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第四十二話 三つの二つ名

「というわけで、ラミは魔女に認定された」


スーリアは報告を受けた内容を端的にまとめてラミリアへ話した。黙って話を聞いていたラミリアだが、どことなくおろおろとした表情を浮かべる。


「ど、どうしたのラミ?」


隣に座るヴァンが心配そうに声をかけた。


「いや……こんなときどんな顔をすればいいのか分からなくて……」


「……笑えばいいと思うよ」


「ぶふぉっ!!」


某アニメの名シーンを丸パクリしたヴァンの言葉に思わず噴きだしてしまうラミリア。その様子をスーリアは不思議そうに眺めている。


「て、てめぇヴァン……こんなときに笑わせやがって……これからヴァンじゃなくてエヴァンって呼ぶからな……!」


二人して笑い転げる様子にスーリアは戸惑いを隠せない。というか、このような状況下で笑える二人の胆力に今さらながら驚いてしまった。


「ラミ、笑いごとではないぞ。シルベリアの国教であるジュリエスタ教がお前を魔女と認定したんだ。シルベリアが魔女を討伐すると各国に働きかける可能性もある」


「ああ。それはちと面倒だな……それにしても……」


「それにしても?」


「聖女に剣聖、さらに魔女か。二つ名が三つになっちまった」


思わずソファからずり落ちそうになったスーリアは、じろりとラミリアを睨みつける。


「まじめに考えろラミ。本当にどうするつもりだ?」


「ごめんごめん。まあいきなり戦争に突入、ってことはないだろうよ。シルベリアが各国に働きかけたところで、しばらくはお互いの動きを様子見するんじゃねぇかな」


「む……」


「うちに攻め込んだはいいものの、背後から別の国に攻め込まれる、なんてこともあるわけだし。まあ、真っ先に攻めてくるとすればシルベリアと帝国あたりか」


「そうだな……シルベリアはまず間違いなく戦争の準備をしているだろうな。ジュリエスタ教の法皇が自ら魔女を討伐すべしと訴えているくらいだし」


顎に手をやり考え込むスーリア。


「それにしても、どうしていきなりラミリアが魔女認定なんてされたんだろ? そのあたりは分かっていないの、スーリア?」


ヴァンから問われたスーリアがふるふると首を左右に振る。


「さっぱりだ。ジュリエスタ教の法皇とは面識もあるが、何の理由もなく一国の女王を魔女認定するとは考えられない」


「ということは……誰かが裏で手を引いている?」


「……その可能性はなきにしもあらずだ」


深刻そうな表情を浮かべるヴァンとスーリアに対し、ラミリアはニヤニヤといやらしい視線を向ける。


「……何がおかしいんだラミ?」


「いや、スーちゃんとヴァンは相変わらず仲がいいなーって」


「ば、ばば……ばかなことを言うな! そ、そんな……仲良しなんて……」


「めちゃくちゃキョどってんじゃん」


「う、うるさい!」


「はいはい、ラミもスーリアもそこまで。今はそんなくだらないこと言ってる場合じゃないでしょ」


ヴァンがうまく場をまとめたものの、スーリアの顔は真っ赤である。それを見て再びニヤニヤとするラミリア。


「まあ、シルベリアや帝国が攻めてくるとしてもすぐじゃねぇだろうし、とりあえずは軍備をしっかり整えるとしようじゃねぇか」


ラミリアの言葉にヴァンが頷く。


「情報収集は私に任せろ。他国にも密偵は放ってある」


「お。さすがスーちゃん。そっちは任せるわ」



――静寂が支配する空間のなか、戦いの女神像へ跪き祈りを捧げる一人の女性。ジュリエスタ教の法皇ミザリー・ユシルである。


「……戦いの女神ジュリエスタ様。どうか我らにご加護を……」


と、背後に気配を感じたミザリーはゆっくり振り返ると、その顔を見てほっと息を吐いた。


「ああ……あなた。また来てくださったのね」


「当然じゃないですか。あなたと私は一蓮托生なのですから」


美しい顔に笑顔を携えた少年は、法皇ミザリーに近寄りその細い体を抱きしめた。


「い、いけません、こんなところで……誰かに見られたら……」


「ふふ、大丈夫ですよ。近くに誰もいないのは確認済みですから」


「で、でも……」


「嫌なら今すぐこの腕をほどいてこの場所から消えましょうか? いえ、何ならこの国から……」


「そ、そんな! 嫌なはずなんてありません! そんな残酷なことを言わないでください……!」


ミザリーはその大きな瞳に涙を浮かべて懇願する。


「……嘘ですよ。言ったじゃないですか、一蓮托生だって。私にはあなたが必要なんです」


「本当ですか……?」


「ええ。あの魔女を倒すにはあなたや教会の力、ひいてはこの国の力が必要だ」


「……必要なのは私たちの力だけですか?」


美しい顔をした少年は、自分よりわずかに背が高いミザリーに顔を近づけるようジェスチャーする。


「ん……んんっ!」


不思議そうな表情を浮かべて顔を近づけてきたミザリーの唇を、少年は唇で塞いだ。ミザリーの体から力が抜ける。


「力だけではありませんよ。あなたそのものが必要なんです」


至近距離で真剣な目を向けられ、ミザリーの心臓は今にも爆発しそうだった。


「あの魔女を倒さない限り私たちに幸せは訪れない。どうか協力してほしい。そして、それが成った暁には私と一緒になってほしい」


「ほ、本当に……? でも、私聖職者だし……」


「そんなの関係ありませんよ」


大粒の涙を零すミザリーに、少年は優しい目を向ける。再び二人は抱き合った。いつまでも涙を流し続けるミザリー。一方、少年の美しい顔は醜悪な笑みで歪んでいた。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


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