであれば、ここからでも十分に見えるだろう。


 マリアベルはその光景を想像しながら、今はまだ青い空を眺める。

 この空がオレンジの灯りで埋めつくされるさまは、どんなにか美しいことだろう。


 まだ見ぬ光景に思いを馳せて、マリアベルは口元をほころばせた。


「もちろん見えるが、ベルもランタンを飛ばしてみたくはないか?」

「できるのですか!?」


 勢いよく振り返ったマリアベルは、自分の淑女らしくない動作に「あ……」と口に手を当てて恥じ入った。


「公式の行事ではないが、ここ数年は正門の見張り台からランタンを飛ばしている」

「ぜひ私も飛ばしてみたいです」


 きらきらと目を輝かせるマリアベルに、レナートは「そう言うと思った」と笑みを浮かべる。


「カルロ」

「はい、こちらでございます」


 たまにふざけた口調になるが、普段のカルロは従者の手本のように礼儀正しい。

 きりっとした表情で、用意してあったものを机に広げる。


「もちろん売っているランタンをそのまま使うこともできるが、せっかくだから作ってみないか?」


 レナートが指さした机の上には細長い枝と紙の束が置いてある。


 紙には模様が描かれており、剣や盾などの勇ましい絵柄から花や星などの可愛らしい絵柄まで、色々な種類のものがあった。


「自分で絵を描くこともできるが、初めて作るのだから、紙はこちらで用意してみた」

「レナート様もお作りになるのですか?」

「一緒に作れば楽しいだろう?」


 そう言って笑うレナートの笑顔が眩しくて、マリアベルは頬を染める。


 マリアベルにとって、どれほど豪華な宝石や服を贈られるよりも、こうして一緒に楽しもうと考えてくれることが嬉しい。


 忙しい中でも、マリアベルと一緒にいる時間を取ってくれる。

 それがどんなに幸せか、マリアベルはきちんと理解しているのだ。


「ええ。とても……とても楽しいと思います」

「では紙を選ぼう」


 あれもいい、これもいいと悩みながら紙を選んでいるうちに、あっという間に時間が経ってしまった。


 渋々と執務に戻るレナートを見送りながら、マリアベルは幸せに心が満たされているのを感じる。


 マリアベルは悩みながら選んだ紙を手に取りながら、レナートと出会ってからの日々に思いを馳せた。




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