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第二十話 伝説の刀?

王城に押しかけてきた枢機卿シャロンに引きずられるようにしてスーリアは帰っていった。あの様子ではしばらくここにも来れないだろう。知らんけど。


そして翌々日。待ちに待ったアレが完成したとドワーフのシオンがラミリアの自室に飛び込んできた。


「ついに完成したぞ! さっそく見てくれ!」


興奮した面持ちで刀を手渡してくるシオン。よく見ると目は血走りクマもできている。どうやらワーカホリックなドワーフらしい。


だが、予想より早く刀が完成したのは嬉しい。ラミリアはずっしりとした刀を受け取ると、そっと鞘から刀身を抜いた。


刀身に浮かぶ見事な刃紋。鞘から抜いた瞬間、ラミリアの全身にぞくりとした感覚が走った。刃の薄さ、反りも注文通りだ。


「……すげぇ……」


見事な出来栄えに言葉が続かない。一目でラミリアは刀に魅了されてしまった。


「驚くのはまだ早いぜ。試し斬りしてみてくれよ。もっと驚くからさ!」


ラミリアとてそのつもりである。さっそくシオンを伴い練兵場へ向かう。


王城の練兵場では常に兵士が訓練に励んでいる。ラミリアの姿を見た兵士たちは皆一様に頭を下げ、畏敬の念を示す。


「ヴァンはいるか?」


「はっ! ヴァン将軍ならあちらに! お呼びしましょうか姫様?」


「ああ、頼む」


若い兵士はシオンにちらりと視線を向けてから踵を返し、ヴァンを呼びに向かった。


あの野郎シオンの乳見てやがったな。


小柄な体に似つかわしくない大きな果実。シオンの体は同性から見ても破壊力抜群である。周りに視線を巡らせると、多くの兵士がちらちらとシオンを見ていた。



「ラミ、どうしたの?」


「よお。やっと刀ができたから試し斬りしたいと思ってさ」


小走りでやってきたヴァンにラミリアは完成した刀を見せた。


「おお……意外と早かったね。鎧で試し斬りする?」


普通は刀の試し斬りに鎧など使わない。そんなことすれば、ヘタしたらすぐ刃こぼれしてしまう。


「ああ。準備してくれるか?」


ヴァンはほかの兵士にも手伝わせ、すぐに試し斬りの準備を始めた。普段は槍の訓練に使う木製の人形に鉄製の鎧を着せる。


人形の前に立ったラミリアは意識を集中させ重心を低く落とした。鞘に収めたままの刀を腰の位置に固定し抜刀の姿勢をとる。



──それはまさに一瞬だった。


半歩踏み込むと同時に目にも止まらぬ速さで抜刀する。兵士たちが見守る静謐な空間にキンと小さな金属音が響き渡った。


が、鎧を着込んだ人形には何の変化もない。失敗か、と誰もが思ったそのとき──


鎧の正面に斜めの線が描かれたかと思うと、人形の上半分が斜めに滑り落ちた。鉄製の鎧も木の人形も見事に切断されている。


「す、凄い……!」


刀を打った本人であるシオンが驚きの声を漏らす。刀の出来栄えには自信があったが、それでも本当に鉄を斬れるものなのかと半信半疑だった。


神技と言っても差し支えないラミリアの技量を目の当たりにし、改めてシオンは尊敬の念を抱く。


「本当に鉄が斬れるなんて……はっ! まさかこれが伝説の斬鉄剣……?」


「いや、ちげーし」


いまだ呆けているシオンの頭にチョップを喰らわすラミリア。だが、そう呼んでも差し支えないほどの刀の出来栄えにラミリア自身が驚きを禁じ得なかった。



「いや、ほんとすげー刀だわ。感謝するぜシオン」


自室に戻ったラミリアはソファに体を預け、上機嫌でシオンに感謝の言葉を述べた。


「こっちこそ、剣聖の刀を打たせてもらって感謝しかないさ。こんな名誉なことはねぇ」


武器の鍛冶を生業とするドワーフにとって、達人の剣を手掛けることほど名誉なことはない。剣聖と呼ばれる当代一の使い手に所望されたとなればなおさらである。


「ヴァンも打ってもらったらどうだ? やっぱ刀のほうが圧倒的に抜刀しやすいぜ」


ヴァンも転生前はラミリアの実家が開いていた影宮一刀流の道場に通っていた。そのため、ヴァンも基本的には抜刀術のほうが得意なのである。


「いや、僕はこの特注の剣があるからさ」


ヴァンは腰から外して壁に立てかけてある愛剣に目を向ける。そう、ヴァンの剣は特殊な仕掛けを施した特注品なのだ。よっぽどのとき以外その仕掛けを使うこともないのだが。


「まあそっか。今はその剣での戦い方になっちゃってるしな」



しばらく談笑してからシオンを城門まで見送ったラミリアとヴァンが自室に戻ろうとしていると――


「やあ、ラミリア」


振り返った二人の視線の先にいたのは、国境近くに拠点を構える第二王子のロジャーだった。


「兄さん! 戻っていたんですか?」


「ああ、また陛下に報告しなければいけないことがあってね」


そう口にする兄の表情はどこか優れない。どことなく疲れているような、哀しんでいるような、そんな表情に見えた。


「兄さん、働きすぎじゃないんですか? かなり顔がくたびれてますよ?」


「はは……そうかもしれないね。それにしても、相変わらず君たちは仲がいいね」


ロジャーはヴァンに視線を向ける。ラミリアと幼馴染であるヴァンは、彼女の兄であるロジャーとも幼いころから顔見知りだった。


「まあ、僕はラミリアの護衛でもありますからね」


「ああ、そうだったね。ヴァンほどの者が妹のそばについていてくれるのは心強いことだ」


ヴァンの肩にぽんと手を置き、爽やかな笑みを浮かべるロジャー。



あのときの兄さんが何を考えていたのか、何を思っていたのかはまったく分からない。


だが、何かを思い詰めているように見えたのも事実だ。


あのとき、もっと私が突っ込んでいろいろと話を聞いておけばよかったのだろうか。


数日後、兄が起こしたとんでもない事件に直面したとき、ラミリアはこのときの会話を思い出し後悔するのであった。


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