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第五話 聖職者

宗教的に人々を教え導く役割を担う者を聖職者と呼ぶ。助祭や司祭、司教などが該当し、もちろん大司教も立派な聖職者である。


聖職者といえば、贅沢をせず質素な生活を送り、身なりが地味で性格的にも落ち着いた人格者、といったイメージを抱く方が多いのではないだろうか。



否。



今、私の目の前にいるのはどう見ても質素や地味、人格者とは程遠い成金豚野郎だ。


装飾の限りを尽くした派手な宗教服を纏い、指には大きな宝石をあしらったゴツい指輪、そのうえ流行りのくっさい香水まで振りかけてやがる。



「ずいぶん遅かったですな、ラミリア様」


しかも、生意気にこの豚は人の言葉を話す。


「ああ、これでも王女だからな。いろいろ忙しいのさ」


軽く嫌味を放った大司教に対し、ラミリアはいけしゃあしゃあと嘘で返す。


エルミア教の大司教、ドランはでっぷりとした巨体をソファに埋めたまま、ラミリアの胸元を舐めるように視線を這わせた。



「あー、そう言えば昨日ここに来た客の一人が私の胸をやたらジロジロ見るもんだから、思わず半殺しにしちゃいましたよー」


肩を組むようにソファの背もたれに両腕を置いたラミリアは、顎を少し上げ見下ろすような視線を飛ばす。


途端に慌て始めるドラン。


それくらいで焦るくれーなら最初から見るんじゃねーよ。



「あ、ちなみにその客って勇者ですけどね」


「なっ……!」


まさかの発言にドランは絶句する。



「な、なんということを! 勇者様は魔王を倒す使命をもつ超重要人物ですぞ!」


「仮にも王女の乳をジロジロ堪能した挙句、背後から抜剣して斬りかかってきたんですけどねー。本来なら処刑っすよアレ」


ラミリアは瞳に多少の怒気を込めてドランを睨むと、悪びれずに言い放った。


まあ、散々煽ってそう仕向けたのは私だが。



「な、何を言う! 勇者様を処刑などと何と恐れ多い……!」


「あーー、まあそれはもういい。で、大司教。今日は何用で?」


若干イライラし始めたラミリアは、この不愉快な面会を早々に終わらせるべく用件を聞こうとした。



「く……! 言いたいことは山ほどあるわ! そなた、また戦場に出たそうではないか!」


「国一番の使い手が戦場に出て何か不都合が?」


うんざりとした表情のまま簡潔に答えるラミリア。



「そ、そなたは聖女なのじゃぞ!? 何かあったらどうするのじゃ! それに、勇者様からのパーティ加入の打診も断り続けているそうではないか!」


「ええ、興味ないんで」


「き、教会の洗礼で聖女と認定されたのじゃぞ!?」


「だから?」


興奮して顔を真っ赤に染めたドランは、怒鳴りすぎて喉が渇いたのか冷めた紅茶を一気飲みした。



「教会の……いや、神の意思に逆らうというのか……?」


「あのなぁ。昨日あのむっつり勇者にも言ったけどな、そもそも魔王の被害なんてねぇだろうがよ。いったい何と戦わせるつもりなんだよ」


イライラが頂点に達しかけているラミリア。すでに言葉遣いも素が出始めている。



「魔王は教会が定めた人類の敵じゃ! そして、勇者様が現れたということは魔王が誕生したということ! 聖女は勇者様に付き従い魔王を討伐する義務を負うのじゃ!」


「はぁ。話にならねぇ。なんであたいがそんな義務負わなきゃなんねーんだよ。そんなに魔王を倒したきゃてめーらや勇者どもだけでやりゃあいい。あたいを巻き込むんじゃねーよ」


ラミリアは組んでいた足をほどくと、やや前のめりになってドランを睨みつけた。


ドランは相変わらず怒りで顔が茹でダコのように真っ赤だ。ハゲだからなおさら茹でダコに見える。


怒りのあまりぷるぷると体を震わせるドラン。



「あたいにとっちゃ魔王討伐だの神の意思だのはまったく興味ねーのよ。分かったらさっさと帰りな」


ラミリアはドランから顔を背けると、虫でも追い払うように手をひらひらと振った。



「き、き、貴様あああーーー!」


刹那──



目にも止まらぬ速さで鞘から抜き放たれたラミリアの愛剣が、ソファから立ち上がろうとしたドランの首筋に突きつけられた。


「誰にキレてんだこのハンパもんがよぉ……! あたいにヒカリモンまで抜かせやがって……。てめぇらまとめてゼンゴロシにしてやろうか、ああ?」


「誰に怒っているんですか半端な人ですね。私に刃物まで抜かせて。あなたたち、まとめて皆殺しにしましょうか? と姫は申しております」


ラミリアの背後で護衛についていたヴァンがすかさず通訳する。


「な、ななななー……!ななな……!」


ななななーってジョ○マンかてめーは。


ラミリアは一つ大きく深呼吸すると、ドランの首筋に突きつけていた愛剣を鞘に収めた。



「おい。教会がいくら権力持ってよーがな、あたいにとっちゃ知ったことじゃねー。ムカつく奴は誰であろうが叩き斬るだけだ。てめーでも勇者でもな」


鞘に収めているとはいえ、片手に剣を携えたままのラミリアに睨みつけられドランはもはや何も言えない。


額からは滝のように汗が流れ、足は微妙に震えていた。



「あたいに対する不敬は今回限り許してやる。次またあたいをムカつかせたら、そのときは行く道行くかんな」


そう言い残すと、ラミリアはヴァンを伴い応接室をあとにした。



「く……くぅっ……! 小娘が舐めおって〜……! この屈辱、絶対に忘れぬからなぁ……!」


ギリギリと歯を噛み締め、ドランは応接室の扉を睨みつけた。


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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァンのヤンキー語通訳が皮肉にも、相手の神経を逆撫でする煽りになってるのが愉快痛快ですねw
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