表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の夢の裏側  作者: 鈴鯉
第7章 選択
16/21

「智が、病気だと言うんですか?」

 病院に着いて、まず幸野が智の母親に会いに行き、話ができるスペースまで出てきてもらった。

「幸野ちゃん、どういうこと?」

 智の母親はとても冷静に話を聞いてくれた。安藤の話を聞くとさすがに顔を強ばらせたが、幸野がいるせいもあってか、責めることなく耳を傾けていた。

「病気だ、とまでは言ってないんですけど……」

 幸野は言葉を探しながら言った。

「智の様子、少しおかしくないですか?」

「おかしい?」

「怪我をした時も、智が安藤君を強く責めてたって。安藤君がストーカーだとしたらおかしくないですか?」

 智の母は考え込むようだった。

 今まで言えなかったけど、と前置きして、幸野は高校時代の智の話をした。智の母は愕然とした様子だった。

「高校の時から……?」

「私も全然おかしいなんて思ってませんでした。でも、そう思ってみるとちょっと……」

「そんな……。そういう病気の話はテレビで見たことあるけど」

「だから、とりあえず調べるっていうか、病院に相談してみるとかどうですか?」

 智の母は眉を寄せて考え込んだ。

「あの、すみません」

 ずっと黙っていた貴城が口を挟んだ。

「瑞己がストーカーしてないと分かったら、被害届けは取り下げてもらえませんか」

「兄さん」

「こいつは優しくて言えないので、俺が代わりにお願いします」

 貴城が深々と頭を下げた。智の母が戸惑ったようにそれを見る。

「もちろん、怪我させてしまったのは事実なので、治療費はこちらでお支払いします。――瑞己の将来のためにも、お願いします」

「……幸野ちゃん」

 幸野も複雑そうに眉を下げた。

「安藤君が本当にストーカーなら許しませんけど。智の間違った言葉で、誰かに迷惑をかけるのは……私は嫌だと思ったので。だからこの人たちと来たんです」

 幸野の顔を見て、智の母は一つ頷いた。

「被害届けの事は分かりました。――でも、智のことは……」

 そうですよね、と幸野も表情を暗くした。急に『病気だ』と言われても到底納得できないだろうし、考えてもいなかったことだろうから、病院に相談するというのも決断は難しそうに見えた。

「あの、差し出がましいんですけど」

 見かねたように貴城がまた口を開いた。

「まずこいつ……彼女と、智さんで、話をさせてみたらどうですかね。ストーカーのことを聞いてみて、つじつまが合うかどうか」

 幸野を示した貴城を、真偽をはかるように智の母は見上げる。

「彼女なら、瑞己の話も聞いてますし、智さんも話がしやすいんじゃないですかね」

 貴城に指名されて、幸野は驚きながらも内心嬉しかった。

 頼りにされたように感じたのに、

「彼女が冷静に判断できるかは疑問ですが。心配なら同席されてもいいと思いますし」

 続きの言葉を聞いて人知れず肩を落とした。

 智の母は、少し考えてから幸野に視線を転じた。

「幸野ちゃん、お願いできる?」

「は、はい。分かりました」

 重大な仕事を任されて、幸野の全身に緊張が走った。

「あなたたちは……?」

 智の母が問うと、貴城は心得たように頷いた。

「病室の外か、ここにいます。瑞己は逃がしませんよ。首根っこ掴んどきます。何なら、俺と瑞己の携帯番号教えましょうか」

 言うが早いか貴城はメモを取り出して一枚破いた。携帯電話の番号を書き、安藤にも渡して番号を書かせてから智の母に渡した。

「親の事情で名字変わってますけど。俺は貴城です」

 メモを受け取って、智の母は安心したように、ありがとう、と言った。

 幸野は、智の母と連れ立って病室に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ