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第十八話 演技派

聖女であるラミリアに、勇者をはじめとするパーティ全員が斬殺されるという凄惨な現場に臨場したエルミア教の教皇、スーリア・マリアンヌ。


馬車を降りたスーリアは周囲に鋭い視線を巡らせると、一人の女性を伴いラミリアのもとへ歩みを寄せた。


聖騎士のあいだにざわめきが広がる。皆が一様に困惑した表情を浮かべたまま、黒髪の少女を見つめていた。


それもそのはずである。普段教皇は教会の最奥、教皇の間から出てくることはほぼない。謁見の際も御簾越しであるため、聖騎士は教皇の顔を知らないのだ。



「あ、あの方は枢機卿……」


「では一緒にいるのはまさか……」


「いや、こんな場所に足をお運びになるなど……」


スーリアの斜め後ろをしずしずと歩いているのは、枢機卿シャロン・マイア。柔和な顔立ちをした二十代後半の女性は、枢機卿として教会の実務を執り仕切る要人である。



「聖騎士よ、控えなさい。こちらにおわすはエルミア教が教皇、スーリア・マリアンヌ猊下であられる」


聖騎士たちに向かい口を開くシャロン枢機卿。おっとりとした喋り方ではあるが、有無を言わさぬ力強さを秘めていた。


シャロンの言葉を聞いた聖騎士たちは途端にその場へ跪く。なかには体を震わせている者も。聖騎士たちにとって教皇は雲の上の存在、天上人である。歓喜、驚愕、さまざまな感情が聖騎士たちを支配した。



「おもてをあげよ」


スーリアは静かに口を開くと、顔をあげた聖騎士たちを一瞥する。そのまま首だけを巡らせて大体の状況を把握すると、おもむろにラミリアへ体を向けた。


「ラミリア王女。ご無沙汰しております」


腰を折って丁寧に挨拶する教皇の姿に、聖騎士たちの目が驚きに見開かれる。国王に匹敵する権力を有する教皇が、王女に頭を垂れたことに驚きを禁じえなかった。


驚いたのはラミリアも同様であるが、すぐさまスーリアの意図を理解した。スーリアは、聖騎士たちが集まるこの場で上下関係をはっきりさせようとしているのだ。


「久しいな、スーリア教皇猊下。変わりはないか?」


ちょっと前に会ったばかりだけどな、と内心思いつつそれっぽい言葉をかける。


「はい。ラミリア王女もお元気そうで何よりです」


いつもの冷たく淡白な口調を封印し、全力で演技を続けるスーリア。二人の演技はアカデミー賞ものである。


「ラミリア王女。大まかな状況は把握しております。王女自らのお手を煩わせてしまい、大変申し訳ございませんでした」


その言葉を耳にした聖騎士団長のクラウドは、驚きのあまり倒れそうになった。その発言は王女が勇者を殺害したことを咎めない、それどころか教会が王女の行動を肯定したと受け取れる。



「お、お待ちを! 教皇猊下!」


「控えよ! 猊下と王女の会話を遮るとは何様のつもりだ!」


堪らず声をあげたクラウドに対し、激高したシャロン枢機卿が一喝する。柔和な顔立ちとおっとりした喋り方からは想像できない迫力である。


あまりの迫力にラミリアとスーリアも思わずビクッとしたのだがそれは内緒の話。


怖ぇ……この姉ちゃんぜってー元ヤンだろ。


ラミリアはまったく動じていない体を装いながらシャロンにちらりと視線を向ける。


一方、シャロンに一喝されたクラウドは渋々口を閉じるが、その顔には不満の色がありありと浮かんでいた。


「……この者たちは称号を得たことを笠に着て好き放題していた。王城に届いた苦情も少なくない。しかも、都民の少女を殺害しようとした疑いもある」


「はい。教会でも把握しております。こちらにもこの者たちの振る舞いに関して苦情が寄せられていました。この結果は致し方ないことでしょう」


さっさと勇者一行を始末したいと考えていたスーリアは内心笑いが止まらなかった。思わず口角が上がりそうになるのを必死に堪える。


ラミリアもそのことを理解しているので、笑いたいのを必死に我慢しているスーリアを見て自分も笑いを堪えるのに精一杯であった。


奥歯を噛み締めて笑いを堪えたスーリアは、次にルナマリアのもとに歩み寄る。



「……そなたは魔族であるな?」


その言葉に聖騎士たちがざわめく。なかには今にも剣を抜こうとする者もいた。


「うん」


軽く返事をするルナマリア。


「猊下、お耳を……」


シャロンが何やら耳打ちをする。


「……魔族の少女よ。勇者に乱暴されそうになっていた人間の少女を助け、さらに魔法で攻撃されそうになったその子を庇ったというのはまことか?」


「うん、そうだよ」


「……そうか。エルミア教の教皇として魔族であるそなたに礼を伝えることはできぬ。だが、一人の王国民として、女性として感謝を伝えたい。ありがとう」


「んーん、気にしないで」


お互い知った仲であるため、やはり思わず笑いが込み上げてくる。


「魔族であるそなたに悪感情を抱く者もここにはおる。さあ、もう行くがよい」


またあとでな、と言わんばかりに軽くウインクするスーリア。ルナマリアもそれに応える。


ルナマリアは少女に軽く手を振ると、その場から飛び立とうとした──のだが。



「ば、ばかな! 猊下、正気ですか!? 魔族をこのまま逃がすと言うのですか!?」


「クラウド! 立場を弁えよ! いったい誰に口をきいている!」


またまた激高するシャロン。今にも噛みつきそうな目つきでクラウドを睨みつける。


「な、何と言われようが魔族は我々の敵! このまま逃がすわけにはいかん!」


立ち上がったクラウドは、その場から飛び立とうとしていたルナマリアに抜剣して斬りかかった。


が、その剣がルナマリアに届くことはなかった。電光石火の速さで先回りしたヴァンがクラウドの肘から先を斬り飛ばしたのである。


「ひぎゃああああ!!」


のたうち回るクラウドにスーリアは冷たい視線を突き刺す。


「……クラウドよ。貴様ラミリア王女に無礼を働いたらしいな。そして先ほどは教皇である私にも。たった今より貴様は聖騎士ではない。どこへなりとも行ってしまえ」


「そ……そんなっ……!」


激痛に悶えていたクラウドだったが、スーリアから伝えられた言葉に愕然とした表情を浮かべる。スーリアは汚いものでも見るような視線を向けるとそのまま踵を返した。


「ではラミリア王女。私はこれで失礼します。またいずれお会いしましょう」


「ああ。息災でな、スーちゃ……スーリア教皇」


思わずいつもの呼び方をしそうになったラミリアをスーリアがそっと睨む。


こうして一連の騒ぎは収まり、やがて広場はいつもの風景を取り戻した。



──そして二時間後。


またいずれと口にしたスーリアはラミリアの自室にいた。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!


https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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