41話 育ちつつある思い
フォンターナ公爵はもごもごと口ごもりながらも頷き、不満そうにしているクラウディアを引っ張るようにしてその場を辞した。
マリアベルがテレーゼから聞いていた要注意人物の筆頭は、クラウディアだ。
まずは無事に切り抜けることができて、マリアベルは少し肩の力を抜く。
「レナート様、助けてくださってありがとうございます」
挨拶を受ける合間に感謝の言葉を口にすると、レナートはウィンクをしておどけてみせた。
「助けなど必要なかったかもしれんが、男は思う相手に頼られたいものだからな。マリアベルも、どんどん俺を頼りにしてくれ」
さり気なく手助けをしてくれて、それでいてそれを恩着せがましく言うこともない。
比べてはいけないと思いつつも、マリアベルはかつての婚約者のエドワードだったらどうだろうかと考える。
レナートのように、庇ってくれたことがあっただろうか……。
きっと困ったように微笑んで、マリアベルがなんと答えるかをただ待つだけだっただろう。
マリアベルなら完璧だから任せられるよ、と言われ、自分でもそれが当たり前だと思っていた。
だからエドワードに助けてもらうなどと、考えたこともなかった。
けれども、レナートは何でもないことのように、頼ってくれと言ってくれる。
王国の妃教育では、王妃は王の支えになるものだと教わった。
けれども、本当にそうなのだろうか。
マリアベルは改めて王国の妃教育を疑問に思った。
王が王妃に支えられるというならば、王妃は誰に支えてもらえばいいのだろうか。
王妃だけが完璧でなければいけないというのは、おかしすぎる、と。
「はい。遠慮なく頼らせて頂きます」
マリアベルは心からの笑みを浮かべる。
きっとレナートとならば、お互いに支え合って生きていくことができる。
そう思うと、心の中がじわりと暖かくなる。
これが、愛なのだろうか……。
マリアベルはそっと胸を押さえる。
あの花園で赤い薔薇を受け取った時に芽吹いた思いは、マリアベルの心の中で少しずつ育っている。
きっともうすぐ大輪の、美しい花を咲かせるだろう。
マリアベルは、そんな予感に打ち震えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして最後に、マリアベルの父であるジェームズが挨拶に訪れる。
皇太子の婚約者としてマリアベルに敬語を使い、挨拶をする。
これがこれからの、公の場での二人の立ち位置だ。
マリアベルは寂しさを覚えたが、ジェームズがマリアベルを見る目は変わらずに慈愛に満ちていて、少しだけ慰められる。
ジェームズの横には王国から帝国に派遣されている大使が立っていて、レナートの横に立つマリアベルの姿に困惑したような表情を浮かべていた。
王国の王太子の婚約者であったマリアベルは、当然その大使の顔を知っている。
大使がまだ副大使だった頃、王国に報告に戻った際に何度か顔を合わせているからだ。
大使は無難にマリアベルに祝辞を述べた。
ジェームズと大使が階下に下りると、それを合図に、皇帝夫妻は退出していった。
「さて、俺たちは下に行ってもう少しおしゃべりを楽しもうか」
レナートに腕を取られ、マリアベルは頷いた。
もしも「続きが気になる」「面白かった」などと思って頂けましたら、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!




