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第二十七話 キュン殺し

水を打ったように静まり返った謁見の間。むにゃむにゃと何やら寝言を呟くラミリアには目もくれず、兵士たちはルナマリアに注視した。


「ま……魔王だと……?」


目の前にいるのはどう見ても十歳前後の少女にしか見えない。だが、魔王と言われても即座に否定できないほどの威圧感と存在感を少女は放っていた。


ルナマリアが頭にかぶっていたクロッシェをそっと脱ぐ。額から生える二本の小さな角は魔族の証である。


「ほ、本当に魔族……」


「まさか本物の魔王……?」


「いや、こんな少女が魔王など……」


ざわめく兵士たち。キュートなルックスも相まって、目の前の美少女が魔王とは信じられない様子だ。


「うーん。信じてもらえないかぁ~。じゃあ、これならどうかな? ジン、おいで」


呼びかけに応じるように、ルナマリアの影から一人の魔族が姿を現した。執事のような格好が印象的なルナマリアの配下、ジンである。


「は。お呼びでしょうか、魔王陛下」


顕現したジンはすぐさまルナマリアの前に跪いた。その様子を見て再びざわめき始める兵士たち。明らかに只者ではない雰囲気を纏う魔族の男が、少女の前に跪いて魔王陛下と口にしたことに衝撃を受ける。


「ねえジン。私はだーれ?」


人差し指を唇にあてて、かわいらしく首を傾けながらジンに問いかけるルナマリア。たいていの男ならキュン死にしそうな悪魔的仕草である。


「は。魔王陛下、ルナマリア・ディル・スタンダール様。すべての魔族を統べる唯一無二、至高の御方(おんかた)であらせられます」


言葉を聞き終えたルナマリアは、ワンピースのスカートを翻しながらクルリと兵士たちを振り向く。容赦なく繰り出されるキュン殺し攻撃。


これがすべて計算づくだとしたら恐ろしい、とヴァンは心のなかで静かに思った。


「ほらね、分かったでしょ? 私が本当に魔王だってこと」


腰に手をあてて「どうだ」と言わんばかりに兵士たちへ目を向ける。


「く……仮に本物の魔王だとして、なぜこのようなところに……!」


予想外すぎる乱入者に思わず歯噛みするロジャー。このままでは王座を簒奪する計画がとん挫してしまう。


「ラミリアとヴァンは私の友達だから」


「……は?」


「だから、ラミリアとヴァンは私の友達なの。だから危なければ助けるのは当然でしょ?」


信じられないものを見るような視線をルナマリアに向けるロジャー。教会から聖女の称号まで得た妹が魔王と友達だと聞かされて、何が何だか分からなくなってしまった。


「ば、ばかな……そんなこと……」


「あなたたちが何をしようが魔王である私には関係ないけどね……」


ルナマリアの雰囲気が変わる。声のトーンはやや下がり小柄な体からはどす黒いオーラが立ち昇る。


「……どんな理由があろうと、私は友だちを傷つける奴は許さない」


何かワンピ〇スに出てくるキャラクターみたいなこと言い出した、と心のなかでツッコむヴァン。


「とりあえず……はい、どーん」


ルナマリアにスッと指をさされた一人の兵士が突然吹っ飛ぶ。


「こっちも……どーん、はいどーん」


指をさされた兵士たちは次々とその場からふっ飛ばされ床を転がった。威力をうまくコントロールできなかったのか、なかには壁に体を思いきり打ちつけてしまう者も。


さすがにこれほどの力を見せつけられれば、ロジャーも兵士もルナマリアが本物の魔王であると信じるしかなかった。


「さーて、どうするの? 大人しくお縄につくのならもうやめてあげるけど。それとも全員吹っ飛ばす?」


手の平を銃のようにしてロジャーに向ける。苦渋の表情を浮かべるロジャー。そもそも、人間が魔族に敵うはずがないのだ。


「く……! なぜこんなことに! このような者が妹の背後にいるなど()()()は一言も……!」


ルナマリアはその言葉を聞き逃さなかった。


「あの方?」


王座簒奪が叶わなくなったと諦めたのか、ロジャーは床に膝から崩れ落ちると天を仰いだ。


「せっかくあの方がここまでお膳立てしてくれたというのに……」


もはやロジャーの耳にルナマリアの言葉は届いていないように見える。


「……あなたをそそのかした黒幕がいるということ?」


「……そのような言い方はやめてもらおう。そう、あのお――」


言葉を最後まで紡ぐことなく、ロジャーの首がごろりと床に落ちた。背後から一人の兵士がロジャーの首を剣で一閃したのだ。


周りの兵たちが驚きに目を剥く。


「き、貴様何を!」


「よくもロジャー様を!」


「裏切者が! 殺してしまえ!」


ロジャーを殺した兵士もまた、その場でほかの兵によってなます斬りにされてしまった。急転直下の出来事に混乱してしまうルナマリア。


あの人は何かを言おうとしていた……それを止めた? つまり、口封じ? だとしたらずいぶん手が込んでいるように思える。


とてつもない不快感。鼻腔の奥に届く生臭い血の香りが不快感の原因ではないことをルナマリアは理解していた。




「報告いたします」


「……兵士以外で誰と誰が死んだのか、まずそれを報告せよ」


透き通るような凛とした声の主は、エルミア教の教皇スーリア。


「は。国王イングリド八世に王妃、第一王子のルド、第二王子ロジャーの四名です。あと、身元を完全に伏せてロジャーの兵に潜り込ませた聖騎士の精鋭も死にました」


「ふむ……王女とヴァン将軍は無事なのだな?」


「は。ラミリア王女は薬で眠らされたようですがお怪我はありません。ヴァン将軍も無傷です」


「分かった。大まかな流れを報告せよ」


王城に忍ばせていた密偵からの報告を無表情で聞きつつ頭のなかで整理する。どうやらほぼほぼ及第点のようだ。


ヴァンの活躍にルナマリアの臨場にいたるまで思い描いた通りに進んだ。これで計画がまた一歩進む。


スーリアの蒼い瞳がことさら冷たく光る。


真実を知ったとき、ラミはきっと私を許せないだろう。だが、それでも自分がしたことは間違っていないと信じている。


「ラミ……」


スーリアは静かに目を閉じると、唯一の友を瞼の裏に思い浮かべた。


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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


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[良い点] 良い点はそれは面白いところしか無いでしょう! うん、面白いぞー!! [気になる点] 魔王様だったらさ、死体だろうが首が残ってたら記憶を吸いだしちゃう種族が知り合いにいそうだなー、とかちょっ…
[良い点] さすがスーちゃん腹黒いぜ! [一言] 宗教家トップなんて宿便を集めた肥溜めのような汚さがないとなれないよな。
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