81話 番外編 猫の宮殿
活動報告に載せていたSSの第二弾です。
レナートがマリアベルと一緒にバークレイ領来たばかりの頃の話です。
ガレリア帝国の皇宮の一角に「猫の宮殿」と呼ばれる建物がある。
何の変哲もない普通の建物だが、そこには一人の皇子が住んでいた。
「リナルド兄上……また猫が増えていませんか?」
「ん? そうかな?」
リナルドは絨毯の上に寝転がりながら、お腹の上に乗ってきた黒猫の喉をなでて、目を細めている。
この猫の宮殿は、猫たちのために土足厳禁となっている。
必ず入り口で靴を脱がないといけないので、リナルドが寝転がっても大丈夫なのだ。
「レナート兄上がいなくて執務が大変なんですから、そろそろ行きますよ」
呆れたようなアンジェロに見下ろされて、リナルドは仕方がないなぁと上半身を起こした。
途端に黒猫が驚いて、ぴゃっと飛び上がって逃げた。
「あ~あ。せっかくノアが懐いてくれてたのになぁ」
残念そうに黒猫を見送るリナルドは、アンジェロの手を借りて、よいしょ、と立ち上がる。
「こんなに猫を増やして……。だから中々婚約者ができないんですよ」
リナルドと同じように婚約者のいない自分のことは棚に上げるアンジェロだが、まだ十七歳なのだからゆっくり決めればいいと思っている。
だが次兄のリナルドはもう二十歳なのだから、そろそろ決まった相手を見つけてもいい頃だ。
なのに、婚約者候補になった娘たちは、この猫の宮殿を見て逃げかえってしまう。
それも無理はない。
宮殿と呼ばれてはいるものの、建物の大きさはちょっと大きな屋敷といった程度で、何匹もの猫が暮らしている。
つまり、にゃーにゃーとうるさいし臭いし、換毛期には毛だらけになる。
鳴き声に関しては、普段はそれほどでもないが、春と秋の発情期になるとうるさいどころの話ではない。
猫の宮殿で働くものたちも、その時期は交代で我慢しつつ働いている。
その状況で、猫に埋もれて幸せそうに眠れるのは、リナルドだけではないかとアンジェロは思っている。
そんなところに一緒に住むと言われて喜ぶ娘はいないだろう。
皇太子であるレナートの配偶者がちゃんと決まるまでは、リナルドも婚約者を決めることができなかったので一切、女性を近づけなかった。
だがレナートがマリアベルと婚約して以降は、次はリナルドの婚約だということで、大変もてた。
もてもてだった。
が、すぐにもてなくなった。
皇子妃になれると喜んでやってきた娘たちは、まずこの猫の数の多さにおののき、猫だらけの生活に一週間もすると音を上げた。
今では婚約者候補すら現れなくなってしまったほどだ。
「大丈夫さ、アンジェロ。僕にも兄上のように、運命の相手がきっと現れるから」
そう能天気に笑う兄に、無理じゃないかなとアンジェロは思ったが、運命というのは案外どこにでもあるらしいということを、後に知ることになるのであった。
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