表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/49

第二十八話 憂鬱

頭のなかに霧がかかっているような感じ。足元もふわふわしているような気がする。


ん? あいつさっきあたいのこと狂犬って言ったか? こんっなに可憐で儚いJKつかまえて何言ってやがんだ……。


思い出したらイライラしてきた。ん? 誰がそんなこと言ったんだっけ? んーー??


あ。思い出した──



「ねえ。何かラミうなされてない?」


「まあ、戦場で見慣れてるとはいえ家族のあんなとこ見ちゃったらね……」


眠るラミリアの顔に視線を向けるヴァンとルナマリア。寝息に混じってときどき唸るような声が聞こえる。と、そのとき──


「タケルーーーー!!」


「うああああっ!!?」


突然、カッと目を見開き叫びながらガバッとベッドから半身を起こしたラミリア。


そばにいたヴァンとルナマリアは驚いて思わず後ろずさる。


「……あ? ヴァンにルナマリア……?」


「ラミ、しばらく眠ってたけど体はどう? てかタケルって……」


「ああ……ちょいダルいが問題ねぇ。何だ夢か……ずいぶん懐かしい夢見たな……」


僅かな時間ぼんやりとしたラミリアだったが、次第に頭の中がクリアになってきたのかみるみる顔が険しくなる。


「……そうだ! 兄さ……クソ兄貴はどうした!?」


「……亡くなったよ」


ヴァンの言葉にラミリアの目が一瞬驚きに見開かれる。


「そうか……ヴァンが斬ったのか……?」


「いや……ロジャー王子が連れてきた兵士の一人に斬られたんだ」


「あ……? 何だそりゃ?」


ヴァンとルナマリアは、ラミリアが眠ったあとに起きたことをかいつまんで説明した。何やら考え込むラミリア。


分からないことだらけだ。兄貴が陛下に不満を抱いていたのは何となく理解できる。だが、だからと言って謀反を起こすような短絡的な人物ではない。


それに兄貴が口走ったという「あの方」とはいったい……? おそらくだがそいつが今回の件に深く関わっている気がする。


「……そうだ。兄貴を斬ったという兵士は何者なんだ?」


「それが……捕らえたロジャー配下の兵士に聞いても分からないんだ。誰も知らないって」


「……そうか」


おそらく「あの方」なる黒幕が兄貴を監視するために潜り込ませた間者だろう。手が込んでやがる。


ちなみに、今王城は蜂の巣をつついたような騒ぎの真っ只中だ。陛下に王妃、王位継承権をもつ王子が殺されたとなりゃ仕方がない。


突然父と母、兄たちを失うことになったラミリアだが、不思議と悲しみはあまりなかった。そもそも、幼いころから乳母や侍女に世話されて育ってきたので、父や兄たちにそこまで家族らしい感情を抱いてない。


と、ノックの音が室内に響く。念のためヴァンが警戒しながらドアを開けると、侍女のバレッタが客人を伴い入ってきた。


「姫様。スーリア様がおいでになっています」


「みたいだな」


今日のスーリアは全身黒っぽい服でコーディネートしていた。涼しげな顔立ちのスーリアにシックな装いはよく似合う。


「ラミ……大丈夫か?」


「ん? 別にケガはしてねーよ。眠らされただけだしな」


「そうか……だが、突然家族を失ったんだ……その悲しみはどれほどのものか……」


ラミリアのそばに座ったスーリアは、少し俯いて目を伏せた。


「大丈夫だってスーちゃん。王族は内からも外からも常に命を狙われる。それは陛下自身が口にしていたことだ」


「…………」


「それに、王族は普通の家族とは違う。あたいがガキのころからバレッタやヴァンと一緒に育ってきたことはスーちゃんも知ってるだろ?」


「そう……だな。それに、しばらくこの国は大変だ。ラミもその渦中にいる」


スーリアは顔を上げると、蒼い瞳で真っ直ぐラミリアを見つめた。


「ああ。クソ面倒くせーけどな」


国王たちの葬儀にロジャー一派の捜査、粛正、やることは山ほどある。そしてそのあとは、新たなこの国のトップを決めないといけない。


二人の王子が死んだため正当な王位継承権者はいなくなった。なお、この国において王位継承権は男子にしかない。


順当にいけば次期国王は第一王子ルドの息子だが、たしかまだ三歳だったはず。


「……納得いかない奴らも出てくるだろうな」


ラミリアはベッドで半身を起こしたまま天井を見上げる。


「荒れることは間違いないだろう」


スーリアはラミリアの横顔を黙って見つめる。蒼く冷たい瞳からは何の感情も読み取れない。


「まあ、なるようになるだろ」


よっこらせ、っとベッドから降りたラミリアの手をバレッタがとる。とても気がきく侍女である。


「姫様、お茶をお淹れしましょうか?」


「ああ、頼む」


バレッタに短く返事をしたラミリアは、上着を羽織るとそのままソファにどかっと腰掛けた。


「……ん? そういや、兄貴はもっとたくさん兵を連れてきてたはずだけど、そいつらどうしたんだ?」


「ああ、もう全員確保してあるよ。二千人くらい」


「結構連れてきたな。てかそいつら何で大人しくしてたん?」


「ルナマリアのおかげだよ」


あのとき、王城へやってきたルナマリアは何やら不穏な空気に気づいた。こっそりラミリアの部屋へ行ったものの鍵がかかっている。


が、軽く力を込めると鍵が壊れ中に入れたらしい。バレッタたちから騒動を聞いたルナマリアは、外で剣呑な空気を纏っていた兵士たちが騒ぎに関連していると直感した。


そこで、念話を使ってドラゴンを数頭呼び寄せ兵士たちを取り囲んだらしい。兵たちはさぞかし生きた心地がしなかったことだろう。


なお、あのときヴァンが聞いた隕石が落ちてきたような音はドラゴンが降り立った音である。


ロジャーが死んだあと、ルナマリアを伴ったヴァンが城の外に出て、城の衛兵とともにロジャー軍の兵たちを確保したとのこと。



「相変わらずすげーなルナマリア。てか、ヴァンとあたいを助けてくれたんだよな。ありがとう、ルナマリア」


「んーん。マブダチを助けるのは当たり前でしょ?」


にっこりと愛らしい笑みを浮かべるルナマリア。小悪魔スマイル炸裂である。一方、スーリアが一瞬表情を曇らせたのをラミリアは見逃さなかった。


「スーちゃんもありがとうな。わざわざ来てくれて」


「わ、わ、私は別に……ラミのことが心配とかじゃなくてだな……!」


途端に慌て始めるスーリアに、ヴァンとルナマリアは思わず笑いそうになる。



「さて……しばらく忙しくなりそうだな」


照れるスーリアから視線を外したラミリアは、怒涛の日々が始まる予感に深いため息を吐いた。

ブックマークや評価をいただけると小躍りして喜びます♪ (評価は↓の⭐︎からできます)

「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ