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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第一章 自殺と憑依といじめっ子への逆襲

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■顛末 ~ Humpty Dumpty V



 ストーカー騒ぎは終わった。


 加害者の思井おもい啓介けいすけは、アパートを引き払い実家に戻ったようだ。集めた情報によれば、彼の両親は九州の方らしいので、もう会うこともないだろう。


 あの日俺たちは、思井を罠に嵌めるために夜遅くに出かけた。


 彼がベランダにカメラを設置し、マンションの出入り口を盗撮していたことはこちらからも把握していた。


 それと同時に、PCでプログラムを組んでおき、時間がきたら決められた間隔でメールを送るようにセットしておいたのだ。彼の世代ならLINFよりメールの方が効果は高い。


 尾行してきた思井を追い詰め、ホラーマスクで驚かす。マスクだけでは足りないので、それっぽい演技も付け加えた。これにより彼は逃亡する。


 家に帰ったところで追い討ちをかけるように電話。おまえはわたしの獲物なんだからな。その家にいるのも知っているからな。そんなメッセージを込めたイタズラだ。


 そして郵便受けに写真を投函。ホラーマスクを被ったまま自録りし、それを画像加工ソフトで修正、リアリティを出すように演出して加工、インクジェットプリンタ用の印画紙で印刷するのだ。こうすると本物の写真っぽくなる。メッセージは『わたしを忘れないでね』と添えておいた。


 発掘したTvvitterやfaceboogの方にも同様のダイレクトメッセージを送っておく。


 さすがにしばらくはアパートで脅えていたのだろう。だが、彼も社会人だ。

 仕事に行かなくてはならない。


 彼が溜め込んだ休暇を十日ほど取っていたことはスマホのスケジューラーから把握していた。


 その長期休暇ゆえに、有里朱をストーキングできる時間が大量にとれたのだ。このことで徐々におかしくなっていったのだろう。


 三日前には勤め先の不動産会社に電話をし、親類の女の子を装って思井を呼び出してもらった。低いドスの利いた声で「あなたのこと全部知ってるからね」とさらに脅したのだ。これがトドメ。


 その二日後、彼は会社を辞め、アパートを引き払い、実家へと帰っていったのだ。恐怖を身体に刻みながら。


 これぞ倍返しの作戦。目には目を、ストーカーにはストーカーだ。


 彼にストーカーされる女の子の気持ちを、少しでも理解させることが勝利条件でもあった。


 今回成功したのは、加害者のプロファイリングがうまくできたことだろう。彼が有里朱に何を求めていたのか?


 それは、有里朱が真面目で品のいい子だという理想を妄想化したところから始まる。

 彼の最終目的は、そんな理想の女の子である有里朱を自分のものにすること。


 彼が望むのはキャラクターとしての有里朱だ。


 これがただの蒐集癖のある者なら、有里朱を人形としてみるだけだ。


 恐ろしいのはこの場合、手に入れるのに生死は問わない点だろう。有里朱の容姿にしか興味が無いのであれば、今回のような作戦は意味がない。相手の心は揺さぶることすらできないのである。


 思井にはまだ人の心が残っていた。だからこそ、理想の有里朱像を揺さぶることで、相手を追い詰めることができたのだ。


 相手に人の心が残っていなければ、たとえいじめの首謀者でも苦戦することは間違いない。そんな相手とは戦いたくないものである。



『なんか、最後のほう、かわいそうだったね』


 久々に屋上に来ている。年末に業者が来るというので、不自然な箇所がないように倉庫を整理していたのだ。使ってしまった備品も買い足しておいた。


 目の前には真っ赤な夕陽が沈むところだ。ここは、俺と有里朱が初めて出逢った場所でもある。


「お前自身はかわいそうじゃないのか? あんなにキモイって言ってたじゃないか」

『そりゃ、気持ち悪かったけど、わたしの存在だって、他の誰かからしたら気持ち悪いって思うかもしれないよ。というか、実際、そうなんだけど……』


 声のトーンが落ちていく。自分で言い出して落ち込むなんておまえくらいだよ。


「また自虐的になる。他人に優しいのはいいが、自分にも優しくしろよ」

『無理だよ……自分が一番嫌いだもん』


 理解出来るけど理解しちゃいけない。


 彼女が自分を嫌うことを肯定してはいけない。

 それは暗闇から抜け出せなくなるかせでしかないのだ。


 いじめのキッカケは些細なことだ。誰かを妬む気持ち、誰かを蔑む気持ち、そして誰かに苛つく気持ち。


 自分を嫌い、卑下することで誰かの嫉みを買う。誰かに蔑まれる。そして誰かを苛つかせる。些細なキッカケは弱い人間たちを深い闇へと放り込む。それはいじめられる側もいじめる側も同じ。


 闇に落ちたくなければ自分を嫌ってはいけない。それは誰かにつけ込まれないために。


「有里朱。自分を嫌う暇があったら誰かを好きになれ、何かを好きでいろ」

『好き?』

「自分の気持ちを大切にするってことだ。それは同時に自分への優しさに繋がる」


 自分を嫌うなと忠告するのは簡単だ。だが、嫌いなものをどうやって好きになれようか?


 ならば、好きなものだけ見ていればいい、好きな事だけ考えていればいい。


 こっちの方が簡単だろ?


 いつかその気持ちが、自分そのものだってことに気付くはずだ。そうやって何かを好きになれたことを誇ればいいよ。無理に自分を好きになる必要は無い。


『いいの? そんなことで』

「難しいこと考えなくていいさ。かなめと一緒にいるのは愉しいだろ? ナナリーは超絶かわいいだろ?」

『う……うん。そうだね』


 やや控えめに、それでも力強く肯定する。


 気恥ずかしさはあるだろうが、その気持ちは純粋に自分自身の心なのだ。それを否定するほうが難しいだろう?


「この世界が優しくないことなんか、俺でも知っている。けど、優しいから何かを好きになるわけじゃない」

『優しい人の方がいいけど……」

「そういうんじゃなくてさ、人が何かに憧れるときって、その中に美しさとか強さを見いだすものじゃないか?」

『……そうかもね。この夕焼けって、血の色みたいで不気味なところもあるけど、すごくきれいで惹かれるもん』

「そうやって探せば、いくらでも好きなものができそうだろ?」

『最近、牛丼の紅ショウガも大好きかな……うふふ』


 いたずらっぽく笑う有里朱。半分冗談だけど、半分本気だろう。そうやって世界に執着することが彼女に生きる希望を与える。


 急いで好きなものを見つけなくてもいい。着実に一歩ずつ進んでくれ。



 有里朱がこの世界を好きになれるよう、俺はお膳立てをしてやるだけなのだから。




これにて第一章はおしまい。明日、幕間の短い話を投稿した後、第二章開始。


ハイファンタジーのように読者が多いジャンルではないので、ポイントに関してはかなり苦戦しています。


ブクマ、評価、感想、レビューなどで支援してくれるとありがたいですね。


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