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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第二章 互恵同盟とトラブルバスター

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■偽善 ~ The Hatter I


 俺はすかさずスマホのLINFから無料通話をナナリーにかける。


「ナナリー」

「ア、アリス……どうしよう七璃なんにも悪いことしてないのに」

「落ち着いて。とりあえずTwitterは反応しないで。Pixibのコメント欄も返事を書かないこと」

「わ、わかったぁ……っ……っ」


 ナナリーは嗚咽を漏らす。有里朱と話したことで張り詰めていた緊張がぷつんと切れたのかな。


「Twitterの個人情報に繋がるような書き込みは、あの時に削除したでしょ?」


 ナナリーと出会った日。帰りの電車の中で、個人が特定されるような書き込みや写真は削除させたのだった。


「うん」

「じゃあ、ナナリーがニューネココマと繋がるものは一切ないよ。これ以上状況が悪くなることはないから安心して」

「でも、もうイラスト投稿できなくなる……」


 これだけ話題になっておいてトレス疑惑のイラストに言及せず、新たなイラストを投稿すれば、また叩かれるだろう。


 絵を描けなくなることは、彼女にとってはかなりつらいかもしれない。マイナーだった頃とは対応が違ってくるのだ。


「今は耐えて。その間にわたしが対策を考えるから」

「アリスぅ……」


 その後、泣き出したナナリーを慰めた。そこそこネットをやっている俺だって炎上したら心が傷むってのに、十代の彼女にはかなり堪えるだろう。


「一つだけ質問していい?」

「なに?」

「あのイラストってどうやって描いたの?」

「アリスも七璃のこと疑っているの?」

「違うの。正確に状況を知らないと、擁護しても嘘だと突っ込まれるだけ。わたしはナナリーを信じている。だから、描いたときの状況を全部教えて。使用したアプリとか参考にした画像とか写真。描くのにかかった時間とか全部」

「わかった……」


 彼女は鼻水声で、嗚咽を漏らしながら説明していく。そこにトレースを行う余裕などなかった。彼女は全力であのイラストを描いていたのだ。


「ありがとう、わたしはナナリーを信じているから。この疑惑も絶対に晴らすから。あと、投稿したイラストも削除しないでね。つらいかもしれないけど」

「……っ……ありがとう……アリス」


 通話を終えると、PCから情報収集ツールの条件設定を変える。


 次に、一番始めにトレース疑惑を広めた人間を追跡する。炎上から一日も経っていないので、Tvvitter内の検索も機能するだろう。


「あった」


 ナナリーがイラストを上げたのが昨日の夜中十一時。それから十三時間後の昼の十二時にランキングは更新されて、彼女のイラストはデイリー一位となった。その十分後にTvvitterでトレース疑惑を広めているアカウントがある。これが発端か。


『あれ? このユーザー名って見覚えが』


 【榛名わぴこ】は、情報収集アカウントでフォローしているユーザー名だった。


「宅女の生徒だけど、個人の特定が出来てない奴だ。あんまり重要じゃないから放置してたんだが、これは本格的に調べないとダメかもな」


『この人、どうしてななりちゃんのイラストをトレースだって思ったんだろ?』


 彼女のツイートには『ナナリー』のイラストと、『サタイタイオ』という人が描いたイラストを二つ並べてその類似性を指摘していた。それだけなら個人的な難癖で影響力はなかったが、そのツイートをまとめサイトが面白おかしく取り上げていたのだ。


 あの手のサイトはニュースソースの真偽をきちんと調べないところが多い。


 二つのキャラの顔の輪郭を並べ、トレース元とされる方を倍率を上げ、回転させて、さらに少し歪ませると線が一致する。……馬鹿らしかった。最後の歪ませるって何だよ!



 そもそも顔の線なんて、そんな極端な線を描くわけがないのだ。しかも元ネタは同じキャラだ。



 だが、決定的なのは、キャラクターが手に持った楽器だと言われていた。



 FERNANDESのZO-3。別名【ぞーさん】。フェルナンデス社から発売されている人気のギターモデルだ。この楽器の形やアングルが、ぴったり一致するという。



 たしかに日時を見れば「榛名わぴこ」が見つけた方のイラストは十一月十五日に投稿しており、ナナリーは十二月七日だ。オリジナルと主張するのも無理はないだろう。



 とはいえ、トレース元となった『サタイタイオ』が描いたイラストは、はっきりいってレベルは低い。楽器を持つキャラに違和感がある。左腕が少し長くなっているのは、無理矢理持たせたせいだろう。



 だが、ネット民はこの楽器の一致で大いに盛り上がっている。いわゆる炎上だ。もともとそれほどファンもいなかったナナリーがデイリー一位をとったために、擁護する人間はほとんどいなかったのだ。



「酷いなこれ」



 わりと有名なギターであり、フリーの写真素材にもあるようなものだ。実際に、ナナリーはそのフリー素材のサイトを見て参考にしたらしい。



 そもそも写真を参考に似せて描くことに法律的な問題はない。



 ギターの形を模写することも同じだ。メーカーに対して意図的な誹謗中傷や捏造を行わない限り平気だという。過去にFERNANDES CO., LTD.に問い合わせた人もいたので完全に問題は無い。



 で、今問題なのは【榛名わぴこ】がナナリーの絵をパクリでトレースだと言い張っている件である。



 ギターに関してはフリー素材の存在を提示すれば、事態は少しは収まるだろう。キャラのトレースに関しては……。



 俺はペラサイトを作成し、ナナリーの新作イラストと、弥生時代の円筒埴輪を並べて、一部の線が一致することを示しておいた。トレース疑惑なんて馬鹿らしいという最大の皮肉である。



 おまけとして「榛名わぴこ」がトレース元だと言い張るイラストと、今日投稿されたばかりのインスタの写真の中から薩摩揚げをピックアップし、「この薩摩揚げはトレス疑惑がある」と煽っておいた。ここまでくると皮肉というより、ギャグであった。それだけ馬鹿馬鹿しいものだということを強調しておく。



 ナナリーが下手に反応しないこともあって、炎上は徐々に治まっていった。だが、それでも百パーセントではない。真実を信じたがらない者や、皮肉がわからないものもいる。



 イラストを描いたことがないものは、トレースと模写の違いすらわからないのだろう。



 というわけで、再びナナリーの家に来た。明日から試験休みなので多少遅くなっても大丈夫である。なんならお泊まりでもいいよ、と有里朱が言っていた。



「それで、どうすればいいの?」



 パソコンデスクの前に座っているナナリーがこちらを見上げる。



「参考にした写真あるでしょ? ギターのやつ、それを右の画面で表示させて、前と同じように書いてくれる? 線画だけでいいから」


「わかった」



 彼女は背を向けると、タブレットペンを持ち、線画を描き始める。



 それを俺は、手ブレ補正機能付きのビデオカメラで撮影した。スマホだと、画質がイマイチなのだ。今回はナナリーの才能を見せつけるためだから、それなりの動画にしなければならない。



「できたよ」



 彼女は筆が速い。十五分ほどで、前と同じようなイラストが完成する。



「そしたら、右のギターの画像を今書き上がった絵の下に薄く表示させて」



 ここらへんはレタッチソフトなら簡単にできるだろう。



「これでいい?」



 見ながら描いたというのに、見事に輪郭線は一致していた。改めて彼女の才能の凄さを感じる。



 この映像は、トレスではなく模写であることの証拠であり、参考にした画像もフリーのものでなんの問題もないことを示すものだ。



「ありがとう。これで、九割……九割九分くらいのネット民は黙らせることができるよ。ただ、もうちょっと待ってね」



 どんな場所でも百人に一人くらい変なのがいる。



 ネットユーザーは日本だけでも三千五百万人以上だ。単純計算で三十五万人もの頭のおかしな人間が残っていた。まあ、トレス疑惑に絡んでいるのはこのうちの何%かなんだけどね。



「まだコメント返さない方がいい? 応援してくれる人もいっぱいいるんだけど」



 基本的にコメントを返さないというナナリーでも、勇気をくれるようなコメントがあれば何か書きたくなるのだろう。



「トレス疑惑で荒らしてる奴もいるでしょ? 片方だけに返信したら、不公平だってまた荒れるよ。とりあえず落ち着くまでかな。どうせ、明日には別の炎上騒ぎに飛びついているよ」



 ナナリーの家にお泊まりしたいという有里朱の願望をスルーして家に戻る。もうすぐ日付も変わるが、まだ母親は帰ってきていない。不審がられることもないだろう。



 今は動画の編集と投稿。あと、大型掲示板の方でも火消しをやらんとな。



 夜中の一時を過ぎたところで、かなり落ち着いてきた。トレースをやっていないという証拠の動画や火消しの擁護書き込み等の効果はかなり出てきたようだ。



 それでもゼロにならないのは、仕方が無い。どこの世界でも話の通じない者はいる。論理的に考えられない人も居る。自分の信じたいものしか目に入らない愚かな奴らもいる。



 今日のところはここまでか? あとは【榛名わぴこ】の意図が知りたい。ちょっとした勘違いでナナリーを糾弾したのか、それとも始めから彼女を陥れるつもりだったのか。



 Tvvitterに、彼女の書き込みはまだなかった。



 よし、燻り出すか。


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