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閑話 狂犬

「ひ……! や、やめ……ぎゃっ!」


涙を浮かべて哀願する男の頭に容赦なく木刀が振り下ろされる。派手な髪色をした頭を両手で押さえ、もんどりうって倒れるヤンキー風の男。


「いやいや、絡んできたのあんたらだし? 今さら何言ってんだよ」


血まみれの木刀を肩に担ぎ倒れて唸る男に冷たい目を向ける。先ほど木刀の一撃を喰らった男以外に、三人の男が彼女の周りに倒れていた。


学校帰りに近道をしようと、普段あまり通らない公園のなかを通り抜けようとしたところ、たむろしていた若いヤンキー四人に絡まれた。


しつこく口説いてくるうえに、体に触ろうとしたからつい反射的に木刀で叩きのめしてしまったのである。


「あんたらさぁ、いつもこんなことしてんの? ろくな大人になんねぇよ?」


はぁ、とこれみよがしにため息をついて倒れた男たちを一瞥すると、彼女は木刀を竹刀袋に入れてその場をあとにした。


ああ、ほんとうぜー。JKになってからというもの、ああいう奴らに絡まれること増えたよな。世のなかJK好きな男多すぎだろほんと。


と、背後から駆け寄ってくる足音が優衣の耳に入る。


しつけぇな……まだやる気かよ。


わざわざ木刀を出すのも面倒くさかった優衣は、竹刀袋に入れたままの状態で振り返りざまに木刀を横に鋭く薙いだ。


「わわっ!」


振り返った優衣の目に飛び込んできたのは、見慣れたイケメン男子高校生。


「なんだ、タケルか」


「なんだじゃないよ優衣。いきなり危ないじゃん」


「いや、さっきの奴らが性懲りもなくまたかかってきたのかと思ってさ」


「あ……さっき向こうで倒れてたヤンキーたちって……」


タケルは「あちゃー」と言わんばかりの表情を浮かべ後ろを振り返る。


「この可憐なあたいに絡んできた挙句、痴漢までしようとしたからな。あれくらいで済んで感謝してほしいくらいだぜ」


「自分で可憐とか言わない。てか可憐なJKは木刀でヤンキーを叩きのめしたりしないから」


そっとため息を吐くタケル。ただ、タケルにとってこのような出来事は昔から見慣れている。


何せ優衣は見た目がいい。狂犬みたいな狂暴さとクソみたいな性格を省けば文句なしにいい女だ。彼女の見た目に騙されて近寄り、酷い目に遭ってきた男をタケルはこれまで数えきれないほど見てきた。


「はぁ……もう少しおしとやかになれないものかな」


「タケル……それあたいに言ってんのか?」


優衣はジロリと横目でタケルを睨み、尻に回し蹴りを喰らわした。


「いたっ! ほら、そういうとこだよ」


うるせー、と吐き捨てる優衣を見て再びため息をつく。優衣が頻繁にトラブルに巻き込まれるのは、見た目と中身のギャップがありすぎるのが原因だよな、とつくづく感じるタケルであった。



-翌日-


「……本当懲りねぇな、てめぇら」


下校中、昨日と同じ公園で再びガラの悪そうな男たちに絡まれる優衣。昨日と違うのは隣にタケルがいることだ。


散々いいようにやられたため多少学習したのか、今日は昨日より人数が多い。十人近い男たちが二人を取り囲んだ。


いや、こんな可憐なJKと普通の男子高校生を十人で囲むって。マジどうかしてんなこいつら。


「へへへ……昨日は世話になったな姉ちゃん」


「今日はたっぷりとお礼をさせてもらうぜ……くへへへへ」


おお……そんなザ・テンプレみたいなセリフを。なんかアがるわー。


と、そのとき二人を取り囲んでいたなかの一人がタケルの背後に周り、素早く羽交い絞めにした。どうやらタケルを人質にしたいらしい。


「おっと、動くなよ……彼氏をボコられたくなけりゃ、俺たちの言うことを聞くんだな……」


下卑た表情を浮かべ、優衣のつま先から胸元まで舐めるように視線を這わせるヤンキー。その言葉に、優衣は俯いて肩をプルプルと震わせる。


怯えてやがる、と男たちは勝利を確信したが――



「ぶははははっ!! か、彼氏!? こいつが!? ぎゃはははは!」


途端に腹を抱えて笑い転げ始める優衣。どうやら、震えていたのは笑いを堪えていたらしい。突然爆笑し始めた優衣をぽかんとした表情で見つめる男たち。


「な、何笑ってやがる! こいつがどうなっても――」


最後まで言葉を吐く前に、男の体がふわりと浮かんだかと思うとそのまま地面に叩きつけられた。


「ぎゃっ!」


羽交い絞めしていた男の腕をとり、タケルが投げ飛ばしたのである。優衣の実家が開いている影宮一刀流の道場にタケルも子どものころから通っていた。影宮一刀流では体術も技術体系に組み込まれている。


「優衣、ちょっと笑いすぎじゃない?」


まだ笑い足りないようにしている優衣に、タケルは咎めるような視線を飛ばす。


「いや、だってさぁ……ぷ、ぷぷ……!」


「まあいいけどさ。僕だって優衣みたいな狂犬が彼女だなんて嫌だしね」


「……あ? ケンカ売ってんのかタケル?」


「別にー?」


ヤンキーどもを放置して突然剣呑な雰囲気をまき散らし始める二人。


「こ、こらてめぇら、俺らを無視してんじゃ――ぎゃっ!」


割って入ろうとしたヤンキーの頭に優衣が木刀で一撃を喰らわす。


「うるせー。邪魔すんじゃねぇよ」


可憐なJKが絶対に口にしないような言葉を吐く優衣。


「て、てめぇ!」


性懲りもなく二人の男が優衣とタケルに拳を振るおうとするが、一人は優衣の木刀の餌食となり、もう一人はタケルの強烈な横蹴りを喰らって吹っ飛んだ。


「タケル……謝ればあたいを狂犬って言ったこと許してやるよ」


「やだね」


すでにヤンキーたちは眼中にない二人。一触即発の空気が立ち込める。優衣が抜刀の姿勢に移り、タケルは拳を前にして迎撃の構えをとった。が――



「こらー-! お前たち何やってるんだー!」


声がしたほうへ目を向けると、制服姿の警察官が二人でこちらへ猛ダッシュしてくる姿が。


「やば! タケル、マッポだ! 逃げんぞ!」


またまた可憐なJKが絶対に口にしない言葉を吐くと、優衣はタケルの手をとって一目散にその場から逃げ出した。


走りながらちらりと振り返ったタケルの視界に、逃げ遅れたヤンキーたちが警官に取り押さえられている姿が映りこむ。こちらを追ってこないところを見ると、高校生がヤンキーに絡まれていると誰かが通報したようだ。



「よかった~……お巡りさん、間に合ったんだ」


優衣たちがいた場所から少し離れたところで、一人の女子高生がほっと息を吐く。公園のそばを通りかかったところ、高校生二人がガラの悪そうな輩に絡まれているのを発見し、警察に通報したのである。


「でも、あの二人どこかで見たような……?」


髪を三つ編みにした大人しそうな女子高生が首を傾けながら記憶をたどる。


「うーん、思い出せない。まぁいっか」


騒動があった場所にちらりを目をやると、女子高生は帰宅すべくその場をあとにした。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公達3人の過去生を挟むっていうのは斬新な試みだと思います。 今後の展開に於ける 伏線的な意味合いも含まれるんだろうなぁ…と楽しみです。
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