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第六話 許すまじ

「くそっ! くそっ! 生意気な小娘が〜〜!!」


教会の敷地内にある自宅へ戻ったドランは、腹立ち紛れに目につくものを片っ端から壁へ投げつけ始めた。


「ふーーっ! ふーーっ!」


ひとしきり暴れて多少落ち着きを取り戻したドランは、聖職者の自室に見合わぬ革張りの高級ソファにでっぷりとした巨体を沈ませる。


おのれ、おのれ、おのれ…………!


今まで受けたことがない屈辱に、未だ怒りが収まらない。


貧乏ゆすりしながら、どうしてくれようかと考えていると──


コンコンとノックの音が響きドアが開くと、使用人がキッチンワゴンを押して部屋へ入ってきた。


年は十代後半。最近勤め始めた使用人の少女だ。


「ド、ドラン様。お食事をお持ちしました」


緊張した様子の使用人に、ドランは舐め回すような視線を這わす。


「……うむ」


ドランはおもむろに立ち上がると、巨体を揺すりながら使用人の少女へ近づき、小柄な体を抱え上げた。


「きゃっ!!?」


「大きな声を出すな。ここではいつものことじゃ」


下卑た笑みを浮かべたドランはそのまま寝室のドアを開け、少女をベッドに投げるように降ろすと、そのまま巨体で覆い被さった。


「い、いや!! 放してください!」


「ええい、大人しくするのじゃ! お前も職を失うのは困るじゃろ?」


「っ!…………」


静かになった寝室に、ベッドがぎしりと軋む音と少女のすすり泣きが重なった。




「おっ、あんなとこにカフェなんてあったっけか?」


「ほんとだ。ラミ、行ってみたいの?」


望まぬ来客があった翌日、ラミリアとヴァンは王都のメインストリートを歩いていた。


「今日はやめとくか。目当ての店があるしな」


最近オープンしたという評判のスイーツ店。そこで販売されているタルトは絶品なんだとか。


ラミリアとヴァンは、時折こうして街に買い物や遊びに出かけることがある。表向きは市井の視察だ。


「姫様こんにちは!」


「ラミリア様、今日も素敵……!」


「王女こんちゃっす!」


ラミリアの顔はすっかり街の人々に知れ渡っている。身分を問わず誰とでも気さくに接するため人気も高い。しかも戦争の英雄である。


「相変わらず人気だよね、ラミは」


「この美貌とないすばでーの賜物だな」


と、そんな会話を交わしつつ街を歩いていると──



「きゃっ!」


向かいからややフラフラしながら歩いてきた少女がラミリアにぶつかり、尻餅をついた。


「おいおい、大丈夫か? ほれ……」


少女を立たせようとラミリアは手を差し出したのだが……。


「いやっ……!」


少女はラミリアが差し出した手を払いのけてしまった。見ると顔色もよくなく、体も少し震えている。ラミリアとヴァンは思わず顔を見合わせた。


「ラミのことが怖いんじゃない? 僕もときどき怖いし」


「あ? 地味に傷つくからやめろし」


尻餅をついたまま二人のやり取りを見ていた少女だったが、目の前にいるのがこの国の王女であるラミリアと気づいたようだ。


「あ、ああ……! 申し訳ございません! わ、私いったい何ということを……!」


自らの無礼な振る舞いを思い出したのか、顔色はさらに悪くなっている。


「気にしなくていいぞ。それより早く立ち上がんな」


引き起こした少女はまだ顔色が悪く、体も小刻みに震えていた。


いや、私そんなに怖いか? みんなの人気者だと思ってたのに傷つくわ。


「ラミ、この子体調がよくないんじゃない? ちょっとそこのベンチに座らせてあげようよ」


なる。体調ね。よかったよかった。いや、よくないか。



ラミリアは少女と隣り合わせで座り、ヴァンは例のスイーツ店へ向かった。


「どうだ? 少しはマシになったか?」


「はい……。姫様、本当に申し訳ありませんでした……」


「もう気にすんな」


肩まである栗色の髪に幼さが残る顔立ち。モテそうな女の子だなー、っとラミリアはそんな印象を抱く。女の子と言ってもラミリアより少し年上なのだが。


と、ヴァンが買い物を終えて戻ってきた。どうやら、目的のブツを手に入れたようだ。


「まだ何とか残ってたよ。よかったー」


ヴァンは紙袋に手を入れると、カットされたタルトをラミリアと少女に手渡す。


「え……私もいただいてよろしいのですか?」


戸惑いの表情を浮かべる少女。


「ああ、遠慮すんな。甘いもん食べりゃ元気も出るってもんだ」


すでにラミリアはタルトにかぶりついていた。


「んんーー! 噂通りうめぇな! あ、そういやあんた名前は?」


「あ、私はカタリナと申します」


乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢みたいな名前だな、と思いつつ、タルトを食べ終わったラミリアは指をぺろりと舐めた。


「いい名前じゃん。この辺で働いてんの?」


「は……はい。その……教会の大司教様の自宅で使用人を……」


タルトを持つカタリナの手が少し震えだす。


「マジかー。あんな奴の使用人なんて大変だな。苦労してんじゃねぇか?」


すると、カタリナの瞳から突然大粒の涙が溢れはじめた。肩を震わせて嗚咽するカタリナ。


「ど、どうした? どこか痛むのか?」


ラミリアはおろおろしながらカタリナの顔を覗き込む。


「ち、違うんです……」


少し泣いて落ち着いたカタリナは、自らの身に起きたことをラミリアとヴァンに話し始めた。


大司教に汚されたこと、若い使用人のほとんどが同じ目に遭っていること、被害者のなかにはシスターもいること、そして今夜もまた部屋に来るよう言われていること。


思い出すとまた悲しく、悔しくなったのか、再び彼女の頬を涙が伝った。


すべてを聞き終えたラミリアが立ち上がる。


「……ヴァン、行くぞ」


「えっと……どこへ?」


「あの豚をぶった斬る」


完全に怒りモードに入ったラミリア。


「待ちなよラミ。さすがにいきなり大司教を斬ったとなると問題だよ。それよりも……」


ヴァンはラミリアの耳に顔を近づけ何やら耳打ちした。


「…………なるほど、そりゃいいや。()()()の力を借りるのは癪だがな」


しばらく顔を合わせていない()()()の顔を思い浮かべる。


「よし、カタリナ。あたいたちに任せとけ。絶対に悪いようにはしねぇ。それでな……」


ラミリアはカタリナに一つ指示を出した。


黙って静かに頷くカタリナ。



「覚悟しやがれよ成金豚野郎……」


ラミリアはギラギラした目を教会の方角に向けると、小さな声で呟いた。


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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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