第三十話 女王様
次期国王を決める会議は紛糾したものの、教皇スーリアの登場によって急転直下の結末を迎える。スーリアは会議に参加したすべての者の前で、教皇と教会がラミリアを女王に推すと宣言したのであった。
「えええええ!? ラミ、女王様になるの!?」
「いやルナマリア、その言い方は何か怪しいからやめろし」
ソファにちょこんと腰掛け叫び声をあげたルナマリアに、ラミリアはじろりと視線を向ける。
国の重鎮が一堂に会した会議の場は、散々紛糾した挙句教皇スーリアの臨場で急転直下の結末を迎えた。
イングリドの軍事国家化を進めたかったフランドル将軍派も、スーリアの言葉に従いラミリアを女王に推すと決めたようである。
何せ、フランドル将軍自身がエルミア教の熱心な信徒なのである。雲の上の存在である教皇の言葉に逆らうことなどまずできない。
なお、ロジャーが謀反を起こしたとき国境近くで帝国軍と睨み合っていたフランドルだが、帝国軍が撤退したため王城に帰還し事件を知ることになる。
一方、第一王子ルドの嫡男ラルゴを国王にしたかったアリシアは、最後まで納得のいかない顔をしていた。
会議が開かれた広間から退室する際も、涙を浮かべた目でラミリアを睨みつけながら足早に去っていった。
「まったく……スーちゃんも何考えてんだよ……」
大きなため息を吐くラミリア。そのスーリアはラミリアの向かいにルナマリアと並んで座り、優雅に紅茶を楽しんでいる。
「ん? あの場で言った通りだぞ。私も教会もラミを女王に推す」
カチャリとカップをソーサーに戻したスーリアがこともなげに言い放つ。
「いや、だから何でだよ。ヤダぞあたいは女王なんて。マジめんどくせぇ」
「ラミ。この国を取り巻く状況は決してよくはない。ただでさえよくない状況だったのに、国王が亡くなられた。これを機とみる国は帝国だけではない」
「そりゃそうだが……ならなおさらあたいじゃなくフランドルのほうがいいんじゃ……」
「あの男はただの戦争屋だ。国を任せるほどの器はない」
熱心な信徒に何て言い草だ、とラミリアは呆れてしまう。だが、たしかにフランドルは戦争にこそ強く人望もあるが、王の器かどうかと問われると疑問だ。
「うーん……でもなぁ……」
「ラミ、事は急を要するのだ。こうしているあいだにも周辺各国はイングリドを虎視眈々と狙っている」
「そう……だよな」
「教会もできる限りの手助けをする。私自身もラミの暗部となって支えよう。この国のため、人々のためどうか立ってくれ」
スーリアにここまで言われて突っぱねるのはさすがのラミリアにも難しい。散々悩んだ挙句、女王として立つことを決断したのであった。
「計画通り、ですか?」
王城からの帰り。馬車の中で目を閉じたままのスーリアにシャロン枢機卿が問いかける。
「ああ……とりあえずはな。が、ラミが王位に就くことを面白く思わない輩もいる」
「そうでしょうね。特に第一王子の正妃アリシア……」
「そうだな。愛する息子を王位に就けるためなら何でもするだろうな。それこそラミを暗殺しようとするかもしれない」
まあ、そんなことできるはずないのだが。王城にはいくつもの目を張り巡らせているし、ラミのそばには常に国軍最強の剣士と誉高いヴァンがいる。
何よりラミ自身が剣聖と評される武の達人なのだ。生半可な刺客ではかすり傷さえ負わせられないだろう。
それに、ラミやヴァンが本当に危ないときは魔王ルナマリアが助けるはずだ。が……。
「ラミの手を煩わせるわけにはいかない。分かるな、枢機卿?」
スーリアは蒼い瞳をスッとシャロンに向けた。
「……御心のままに」
言葉の端々から明確な強い意思を感じたシャロン枢機卿は、座ったまま深々と頭を下げた。
「……ふざけるんじゃないわよ! どうしてラルゴが王位に就けないのよ! 何なのよ……!」
王城の別棟にある自室へと戻った第一王子妃アリシアは荒れに荒れていた。
突然夫を失った悲しみはあったが、それ以上に愛する息子が王位に就くチャンスが巡ってきたのだ。が、その芽はあっさり摘まれてしまった。
王女ラミリアを推す一派が現れ、さらに絶大な影響力をもつエルミア教の教皇がラミリアの女王就任を後押ししたのである。
このままではラミリアが女王に就任してしまう。そうなれば私もラルゴもどうなるか。ここに居場所がなくなるかもしれない。
そもそも私は義妹があまり好きではない。子どものころから剣聖とちやほやされ、陛下や王子、国民からもこの上ない愛情を注がれてきた女。
戦争に出れば活躍して英雄と呼ばれ、街を歩けばその美貌に誰もが振り返る。
何もかも持って生まれたいけ好かない女。そこへ来てさらに息子から王位まで奪おうとしている。そんなこと許されるわけがない。
「……マッシュ、何かいい方法を考えなさい」
「いい方法、と仰いますと……?」
第一王子の側近であり護衛でもあったマッシュがアリシアへ鋭い視線を向ける。
「分かりきっているでしょ!? ラミリア王女を排除する方法よ!」
「アリシア様、言葉に気をつけられよ。もしそのようなこと誰かの耳に入れば……」
ラミリア自身はこれといって国政にもかかわらずのんびりと暮らしているが、彼女を信奉する者は大勢いる。カリスマ性だけなら前国王をも凌ぐのだ。
「で、でも……!」
「それに、今ラミリア王女に害をなせば、間違いなく疑いの目はアリシア様に向くでしょう。そうなれば、今度こそラルゴ様が王位に就ける芽はなくなってしまう」
「そ、それはたしかにそうだけど……」
「とにかく、私が疑われずにラミリア王女を排除する方法を考えます。アリシア様は決して軽々しく行動を起こさないように。いいですね?」
「わ、分かったわ……頼りにしているわね、マッシュ」
「報告せよ」
静寂が支配するエルミア教の教会本部、教皇の間にスーリアの声が響く。
「は。第一王子ルドの正妃、アリシアはやはりラミリア王女の暗殺を企てようとしているようです」
「ふむ。分かりやすい女だな。具体的な方法や日時は?」
「そこまでは決まっていません。状況を考えれば、そこまで性急に行動を起こすことはないでしょう」
「よろしい。では、引き続きアリシアの監視は頼んだぞ、マッシュ」
「ははっ」
教皇スーリアの忠実なる腹心であり聖騎士でもあるマッシュは、恭しく頭を下げると踵を返し教皇の間から退室した。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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