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第四十一話 魔女

刺客の斬撃を片手で受け止めたラミリアは、冷たい色を宿した瞳で男を睨みつけた。


「くっ……!」


即座に距離をとろうとした刺客だったが、ラミリアがそれを見逃すはずもなく神速の抜刀で男の片腕を斬り飛ばした。


「ぎゃあああああっ!!」


肩口から血を噴き出しながら転げまわる刺客へ近づくラミリア。男の腹を足で踏みつけ喉元に刀を突きつける。


「おい。こりゃお前の独断か? それともシルベリアの意志か?」


ラミリアに見下ろされる格好の刺客は息を荒くしながらもラミリアを睨みつけた。その瞳には恐怖だけでなく怒りの色も垣間見える。


「ぐ……この……魔女め……!」


「……魔女?」


「……そうだ! 女神ジュリエスタの託宣により貴様は魔女に認定された! 我々は貴様を聖女などとは認めない!」


謁見の間に広がるどよめき。エルミア教の聖女に認定された聖女であり女王でもあるラミリアが、他国の国教とはいえ魔女に認定されたというのは大きすぎる衝撃である。


「……ヴァン!」


「はっ」


ラミリアのすぐそばに控えていたヴァンが頭を下げながら短く返事する。もちろん人前だからだ。


「地下牢へ叩き込んでおけ。あっちの二人も一緒にな」


「……始末しなくても?」


「ああ。何か雲行きが怪しいからな。情報も聞きだしたい」


「かしこまりました、女王陛下」


ヴァンが合図すると、抜剣した衛兵たちが弾かれたように刺客のもとへ殺到した。たちまち縄で縛りあげられる刺客たち。引っ立てられる最中もラミリアへの罵詈雑言は止まなかった。



──エルミア教の教会では、教皇スーリアが「目」からの報告を受けている最中であった。


「……もう一度言ってもらえるか?」


静謐が支配する空間にスーリアの声が響く。その声に戸惑いが含まれているのは誰の耳にも明らかだった。


「は。隣国シルベリア聖王国の国教であるジュリエスタ教がラミリア女王を魔女と認定。法皇自ら魔女を討伐すべしと信徒を煽っています」


「…………」


「さらに、ジュリエスタ教は新たな聖女や勇者を擁立。人類を守ると喧伝し信徒を増やそうと活動を活発にしています」


スーリアは思わず歯噛みした。まさに晴天の霹靂。ジュリエスタ教がそのような行動に出るとは思いもよらなかった。


しかし何故? ジュリエスタ教の法皇、ミザリー・ユシルとは面識もある。私と年が近い女性で温和な人物だ。宗教同士の関係性はそれほど良好ではないものの、このような暴挙に出るような人物ではない。


苛立ちから思わず親指の爪を噛んだスーリアは、あることを思い出しハッとした。


「おい、たしか今日はシルベリアの使者が女王へ謁見する日ではなかったか?」


「は。仰る通りです」


と、教皇の間へ火急の報せを告げる密偵が駆け込んできた。


「申し上げます。王城にて謁見中だったシルベリアの使者がラミリア女王を暗殺せんと襲撃しました」


「なっ……! ラミ……女王は無事なのか!?」


「は。女王自ら刺客の片腕を斬り落とし、全員を捕縛したとのことです。女王にお怪我もありません」


「そ……そうか」


御簾の奥で胸を撫で下ろしたスーリア。よく考えたらラミリアがその辺の刺客に遅れをとるわけはないし、近くにヴァンも控えてるはずだからなおさら危険はない。


ただ、問題は今後だ。目からの報告が正しいのであれば、魔女に認定されたラミリアを亡き者にせんとジュリエスタ教の信徒がイングリドに入り込むおそれがある。


街中に多くの目を放ってはいるものの、大勢のジュリエスタ信徒を見張るのは至難の業だ。


ラミが王城でおとなしくしていてくれればいいのだが、それはあまり期待できない。おそらくラミは女王になっても今まで通り街に繰り出すだろう。


剣聖ラミリアに国軍最強の剣士ヴァン。この二人でも不意打ちを喰らえば不覚をとらぬとは限らない。


問題はまだある。エルミア教が聖女と認めたラミリアを魔女認定したということは、エルミア教との対立姿勢を明確にしたということ。


このままでは信徒同士が争いを始めるおそれがある。いや、それよりもシルベリアの対応次第では戦争にも発展するだろう。


「ちっ……頭が痛いな」


スーリアは正座したまま天井を見上げる。さて、どうするか。厄介なことに奴らは勇者や聖女まで擁立している。戦争になれば他国はシルベリアにつく可能性が高い。慎重かつ迅速、誤りのない行動をとらなくては。


「シャロン枢機卿、馬車の用意を」


「猊下、どちらへ?」


「王城だ。女王のもとへ向かう」


「かしこまりました」


シャロン枢機卿が頭を下げて教皇の間をあとにする。それにあわせるように目たちも退室した。



──イングリド王城ではすでにシルベリアへの対応について会議が開かれていた。国の中枢を担う重鎮たちが集まり激しい議論の真っ只中である。が、そこにラミリアの姿はなかった。


「姫さまぁ……あんなことがあったのにここでゴロゴロしてていいんですか?」


ラミリアにジト目を向けて苦言を吐くのは専属侍女のバレッタ。視線の先にはベッドに寝転がりゴロゴロしているラミリアの姿。


「あー。あたいがいてもなー。多分もうすぐ一番の事情通が来ると思うしさ」


枕を抱いてベッドの上をゴロゴロと転がるラミリアに、バレッタとヴァンは呆れた目を向ける。こんな女王は世界中探してもいないと思う。と、そこへ──


「姫さま。スーリア教皇猊下がお見えになっています」


専属侍女の一人カタリナの背後から現れたスーリアは、ラミリアの顔を見てほっとした表情を浮かべる。が、それを見透かされないようすぐ無表情になった。


「ラミ。大変だったようだがゴロゴロしてていいのか?」


「いーんだよ。スーちゃん待ってたんだしな。っこいしょっと」


ベッドから降りたラミリアはスタスタとソファへ近づくと、ヴァンの隣に腰をおろした。


「ここに来たってことは何か知ってんだろ? スーちゃん?」


「……ああ」


真剣な表情でラミリアを見つめるスーリア。重苦しい話になりそうだ、と感じたヴァンが窓の外を見やる。太陽を黒い雲が覆い隠し今にも雨が降りそうだった。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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