第二十三話 恐怖の大魔王
目的の村に着いたラミリアたちが目にしたのは、虐殺されたと見られる村人や聖騎士が遺体で山積みにされている光景だった。助けを求める少女に案内してもらい魔族と相対するラミリアにルナマリア。目の前の少女から魔王であると聞かされた魔族たちは、全身を震わせながら平伏するのであった。
先ほどまでのお祭り騒ぎが嘘のようにシンと静まり返った村長邸の広間。今、部屋の中央には村人たちを虐殺したと見られる五人の魔族が正座させられている。
人間にエルフ、オーク、オーガ、ドワーフ、そして魔族。この世界にはさまざまな種族が存在するが、魔王は人間以外のあらゆる種族に多大な影響力をもっている。特に魔族は、DNAレベルまで魔王への恐怖や忠誠心が刷り込まれているため、基本的に逆らうようなことはまずない。
事実、部屋の中央で正座させられている五人の魔族は、先ほどから顔を伏せてガタガタと震えっぱなしである。その彼らの前に仁王立ちし冷たい視線を向ける魔王ルナマリア。
「まず、あなたたちはどこで暮らしている魔族?」
「……ここより北の山岳地帯に拠点を構える一族です」
ルナマリアはワンピースのポケットから取り出したメモ帳にペンを走らせる。
「どれくらいの数が暮らしているの?」
「五十……から百くらいです」
「幅がありすぎるからもっと明確に」
メモ帳から目を離し魔族をジロリと睨むルナマリア。まるで刑事の事情聴取である。
「……な、七十くらいです」
「そう。で、あなたたちはここで何をしているの?」
パタンとメモ帳を閉じてポケットに仕舞ったルナマリアは、腕を組むと厳しい視線を魔族に向けた。
「……仲魔の一人がこの村を見つけて……食べ物も女もたくさんあるからって……」
「つまり食欲と性欲に負けて襲撃したと?」
「……はい」
「外で山積みになっている遺体はすべてあなたたちの仕業?」
「い、いえ! 魔獣にやられた奴らも何人かいるはず……です」
「魔獣に襲われたような外傷は確認できなかったけどね」
途端に顔を伏せた魔族の顔から大量の冷や汗が流れ落ちる。少しでも罪を軽くしようと魔獣の仕業に仕立てようとしたものの、あっさりと看過されてしまった。
魔族には命ある者の生気を吸い取る力が備わっている。そのため、食事をせずとも生気さえ吸い取っていれば死ぬことはない。外で山積みになっている遺体は死ぬまで生気を吸われたなれの果てである。
「うん。話は分かった」
「……あ、あの、俺た…私たちはもう帰ってよろしいので……?」
「そんなわけないよね?」
にっこりと素敵な笑顔を浮かべたルナマリアが片手を前に突き出した。
『断罪の闇』
ルナマリアが一言唱えた途端、魔族たちの周りを黒い闇が覆った。そのまま闇は少しずつ範囲を狭めていき……。
「お、お許しを! 魔王陛下!」
「魔王様、ご慈悲を…ああっ…!」
「逃げたら殺すというから逃げなかったのに……!」
取り乱し逃げようとする魔族たちを嘲笑うかのように闇が迫りゆく。
「逃げなかったら殺さないとは言ってないよ」
少し呆れた表情を浮かべたまま、首をコクリと傾げる小悪魔、もとい魔王ルナマリア。
口々に命乞いする魔族たちを無視して闇は範囲を狭め、遂に魔族たちを吞み込みそのまま消失してしまった。静けさを取り戻す空間。そして誰もいなくなった。いや、いなくなったのは魔族たちだけだが。
「あ、こっちで全部やっちゃったけどよかったのかな、ラミ?」
「あ、ああ。魔族のことはあたいらにはよく分からんしな。親玉であるルナマリアが片づけてくれるんなら願ったりだわ」
容赦なく魔族を断罪し消し去ったルナマリアにやや引きつつも、ラミリアは親指をグッと立てて応える。魔王の凄さと冷徹さを垣間見てしまい、ルナマリアを怒らせるのは絶対にやめようと強く誓ったラミリアであった。
ほとんどの村人が殺されてしまい、残ったのはわずか八名の若い女性だけだった。このまま村に残しても生活はできないと考えたラミリアとヴァンは、近くの街へ移住することを提案する。もちろん、殺された者たちの埋葬や移住のサポートはするつもりだ。
「そういやルナマリア。あいつらに住んでいた場所とか数とか聞いていたけどどうすんだ?」
「私の仕事は管理だからね。とりあえず今から足を運んでみるよ。場合によっては見せしめが必要かも」
何やら恐ろしいことを言い出した小悪魔。見た目は息を吞むような美少女でも、やはり魔王様である。
「そ、そっか。まあそっちのことはルナマリアに任せるよ。あたいらは一度戻ってスーちゃんに報告する。ここにも人手を送ってもらわなきゃだしな」
「うん、分かった。じゃあ、私はここからひとっ飛びしてくるね。またあとでラミのとこ行くから」
「ああ。待ってる」
こうして、ラミリアとヴァンは一度ルナマリアと別れることに。生き残りの女性たちに後日人手を送るからと声をかけたあと、少し離れた場所に待機させていた馬車に乗り込み村をあとにした。
「というわけだ。魔族によって村人のほとんどは殺された。残念だが聖騎士たちもな」
「そうか……残念なことだ」
ふぅ、と深いため息をつく教皇スーリア。教会のトップとして聖騎士たちが虐殺されたことに胸を痛めているように見える。
「まあ、あとのことはスーちゃんに任せるわ。あ、今回の件はほとんどルナマリアが片づけてくれたから、今度ちゃんとお礼言いなよ」
「分かっている。ラミもご苦労だったな」
ラミリアと入れ替わるようにスーリアの自室へ現れたのは枢機卿シャロン・マイア。
「猊下、こちらを」
シャロンがスーリアに一冊のノートを手渡す。受け取ったノートをめくり、何名もの人名が書かれたページに目をとめる。
「こいつとこいつ、うん、こいつも処分できたな」
ぶつぶつと呟きながらリストから名前を消していく。リストから消された名前は、どれも村で殺された聖騎士である。
「最高の結果、ですか?」
「シャロン姉……二人のときくらい普通に喋ってもいいんじゃ」
「ダメです。教会内はまだまだ油断なりません」
呆れたような表情を浮かべたスーリアだが、再びノートに目を落とす。
「結果としては上出来だ。勇者信者に元聖騎士団長派、元大司教派。邪魔な勢力をまた削れた」
そう、今回村に派遣された聖騎士の一隊は、教皇スーリアに少なからず反感を抱く者たちであった。村で魔獣や魔族に殺されればそれでよし、殺されなかったとしても、ラミリアやヴァンと顔を合わせれば過去の因縁から争いになり斬られると考えていた。
「お友達を利用するなんて、なかなか酷い教皇様ですね」
「それは違う。教会を一つにまとめることが、ひいてはラミや国のためにもなる」
これはスーリアの本音である。自分に逆らう者を排除したいのはもちろんだが、それがラミリアのためになるとスーリアは真剣に考えていた。
「そのためなら何でもするさ」
黒い笑みを浮かべたスーリアはノートを閉じると、机の引き出しにそっと仕舞った。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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