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第十五話 なんちゃって勇者

「ど、どうだ……?」


ドワーフの鍛治師シオンは緊張した面持ちで返事を待つ。ローテーブルを挟んだ向かいには一振りの刀を厳しい目つきで眺めるラミリアの姿。


「いい感じだ……が、振ってみねぇことには分からねぇな」


刀を鞘に収めたラミリアは立ち上がり、部屋の真ん中へ移動した。刀身を収めた鞘を腰の位置に固定し重心を落とす。


集中力を高めたラミリアは腰を落とした姿勢から逆袈裟に抜刀した。神速と呼ぶにふさわしい見事な抜刀術。空気を切り裂くかのような剣技に、間近で見ていたシオンが嘆息する。


「うん……初めて打ったにしては上出来だと思う。ただ、少し刃を薄くできるか? あともう僅かに反りもほしい」


刀を掲げていろいろな角度からチェックすると、静かに鞘へ収める。一つひとつの所作も美しい。これが剣聖と呼ばれる方か、と改めてシオンは感心した。


「分かった。が、刃を薄くすると耐久性が心配だな……敵と斬り結んだとき破損するおそれが……」


「おいおい。あたいとまともに斬り結べるような奴がそうそういると思うのか?」


ラミリアはシオンにニヤリとした笑みを向ける。たしかに、剣聖と呼ばれるラミリアとまともに斬り結べるような者はそうそういない。これまでもそのような者はいなかった。


「耐久性は考えなくていい。とにかく斬れ味特化だ。相手の剣が届く前にあたいが相手を斬り伏せりゃいいだけの話だからな」


「あ、ああ……分かった! 任せてくれ!」


ラミリアから刀を受け取ると、シオンはすぐさま部屋を飛び出していった。と、入れ替わりにヴァンが入ってくる。


「あれ? シオンさんもう帰るの?」


「ああ。仕事熱心な奴だ」


「刀はどうだった?」


「なかなかよかったぜ。ドワーフってすげーんだな。僅か数日でそれなりの形に仕上げちゃうんだもんな」


ラミリアは心底感心していた。あの調子なら本職の刀鍛治より凄い一振りができるかもしれない。


「やっと念願叶うね。今でも十分強いのに刀を手にしたラミがどうなっちゃうのかちょっと怖いけど」


「人を化け物みたいに言うなし」


「ごめんごめん。それはそうと午後の予定は?」


「ルナマリアが遊びに来る」


「ほんと仲いいね。てかルナマリア魔王の仕事いいのかな……」


それはラミリアも思っていた。サボりまくってるのか、もしくはめちゃくちゃ仕事できる奴なのか。真面目そうだから多分後者な気がする。


とりあえず、ルナマリアが来る前にお菓子を用意しておこうと考えたラミリアはカタリナを呼び出し、お使いを頼んだのであった。




「おいおい……どこがドラゴンに襲われて大変なんだよ。いつもとまったく変わりねぇじゃねぇか!」


勇者エルヴィンが怒鳴り散らす。まさか戻ってくるあいだに誰かが倒した? もしくはどこかへ飛び去ったのか?


たしかに戻るまでに二日ほどはかかったが……。エルヴィンの予想では、まだ王国の軍がドラゴンと激しい戦闘を繰り広げているはずだった。


ところが、フタを開けてみるとドラゴンはおらず街に目立った被害も見られない。もしかして、あの村のジジイに騙されたのだろうか。


その可能性に行きつきエルヴィンのこめかみに蜘蛛の巣のような血管が浮き出る。


どいつもこいつも俺を舐めやがって……!!


と、イライラが爆発しそうなエルヴィンをさらに不快にさせる言葉が耳に届く。


「あ、なんちゃって勇者だ」


少し離れた場所から小さな女の子がエルヴィンたちを指差していた。エルヴィン一行は女の子のもとへつかつかと近寄る。


「おいクソガキ。今何て言いやがった?」


「え……でも皆んな言ってるもん……お父さんもお母さんも、友達も……何もしてないなんちゃって勇者だって……」


女の子の瞳には怯えの色に加え侮蔑の色も浮かんでいた。エルヴィンはもう我慢の限界だった。


「……舐めんなよこのクソガキがあああ!!」


エルヴィンは怒りに任せて幼い女の子の顔を全力で蹴ろうとした──が。


「!?」


渾身の横蹴りは見事に空を切り、バランスを崩したエルヴィンは転倒しそうになる。



「いやいや、いい大人が何やってんの? 恥ずかしいと思わない?」


背後からの声に振り返ると、そこにはニット帽をかぶったワンピース姿の少女が先ほどの子どもを抱いたままエルヴィンに鋭い視線を向けていた。


「君、大丈夫だった?」


「う、うん……ありがとうお姉ちゃん」


ルナマリアは女の子をそっと降ろすと、再度エルヴィン一行に視線を向ける。


「……何だてめぇ。そのガキは勇者であるこの俺様を侮辱しやがったんだぞ! それを庇うならてめぇも同罪だ!」


「へえ……小さな女の子をいきなり蹴ろうとするなんてなかなか素敵な勇者様だね」


嘲笑うかのように言葉を放つルナマリアにエルヴィンは射殺すような視線を向けた。


「クソッタレが! てめぇもぶっ殺してやる!」


エルヴィンは剣を抜いてルナマリアに斬りかかった──が。


上段から迫る剣をルナマリアは親指と人差し指で挟んで止めてしまった。


「な、ななっ!」


「ずいぶんか弱い勇者様なんですね」


ルナマリアはにっこりと微笑むと、軽くジャンプしてエルヴィンの顔を殴りつけた。


「があっ!!」


地面を転がるエルヴィン。あり得ない光景に勇者パーティのメンバーは愕然とした表情を浮かべる。


「あの女の子に謝るのなら許してあげますよ?」


微笑みながらも瞳に怒りを宿したルナマリアの声が冷たく響いた。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!

https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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