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第二十ニ話 魔王怒る

「いやー、おやつもたくさん手に入ってよかったな!」


馬車のなかで上機嫌にお菓子を頬張るラミリア。街で立ち寄ったお店は飲食ができる以外に、手作りのお菓子も販売していた。スーリアからたっぷりと経費をもらっていたので、ここぞとばかりに旅のお供としてお菓子を大量購入したのであった。


「かなり買い込んだから結構な金額になったけど、いいの?」


「いいんだよ。教会はかなり儲けてるみたいだからな」


スーリアから渡された硬貨入りの革袋をヴァンに投げてよこす。


「うわ。経費としてこんなに渡してくれたの? 本当に儲かってるんだなぁ……」


「宗教が儲かるってのはどこの世界でも一緒ってこった」


何とも罰当たりな会話を楽しむ三人を乗せて、馬車は再び目的地へ向けて走り出す。しばらく走ると多少路面の状況がよくなってきたのか、王都を出たときよりは振動が気にならなくなってきた。尻の感覚が麻痺しただけかもしれないが。



「皆さん、もう少ししたら目的の村に着きますよ」


おやつでお腹が膨れて少しうとうとしていた三人は、御者から声をかけられて目を覚ました。


「お……どれどれ」


ラミリアは小窓を開けて首を出し遠くに目を向ける。視線の先にはたしかに小さな村のようなものが見えた。


「あれか。やっと着いたな」


「ふぁあ……長かったね。村に着いたらちょっとゆっくりした――」


少し眠そうに目を擦っていたルナマリアの表情が一瞬にして変わる。


「ラミ。馬車のまま村に近づきすぎないほうがいいかも」


「どしたん?」


「多分、魔族いると思う」


マジか、と呟いたラミリアはすぐさま御者に止まるよう声をかけた。歩くにはまだ少し距離があるが、御者のことを考えるとこのあたりで降りたほうがよさそうである。



村は規模こそ小さいものの、村そのものを囲むように木の防壁が張り巡らされていた。以前からたびたび魔物の襲撃を受けていたとのことなので、おそらくその対策であろう。


村の入り口は木製の門で閉ざされていた。おいそれと中を覗くこともできない。三人は息を潜めて中の様子を耳で感じ取ろうとするが、人の声らしきものは聞こえなかった。


「おい……これ、もうみんなヤられてんじゃ……」


「どうかな……ルナマリアどう思う?」


「うーん、分かんないけど、もう入っちゃおうか」


そう口にするなり、ルナマリアは木製の門を魔力で吹き飛ばしてしまった。


「お、おいおい! ずいぶん派手にいったな~」


「どっちにしろいつかは入らなきゃいけないしね」


何たる豪胆。さすがは魔王様である。


ルナマリアを先頭に村のなかへ入る三人。やはり村人たちの姿は見えない。と、ルナマリアが何かに気づき視線を向ける。そこには――



「酷ぇ……」


思わず顔をしかめるラミリアとヴァン。そこには、村人たちと見られる遺体が山積みにされていた。どの遺体にもこれといった外傷は見当たらない。


山積みにされた村人たちの骸から少し離れたところには、白い鎧を着こんだ若者たちの遺体が無造作に転がされていた。


「白い鎧……スーリアが言っていた戻ってこない聖騎士たちだね」


と、そこへ――



「もうイヤぁぁああ! 誰かぁぁああ!」


三人が視線を向けた先から、半裸の少女が悲鳴をあげながら駆けてくる。その後方には――


「くけけけけ……どこへ逃げようというのかね」


ラピ〇タに出てくるム〇カ大佐のようなセリフを口にしながら追ってくる全裸の男。その体は全身がやや青がかっており、額からは二本の角が生えていた。魔族である。


あっさりと追いつかれた少女は魔族に髪を掴まれ引きずり倒される。


「さあ、戻って続きをしようじゃ――」


魔族が最後まで言葉を紡ぐ前に、一瞬で距離を詰めたラミリアがその青みがかった体を刀で薙いだ。声を出すこともできずに両断された魔族の体が地面に転がる。



「あ…ああ……!」


「大丈夫か? ここで何があったのか話してくれ」


ラミリアに助け起こされた少女は、泣きじゃくりながら村で起きたことを話し始めた。


話しによると、約一ヶ月前に魔族が村にやってきたとのこと。すぐに男たちと年老いた女は殺されてしまい、若い女だけが残されたようだ。そのあとのことはだいたい想像がつく。



「あとどれくらい魔族がいるか分かるか?」


「……五人くらい……長みたいな魔族がいて、あとの四人はその人に従っているみたいな感じだった……」


「そっか。そいつらは今どこにいる?」


「村長の屋敷に……」


ラミリアたちは少女に案内してもらい、村長の屋敷へ向かった。小さな村ではあるが、権威の象徴なのか村長の屋敷は割と大きく立派な造りである。


よし行くか、とラミリアが扉を開こうとするが、その前にルナマリアがまた魔力で扉を吹き飛ばしてしまった。



「ちょ、何で毎回やることが派手なんだよ」


「いや、面倒だったのと、ちょっとイライラしちゃって」


どうやら、魔族が非道な行いをしたことにルナマリアはご立腹のようであった。ルナマリアはそのままズカズカと村長宅のなかへ歩みを進めていく。


廊下をまっすぐ進んだ突きあたりに、騒がしい大部屋があった。騒がしい男たちの声のなかに、すすり泣くような女の声が混じっている。



広間では、五人の魔族が宴会の真っ最中であった。どの魔族も、裸にした若い女性を侍らせている。



――胸糞悪ぃ。


ラミリアが飛びかかろうとしたが――


「えーと、責任者は誰?」


パーリーピーポー状態の魔族にルナマリアが声をかける。声の雰囲気からやはり怒っているらしい。


「な、何だお前ら? どこから来やがっ――」


言葉を発しようとした魔族は途端に色をなくす。目の前にいる十歳前後の少女から立ち昇る膨大な魔力。魔族たちは本能的に絶対逆らってはいけない相手と判断し、すぐさまその場に跪いた。


「私が誰だか分かるかな?」


ルナマリアは一番奥に陣取る魔族に突き刺すような視線を飛ばす。


「まま……まさか……もしやあなた様は……」


跪いた状態のままガクガクと体を震わせる魔族たち。魔族にここまでの恐怖を感じさせられる存在は限られている。


「私はルナマリア・ディル・スタンダール。魔王よ」


まさに青天の霹靂。恐怖に耐えきれなくなったのか、一名の悪魔が部屋の窓を突き破って逃げようとした、が――


「おすわり」


ルナマリアがぼそりと呟くと、飛び立とうとした魔族の体は思いっきり床に叩きつけられてしまった。



「次勝手に逃げようとしたらすぐに殺しちゃうからね」


腰に手をあてて仁王立ちするルナマリアから放たれる魔王の覇気に、五人の魔族は恐れおののき平伏した。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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