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第三十三話 ストーカー?

「…何だと? それは本当か?」


「は。マッシュは重傷、ほかの者は全員死にました」


王城に張り巡らせている「目」からの報告を受けたスーリアは、眉間にシワを寄せたまま頭のなかを整理した。


報告の要点をまとめるとこうだ。ラミがアリシアを逃がそうとしたのを目が目撃、そのことをマッシュに伝えた。マッシュはアリシアを処分すべく、配下を連れて先回りし森のなかで襲撃した。


が、突如現れた得体の知れない少女が放った一撃の魔法でマッシュたちは全滅。雷系の魔法で四人が即死、マッシュも生きているとはいえ虫の息とのこと。


ここまで詳細な情報を取得できた理由は、マッシュにも目が張りついていたからだ。マッシュが任務を全うできるかどうか、茂みに潜んで監視していた目はそこで一部始終を見たわけだ。


「ご苦労。下がっていいぞ」


親指の爪を噛むスーリア。報告によれば、アリシアを助けたのは黒いワンピースを着た美少女とのこと。しかも、アリシアに魔族と告げたらしい。


黒いワンピースを着た美少女の魔族。スーリアの頭にルナマリアの姿が思い浮かぶ。


「はぁ……やはりルナマリアか。偶然だとは思うが余計なことを……」


まあ、王女を暗殺しようとした挙句失敗し、その本人から温情をかけられ逃がしてもらったのだ。おそらくだが、これから先あの女がラミの害となることはあるまい。それに、その気になれば居場所はいつでも掴める。害となるならそのときこそ殺してしまえばいい。


立ち上がったスーリアは専用の一人用ソファへ体を預け目を閉じた。あとはこのままラミが女王となり、いずれは……。


ここしばらく激務が続いていたこともあり、スーリアはそのまま眠りに落ちた。



――イングリド王都の商業街。そのメインストリートを連れ添って歩く二人の男女。数日後には女王になるラミリアと護衛のヴァンである。


「ねえラミ。こんな大切な時期に遊んでていいの?」


「はあ? 遊んでねぇし。街の治安を守るために見回りしてんじゃねぇか」


そう口にするラミリアの手には、先ほど屋台で買った串焼きが二本も握られていた。完全にただの食べ歩きである。


「いや、街の治安を守るのは治安維持隊や衛兵の仕事だから。王女様がやることじゃないから」


「んぐんぐ……うるせぇな……小せぇこと言ってんじゃ……ああっ!!」


串焼きを頬張りつつヴァンと小競り合いしながら歩いていたため、うっかり串から肉が一つ抜けて地面に落ちてしまった。


「何てこった……ハードラックとダンスっちまったわ」


「また古いネタを……」


呆然とするラミリアに呆れた視線を送るヴァン。


「三秒ルールありかな?」


「マジでやめなよ? 仮にも王女様で聖女様、剣聖様なんだから。街で拾い食いしてたって噂が広がるかもよ」


「そりゃまずいな……」


と、そんなやり取りをしつつ街を散策していたのだが……。



「なあ、何人だ……?」


「ん……多分一人……?」


先ほどからあとをつけてくる輩がいる。ずいぶんへたくそな尾行だからプロではない。まあ尾行目的ではなく襲撃するつもりならそれも頷けるが。


二人はあえて人通りが少ない路地裏に入った。襲撃するならもってこいのシチュエーションだ。さあ、来るなら来いと刀の柄に手をかけるが……。


「あれ……?」


襲撃される気配はまったくない。二人同時にそっと振り返ると、壁際に隠れてちらちらとこちらを窺う者の姿が目に入った。どう考えても襲撃を企てているようには思えない。


「おい! あたいらに何か用か!?」


しびれを切らしたラミリアが大声で呼びかけると、尾行していた者が恐る恐る姿を現した。年はラミリアたちよりやや下だろうか。端正な顔立ちをした少年である。


「あ、あ、あの……剣聖ラミリア……だよね?」


「ん? ああ、まあそうだけど……お前は?」


もじもじしながら恐る恐る尋ねる少年をラミリアはじっと見る。睨まれていると思ったのか、少年は「ヒッ」と小さく悲鳴を漏らし再び壁に隠れてしまった。


「取って喰いやしねぇよ。何かあたいに用か? 用がねぇならもう帰るかんな」


若干イラッとしたラミリアが少し声を荒げると、再び少年は姿をさらした。


「あ、あの、僕、剣聖ラミリアにとても憧れていて……!」


「あ? そうなの? そりゃどうも……」


「さっき剣聖ラミリアが通りを歩いているのを見て、つい居ても立っても居られなくて、あとをつけてきちゃいました……」


発想と行動が犯罪者臭い。転生前の世界なら通報もんだわ。


「しかも、国軍一の剣士ヴァン将軍まで……何とかお話できないかなって思って……」


どうやら悪気はなさそうである。悪気がなくともこっそり人のあとをつけるのはどうかと思うが。


「んー-……どうする、ヴァン?」


「時間はあるし、この子も連れて一緒にお茶でもする?」


「い、いいんですか!?」


目をキラキラと輝かせる少年。よく見るとなかなかの美形である。


「まあ、ここで出会ったのも何かの縁だ。いいぜ、お茶くらいなら」


「あ、ありがとうございます!」


そこいらの町娘なら一撃でノックアウトされそうな美少年スマイル。眩しい。


「えーと、名前は?」


「カインです! よろしくお願いします!」


「ああ、知ってると思うがあたいはラミリア、こいつはヴァンだ」


こうして、ひょんなことから知り合ったストーカー、もといカインを加えた三人でお茶をすることになったラミリアたちであった。

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[一言] ンンン、ただのファンですな
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