第十七話 初めての力
勇者パーティーの一人ジルが放った魔法から女の子を庇ったルナマリアだが、背後から勇者エルヴィンの斬撃を受けてしまう。女の子を抱きしめたままなます斬りにされるルナマリア。力がほぼ尽きた彼女へとどめをさそうとしたエルヴィンだったが、瞬間周りの空気が一変する。視線の先には鬼のような形相で立つラミリアの姿があった。
尋常ではない殺気を撒き散らすラミリアを目にし、その場にいるすべての者が息を呑む。そこにいるのは、普段市民と気軽に会話を楽しむ気のいい王女ではなかった。
ラミリアは鞘に収めた剣を片手にゆらゆらとルナマリアのもとへ歩みを寄せる。鬼のような形相と溢れ出る殺気に、勇者パーティの面々も立ちすくむ。
「な、何だラミリア……いったい何の用で──」
「どけ」
冷や汗をかきながらも言葉を発したエルヴィンを一瞥すると、ラミリアはルナマリアのそばにしゃがみ込んだ。
「……何やってんだよバカやろう……てめぇが本気出しゃこんな奴ら相手にもなんねぇだろうが……」
傷だらけのルナマリアにそっと語りかける。と、ルナマリアが抱きしめている女の子と目が合った。
「……あ、あの人たちが私に魔法を撃ってきて……お姉ちゃんは私を庇って……う、うう……」
「……そっか……怪我はないか?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で必死に伝えようとする女の子の頭をそっと撫でる。
「ちょ、ちょっと! あんた今さら出てきて何のつもり!? そいつを退治したのは私たちなんだからね!」
背後に立った賢者マリアが金切り声で喚き出した。
「あんたまさか私たちの手柄を横取りするつもりじゃないでしょうね!? さっさとその汚らしい魔族をこっちに渡しな──」
刹那、振り返ったラミリアが腕を横に振った。マリアの首筋にじわりと一本の線が浮かび上がったかと思うと、そのまま首がスライドし地面に転がる。
「ひ、ひぃーーっ!!」
そばで見ていた勇者エルヴィンは腰を抜かした。よく見ると股間が濡れている。どうやら失禁したようだ。
「なっ!! よくもマリアを!!」
「ぶっ殺してやる!!」
魔法使いジルが魔法を放つが、ラミリアは神速でかわしながら接近すると上段からジルを真っ二つに斬り捨てた。
さらに、胴を薙いできたクルドの剣を飛んでかわすと、宙で体を捻りながら首もとを一閃する。正式な剣聖の称号を持つクルドの胴と首はあっさりと離れ離れになってしまった。
ラミリアは剣を振って血を払うと、再度ルナマリアのもとへ近寄り彼女の背中から抱きしめた。
「……勝手に死ぬんじゃねぇよ……あたいらマブダチだろ? これから楽しい時間をいっぱいすごすんだろうが……」
途端に光を放つルナマリアの体。なます斬りにされていたルナマリアの背中からみるみるうちに傷が消えていく。
「聖女の称号なんて欲しくもなかったがよ……今だけは感謝するぜ」
「……ん……んん……ラミ……?」
「おう。遅いから来ちまったぜ」
と、そのとき背後から殺気を感じ、ラミリアは剣に手をかける──が。
「が……ががっ……!」
振り向くとエルヴィンが剣を振り上げたまま固まっていた。よく見ると胸から剣が生えている。
「危ないなあラミ。油断禁物だよ?」
後ろに崩れ落ちたエルヴィンの背後から現れたのはヴァン。ラミリアを背後から斬ろうとしたエルヴィンを、ヴァンが仕留めたのだ。
「ばーか。気づいてたっつーの」
「だろうね。ルナマリアは大丈夫?」
「ああ」
回復したルナマリアは、泣き続ける女の子を抱きしめて慰めている最中だ。現場にはヴァンが率いてきた軍の精鋭が百人ほど集まり、野次馬への対応と遺体の回収を進めている。
と、大通りの向こうに目を向けると、こちらに向かってくる一団が目に入った。国軍ではない。
「はあ……面倒なの来やがったな」
白い鎧で統一された約五十騎ほどの集団。教会の聖騎士団である。おそらく、誰かが教会へ通報したのであろう。
先頭を走っていた聖騎士がラミリアの前で下馬した。
「私は教会聖騎士団の団長、クラウドである。あなたはラミリア王女ですな?」
「ああ」
「いったい何があったのかご説明いただこう。それに勇者様たちは──」
ラミリアから視線を外したクラウドの目に飛び込んできたもの。それはまさしく勇者とそのパーティの骸だった。
「な、ななっ……! これは勇者様たち……! いったい何が……まさか王女……あなたの仕業か!?」
「まあそういうこった。こいつらは人道に外れることをした腐れ外道どもだ。だから斬った。文句あるか?」
ラミリアは剣を肩に担ぎ、クラウドに鋭い視線を飛ばした。
「あ、あなたは自分が何を言っているのか分かっているのか!? この世を救う勇者様を手にかけたのですぞ!?」
「はあ? バカ言ってんなよ。世を救うどころか小さな女の子を殺そうとした腐れ外道だぜ?」
「そんなはずはない! それに、勇者様がすることならそれが正しいことのはず! 間違っているのはあなたですぞ王女!」
憎々しげな視線を向けるクラウドに対し、ラミリアは辟易とした表情を浮かべる。教会にはこいつのような勇者信者がまたまだ多いのだ。
「あなたが王女であろうと勇者様を手にかけた罪は重い! 我々と一緒に来てもらおう!」
その言葉に国軍の面々が色めき立つ。彼らにとってラミリアは王女であると同時に、幾度となく窮地を救ってくれた戦場の英雄なのだ。
「聖騎士団長殿。その要求には応えられない。もしどうしてもというのなら、我々と一戦交える覚悟が必要だけどどうしますか?」
静かに口を開いたのはヴァン。いつもと違い瞳には冷たい光を宿している。
「正気か貴様……教会を敵に回すつもりか……?」
「お待ちくださいクラウド様」
剣に手をかけたクラウドを側近の聖騎士が制止した。
「何だ? 我ら聖騎士の力は国軍に勝るとも劣らぬ。こちらが引く必要などない!」
「……どうか冷静に。あれなるはヴァン・サルート。国軍最強と誉高い剣士にして、戦場では悪鬼羅刹の如き働きを見せる常勝将軍です」
「な……あの優男が……?」
「しかもここには剣聖と名高いラミリア王女もいます。この程度の数で勝てるはずはありません」
さすがに分が悪いと悟ったのか、途端に勢いをなくすクラウド。と、そのとき──
現場に一台の白い馬車が入ってきた。教会の幹部しか使用を許されていない馬車である。従者が恭しく馬車の扉を開き、中から現れたのは──
「控えよ」
凛とした声が広場に響く。
現場に臨場したのはエルミア教の教皇、スーリア・マリアンヌであった。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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