母さんの所に行った ②
「母さん、久しぶり」
「ああ。久しぶりだな。ゼノラシア。それで、そちらは?」
「あー……俺の番」
「は?」
俺の言葉に母さんが固まった。魔獣の姿だから、表情が見えにくいがそれでも声で驚いているのがわかる。というか、あれだな。自分の番だっていっていくと何だか少し恥ずかしいな。特に俺が人に興味がなかったことを知っている相手に言うのはなぁ。
と、そんな遠い目になっているけれどフィナは凄く嬉しそうな顔をしている。俺に関わる事だとそんな風に表情を変えるフィナは可愛いなぁと思わず思う。
「ゼノのお母様ですね。私、セラフィナといいます。よろしくお願いします」
「お、おお……ゼノラシアが、番を作るとは。番を作るとすればネティスか、カルノノが先かと思っておったが。ゼノラシアが、番………それも人間の雌を……」
母さん、驚きすぎてフィナと俺をまじまじと見ながらそんなことを言う。
母さんがこんなに驚いているの初めて見る。何だか少し面白い。
しばらくして、母さんが正気を取り戻した。
「こほんっ。すまない。固まってしまって。セラフィナといったか。我はラフィネアシア。この息子の母である。よく……ゼノラシアを落とす事が出来たな。ゼノラシアが人とかかわるなどと考えた事が我にはなかった。契約だけならともかく、番になるとは……」
母さん、気を取り直してそういった。
フィナはその言葉を聞いてにこにこと嬉しそうに笑っている。多分、俺が人に興味を持たなかったのに、フィナに興味を抱いたという事実を母さんから聞いて嬉しかったのだろう。
「む、というか、もしやあれはゼノラシアの事なのか。貴族の令嬢と高位魔獣を取り戻したいという他国の申請は……」
「ああ、それ俺達。フィナがちょっと貶められそうになって、元々フィナは色々あそこで大変だったから、ならもう行くかって誘ったというか」
「あの国は私にとって過ごしたい場所ではなかったので。それに私はゼノからずっと色々な場所の話を聞いていて、ゼノと一緒に色々な場所を見ていられたれたらって思ったのです」
母さんの言葉に俺とフィナが答える。
母さんはそれを聞いて考える素振りをする。
そしていう。
「そうか。……なら、我は宣告しよう。我が息子と我が義理の娘に手を出す事は我を敵に回すことになると」
母さんは俺達兄妹の事を可愛がってくれているから、そういってくれないかなと期待していた。母さんは俺がそういう事もあてにして久しぶりに会いに来たことも理解しているだろう。理解した上でそういってくれる母さんの事俺は本当好きだ。
転生ものの物語とか、前世で見ていた時は前世の母親が自分の母親だから、現世の母親は母親ではないとかいうものもあったけど、そういうのは全然ない。母さんは俺の事受け入れて息子として育ててくれたし、なにより魔獣として生きている方が俺の人生長いし。
「母さん、ありがとう。そういってくれると思ってた!」
「当然じゃろう。ゼノラシアが番を作るなんておめでたい事を邪魔する輩など、親として許せぬからの。それにあの国は我が義理の娘を政治の道具にしようとしている。それにゼノラシアを利用する気満々なのも気に食わない」
母さんはあの国の事を考えて怒った様子で言った。
俺も散々フィナによくしてこなかったくせに、俺と契約をしていたからとそういう態度になるのは腹立たしい事だ。
フィナと王子を結婚させて、フィナを……高位魔獣との契約者を国に留めようとしているのがあの国で、それってフィナの意志なんて関係ないって言っていることだし。本当……俺、あの国が好きではない。
「まぁ、その話はおいといて。ゼノラシアよ。我は、ゼノラシアとセラフィナの話を聞きたい。どうやってセラフィナがゼノラシアを落としたかを聞きたいのだが」
「あー……」
「はい。私とゼノの話ですね。喜んで!」
母さんの言葉にフィナが声を上げた。俺としてみたら恥ずかしいのだが、フィナはそれを話す事が嬉しいらしい。フィナがにこにこしているのは良い事だけれども……。
「ゼノは、私が泣いていた時に……」
「ゼノは、私と一緒に外にでて……」
「ゼノは、私の事を——」
「ゼノは本当にかっこよくて……」
「私はゼノの事が………」
フィナが俺の事をひたすら語っている。それに対して母さんは、面白そうに声をあげている。ちらちらこちらを見ている。何だか恥ずかしい。
その場に残ったままの男性もほほえましそうにこちらを見ているし……。なんだこの羞恥プレイ。母さんとフィナが仲良さそうにしているのは嬉しいけれど、俺が恥ずかしいぞ。
「セラフィナは本当にゼノラシアを大切にしてくれているのだな。我は母親として安心した」
「はい。私ゼノが大好きです」
むず痒い気持ちになる。嬉しいけどさ。
で、それが終わったら、
「で、ゼノラシアはセラフィナをどう思っているのか。この母に語っておくれ」
こっちにきた。
語れと見てくる母さんと、キラキラした目で聞きたそうにこちらを見ているフィナ。
……そこからが本当の羞恥プレイだったとだけ言っておこう。




