フィナに友人が出来た話。
「セラフィナー、あそぼー」
「……いいけど」
フィナに勢いよく話かける一人の少女がいる。フィナは綺麗系の少女なのだけど、そのもう一人の少女マラノアは、可愛い系の赤髪の少女である。しかし、その見た目で侮ってはいけない。マラノアは、フィナと同じで二つ名などというものがつけられるような少女である。
その名も、《炎姫》。
フィナと対照的に、炎の魔法が得意な少女である。……いわゆる天才というやつなのだろうか、冒険者の世界でも有名なマラノアは、同じ年で二つ名もちのフィナに興味を抱き、特攻してきたのが始まりである。
フィナも最初はマラノアと距離を置こうとしていたのだが、何度も何度もめげずに話しかけてきたマラノアに絆されてきたのか、大分、態度が柔らかくなった。
何より、マラノアは俺とフィナが番の関係だと知っても「へー! ゼノラシアが旦那さんなんだ! 夫婦で旅とかいいね。私も誰かと夫婦になりたい」とにこにこ笑っていた。俺としてもマラノアは、俺以外を傍に寄せず、友人というものがいなかったフィナにとっては良い存在だと思っている。
「ねーねー、セラフィナはゼノラシアと番ってやつなんだよね? 結婚式とか挙げたの?」
「あげていないわ。……ばたばたしていたし考えてもなかったもの」
「そうなの? 挙げないの? セラフィナの婚礼衣装とか、凄く似合うと思うのだけど」
マラノアがそう口にすれば、フィナは俺の方をちらりと見た。
「ゼノは、見たい?」
「フィナのドレス? 見たいかな」
「ゼノが見たいなら結婚式したいかも。でもゼノが人型になったら皆惚れちゃいそうで嫌だから、魔獣の姿のゼノとの結婚式がやるならいいわ。それか、二人だけでやるか……」
……俺の人型見たぐらいでそんな皆惚れないと思うんだが、フィナ的には本当に人型の姿を見せたくないらしい。そういってもらえるのは嬉しいけれど、俺を過大評価しすぎだと思う。というか、それ言うならフィナは美人だから、人の雄が凄いフィナに視線向けてたりするの、俺はやだけどな。
「魔獣の姿でもいいんじゃないの? やるなら呼んでね!!」
マラノアはにこにことしている。
フィナも俺との仲を認めていて、こんな風に平然としているマラノアの事は少なからず嫌ってはないだろう。フィナに友人は居なかったから、少しずつ手さぐりで接しているようだけど。
「……やるなら母さんの所いってからかな。あそこなら魔獣の姿で婚姻してもなんとかなりそうだし」
「ゼノラシアのお母さん?」
「そう、母さん。人間と契約しているから」
マラノアの疑問に答える。俺は走るのが快感で、走ることしか興味なくて、契約を交わしたのもフィナが初めてだけど、母さんは俺が生まれる前から人の世になじんでいて、知られている魔獣である。俺とか兄妹育てるために人里離れていたけれど、それ以外は基本人の傍に居るはず。
兄貴と、妹のカルノノはどこにいるのか正直わからない。
「兄妹もいるのよね? あってみたいわ」
「……場所分からないからフィナに会わせられるか分からん」
「お母さんはずっと一緒の場所なんだっけ?」
「そう、だから会いにいきやすい」
フィナの言葉にこたえていく。フィナにも少し家族の事を話していた。母さんと最後に会ったのもいつかも覚えていない。大体20年ぐらい前か……? 魔獣として生きていると時間感覚が結構なくなる。
まぁ、でも俺が人間と番になったって話を兄妹たちが聞けば飛んできそうだとは思う。俺は家族に比べて人にあまり興味がなかったから。
「そうなんだー。セラフィナとゼノラシアの結婚式やるならよんでね! 私もセラフィナのドレスみたい」
「……やったらね」
「ギルドで私宛に連絡してくれれば、すぐかけつけるから! というか、セラフィナ、いつまでこの街いるの? 私しばらくいるけど」
「もう少ししたら出るつもりよ。ゼノのお母さんに早く挨拶したいもの」
「そっかー。フィナに連絡するときは、『氷の魔女』宛にしたら届くかな?」
「さぁ? 届くんじゃないかしら」
二つ名がつけられているから、そういう連絡もしやすいのだろうか。正直わからない。それにしても二つ名とか、前世を思い出すと少しわくわくする。昔の俺はそういう二つ名が出てくる漫画とか好きだったから。
「とりあえず『氷の魔女』宛で送るね。セラフィナとゼノラシアは挨拶した後は予定あるの?」
「色々と世界を見てみたいわ。見た事ない景色をゼノと一緒に見たいの」
「そうなんだー。永住はしないんだね? じゃあ、時期とか、場所とかあったら一緒に色々依頼うけようよー。いいでしょ?」
「構わないわ」
なんかフィナがこうして同年代の少女と仲良くしているのは、幼い頃からフィナを見ている身としては嬉しい事だ。これからもフィナと仲良くしてくれればいいと俺はマラノアを見ながら思うのであった。
それから一週間後、俺とフィナは俺の母さんの居る場所まで向かうため街を後にするのであった。




