雷虎を連れた氷の魔女……とは、フィナの呼び名らしい。
ゼノ視点
「あれが……『氷の魔女』か」
「あんなに可愛いのに」
さて、俺とフィナは冒険者ギルドにいる。
冒険者ギルドにフィナが登録してから一週間、その間にフィナと俺は様々な依頼を受けた。フィナは魔法の才能があったのと、俺も一緒に戦っているのもあって魔獣退治も結構簡単にこなせていた。
冒険者ギルドのランクも最下位のFランクから、もう既にCランクになっている。討伐依頼をこなしていたら、それで低ランクだとおかしいといわれてあげられたのである。それにしても冒険者ギルドとか、前世の俺が好きだった物語に沢山出てきていた設定のままである。FランクからSSSまであって、有名になれば二つ名などというものもつけられるのである。
……そして、フィナは猛スピードでランクを上げていっているのもあって『氷の魔女』などと呼ばれている。もしくは、『雷虎を連れた氷の魔女』。フィナが氷の魔法が得意で、それを行使していたらつけられた。あとフィナは綺麗だから、それで有名になったというのもあるのだろう。
フィナが綺麗だから、男たちが騒ぐしなんかもやもやする。フィナは、俺のなのに。フィナに宿で襲われて体の関係も持ってしまった。俺はちゃんとしたところで初体験はしたかったけど、「ゼノ」って色っぽい声で襲われて無理でした。フィナが変身するといったけど、フィナの初体験が獣の姿でというのは俺がやだったので、俺が人化した。……久しぶりの人化で耳と尻尾出ちゃってたけどな!
フィナに告白されるまでフィナの事そういう目で見てなかったくせに、周りの連中がフィナはフリーだとか言って狙ってたりするとやだ。フィナは俺の番なのに。
フィナは今、依頼完了の報告を行っている。俺はフィナの傍に居るわけだけど、『氷の魔女』なんて呼び名が広まっているのもあってフィナがじろじろ見られていて嫌だ。俺がフィナの番だなんて考えていないのに、なんだかなーって思う。
「ゼノ、どうしたの?」
報告が終わったフィナは、俺が不機嫌そうにしているのをすぐに感じ取ったらしく俺に問いかける。フィナが俺に向かって笑いかけるのを見て、周りがフィナを見ているのがなんかやだ。フィナって綺麗な顔をしているのだけど、俺に向かって笑いかけてくれる顔は本当可愛い。
「フィナ、行こう」
俺がそういえば、フィナはそれに頷いて俺と共にギルドを出る。
「ゼノ、不機嫌?」
「フィナの事、皆が見ているのなんかやだ」
宿へと歩きながらフィナにそういえば、フィナはおかしそうに笑った。
「嫉妬してくれているの? 私はゼノしか好きじゃないわ」
フィナは俺がフィナの思いにこたえてからというもの、言われるこちらが恥ずかしいぐらい沢山、俺に思いを告げてくる。
ゼノは素直で、「好きだから好きというのよ」と、躊躇いもせずに想いを口にする。
「でも、嫌だ。フィナは俺の番なのに、フィナを狙っている奴多すぎ」
「ふふ、誰に狙われても私はゼノ以外どうでもいいわ。ゼノだけが大好きなの」
「……知っているけど、俺とフィナが番だって皆思わないからか、俺の前でフィナに近づくし」
ああ、もう自分がこんな心が狭いとか思ってもなかった。百二十年以上魔獣生活を続けてきて初めて……いや、前世も含めるともっとか、初めて番が出来て、執着してしまっている。俺の方がフィナより年上なんだから、もっと余裕を持てた方がかっこいいだろうに、俺は余裕なんて持てていない。フィナが周りに騒がれているの嫌だとそんなことばかり気にしてしまう。
「ゼノ、可愛い」
「……可愛くない!」
「ゼノは可愛いわ。それに、ゼノが嫉妬してくれて私嬉しいもの。私はゼノが魔獣で、そういう目で周りが見ないから嬉しいわ。でも、ゼノはかっこいいから、魔獣の雌が沢山いるところにいったらもてもてなのだろうなって想像するだけでも嫉妬してしまうわ」
「俺、そんなもてないし」
「自覚がないだけだと思うわ。だってゼノは世界で一番かっこいいんだもの」
フィナはそんなことを躊躇いもせずにいう。絶対に過大評価だ。でもフィナにそんな風に言われるのは正直言って嬉しい。恥ずかしいけど、フィナは俺の事を好きだって全面に出してくるから嬉しい。その気持ちが心地よくて、幸せを感じる。
「だからね、人が居る前で人化なんてしないでね。魔獣の姿のゼノをそういう対象にみない女性も、人化したゼノみたらそういう対象に見るかもしれないから」
「……そうか?」
「ええ、そうよ。本来の姿のゼノも、人化したゼノも、ゼノなのに人化したゼノをみて惹かれる女性も多いと思うの。今のゼノもすっごくかっこいいのにね。私、ゼノに異性が近づくの嫌だもの。ゼノは私のだから」
まぁ、前世の人間だった頃の記憶を考えてみると確かに魔獣だとそういう対象じゃなくても、人化した人外はそういう対象であるとか、漫画とかの中で結構あったし、そういうものなのかもしれない。人化は好んでする気もないし、フィナが嫌がっているなら人化なんてしなくていい。
いや、でも人化してフィナと歩いたら俺とフィナが番だって広められるのだろうか……と考えていたら、俺が考えている事がわかったのか、フィナが笑って言う。
「駄目よ。人化なんかしたら嫌よ。ゼノが私と番なんだって大々的に宣言していてばいいでしょう? ね?」
「そうだな」
そんな会話を交わしながら宿についた。
そして翌日、フィナは俺にいった通りに、意図的に俺と番だって広めていって、氷の魔女は雷虎の嫁らしいなどという事が広まっていくのであった。




