第十六話 怒髪天
王都に帰還した勇者エルヴィンは幼い女の子から「なんちゃって勇者」とバカにされ暴力を振るおうとしたところルナマリアの介入により逆に殴り飛ばされてしまうのであった。
ルナマリアに殴られ地を舐めた勇者エルヴィンだが、ダメージ自体はそれほどないらしくすぐに立ち上がる。
「てめぇ……只者じゃねぇな……?」
眉間にシワを寄せてルナマリアを睨みつけるエルヴィン。怒りの感情を宿すとともにルナマリアへの警戒感を露わにした。
「エルヴィン、気をつけて! そいつ多分魔族よ!」
「はぁっ!? 何でこんなとこに魔族がいんだよ!」
杖でルナマリアを指して叫ぶ賢者マリアに勇者エルヴィンは率直な疑問を漏らす。
「分からないけど、あいつのニット帽ちょっと角っぽいの浮き出てるし! それに魔力も人間離れしてるわ!」
マリアの言葉を聞き勇者パーティはより警戒感を強める。ルナマリアからやや距離をとりつつも四人で取り囲むことには成功した。
「魔族ってんなら遠慮しなくていいな……ぶっ殺してやるぜ!」
先ほどあっさりいなされたのをもう忘れたのか、エルヴィンはルナマリアに猛ダッシュし斬りかかった。
「ふう。手加減するのも大変なんですからね」
少し唇を尖らせたルナマリアは一瞬でエルヴィンの懐に入ると手首を掴んでそのまま投げ飛ばした。
「ぐはぁっ!!」
再度地を舐めるエルヴィン。
「エルヴィン! こいつー-!」
魔法使いジルと賢者マリアが同時に魔法が放つが、ルナマリアが軽く息を吹きかけるとまたたく間に魔法が霧散する。驚愕に目を見開くジルとマリア。どう考えてもただの魔族の力ではない。
「お前ら援護しろ!」
剣聖クルドがルナマリアに接近しようとする背後から、マリアとジルが再度魔法を放つ。こともなげに魔法をかわしたルナマリアのそばまで接近したクルドが剣を一閃するが、それもあっさりとかわされてしまった。
「な、何なんだ……何なんだよてめぇはよ!!」
怒気を孕んだ声を発したエルヴィンは奥歯をギリギリと噛みしめると、凝りもせずルナマリアに躍りかかった。
ため息をつきながらひょいひょいっと剣をかわすルナマリアにエルヴィンは憎々しげな視線を向ける。必死で剣を振り回すが捉えられる気配がまったくない。明らかに戦闘力に差がありすぎる。
「……ねえジル、ちょっと」
賢者マリアはエルヴィンが苦戦している様子を見てとると、魔法使いジルに何やら耳打ちを始めた。
「……本気? そんなことしたら……」
「このままじゃ私たちの力が疑われるでしょ!? 野次馬もいるし魔族なんかに負けるわけにはいかないのよ!」
怒りに顔を歪ませながら怒鳴るマリアに気おされたジルは、エルヴィンたちから少し離れた場所に目を向ける。
視線の先には、先ほどエルヴィンをなんちゃって勇者と馬鹿にした六歳くらいの女の子の姿が。
『……炎矢!』
ジルは少女に向かって魔法を放った。顕現した炎の矢が凄まじい速さで少女を襲う。
「何てことを!」
驚愕の色を浮かべたルナマリアは即座に反応すると、すぐさま少女のもとへ駆け寄りその小さな体を抱いて地面を転がる。
「ふう……大丈夫?」
「う……うん」
少女へ覆いかぶさるようにして安否を確認したルナマリアがほっとしたその刹那―
「……うあっ!!」
突如背中に走る激痛。あまりもの痛みにルナマリアは一瞬意識が遠のきそうになる。
隙ができた一瞬をついてエルヴィンがルナマリアの背中を袈裟に斬りつけたのだ。
「お、お姉ちゃん!」
「だ……大丈夫だよ……」
心配の声をあげる少女に、ルナマリアはにっこりと微笑む。
「散々手こずらせてくれたじゃねぇか……魔族ごときがよ!」
再びルナマリアの背中に剣を振り下ろす。
「あああっ!!」
背中から噴き出す鮮血。ルナマリアは遠のきそうになる意識を手繰り寄せながら、少女を力いっぱい抱きしめた。
「……出ちゃダメだよ……? また魔法で狙われちゃうかもしれないから……ね?」
ルナマリアは何とか力を振り絞り、魔力で体に結界を張った。ただ、すでに勇者の剣撃を二度も受けているため、そこまで堅牢な結界を張ることができない。
「ちっ……! 結界かよ。まあいいさ。てめぇの意識が飛んで結界が解除されるまで斬りまくってやる!」
エルヴィンは狂気的な笑みを浮かべると、剣を高らかに掲げてからルナマリアの背中へ剣を振り下ろした。
「姫様。ただいま戻りました」
「おー。おかえりカタリナ。まだルナマリアは来てねぇの?」
ソファに寝っ転がっていたラミリアは体を起こしてカタリナに視線を向けた。
「そう言えばまだ来てないですね。普段は約束の時間きっかりに来るんですけどね」
「珍しいな。また迷子にでもなってんのかね」
「あ、そう言えばさっき外で、勇者一行が広場で魔族と戦っているみたいな話をしていましたけど、まさかルナマリアちゃん巻き込まれているんじゃ……」
「……は? マジで?」
まあ、もしルナマリアだったとしてもあのむっつり勇者に負けるなんてことはまずないわな。
「ええ。勇者が一方的に魔族に攻撃しているみたいなこと言っていました」
は? 何だそれ? ルナマリアじゃねぇのか?
途端に心臓の動悸が激しくなった。何とも言えない嫌な胸騒ぎ。
ラミリアは立てかけてあった愛剣を手にとると、不安をかき消すかのように全力で駆け出した。
「はあっはあっ……しぶてぇなこの野郎……」
ぽたぽたと血が滴る剣を携えたエルヴィンは、肩で息をしながら呟いた。目の前にいる魔族の結界はもうほとんど機能していないが、ときどき背中から毒の霧が排出されるのでなかなかとどめをさせないでいた。
「エルヴィン、どいて!」
賢者マリアが少し離れた場所からルナマリアの背中へ魔法を放つ。ルナマリアにはもはや回避する体力など残っていない。吸い込まれるように直撃する賢者の魔法。
「……っ!!」
ルナマリアは意識が朦朧とし、もはや痛みに声をあげることすらできなくなっていた。そのような状態になっても人間の少女をしっかりと抱きしめたまま離さないルナマリア。
ああ……これはヤバいかも。せっかく新しい世界に魔王として生まれ変われたのに、結局死んじゃうのか。
ラミ……。
ごめんねラミ。遊びに行くって言ったのにね。
こっちの世界で初めてできた友達と呼べる大切な存在。
ううん、転生前の世界でも私には友達なんて呼べる存在はいなかった。
ラミが私にとって生まれて初めての友達だった。
嬉しかった。私が魔王と分かってもまた遊びに来ていいって言ってくれて。
私なんかのことをマブダチって言ってくれて。
会いたかったな……本当にごめんね、ラミ……。
ルナマリアは少女を抱きしめたまま目を閉じた。
「おっ、やっと結界も完全に解けたようだな。じゃあ今度こそ、これで終わりだ!」
エルヴィンは剣を再び高らかと掲げると、勢いをつけてルナマリアの首筋から背中にかけて斬り下ろそうとした――が。
周りの空気がピンと張り詰め一変する。
その場にいる誰もが肌にビリビリとした感覚を覚えた。異変に気づき振り返るエルヴィンとパーティの目に飛び込んできたもの──
そこには、鬼のような形相をした聖女ラミリアが剣を携えて立っていた。
「……てめぇら……あたいのマブダチに何してくれてんだ……」
恐ろしい表情で底冷えするような声を発したラミリアは、幽鬼のようにゆらゆらとルナマリアとエルヴィンのもとへ歩みを向けた。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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