第十四話 予期せぬ襲来
「な、何だこりゃ!?」
突如響き渡った耳をつんざくような奇声に耳を塞ぐラミリアたち。これまで一度も聞いたことがない不気味な奇声に誰もが警戒レベルを高める。
「……あちゃー」
窓際へトテトテと近づき空を見上げたルナマリアは微妙な表情を浮かべると、ニット帽の上から頭をぽりぽりとかいた。
「何か知ってんのか? ルナマリア!」
「あー、うん。多分ドラゴンだね」
ルナマリアはサラッと答えるが、この世界においてドラゴンはこの上ない脅威の一つである。強力なブレスの一撃で都市が壊滅した事例もあるくらいだ。
「マ、マジか! くっそやべーじゃねぇか! ヴァン!」
「うん! 軍のほうは任せて!」
ヴァンが部屋から飛び出そうとするが、ルナマリアがそれを制した。
「ヴァンさん、軍は出さないほうがいいです。刺激しちゃうだけなんで」
「で、でも放置するわけには……!」
「あー、大丈夫ですよ、私が行くんで」
ルナマリアはそう告げると窓を開け、そのまま空へと飛んでいった。
「おー! 魔王ぱねーな!って……いやいや、ルナマリア一人じゃやべーだろ!」
「ラミ、とりあえず最上階のバルコニーまで行くよ!」
ラミリアとヴァン、そしてスーリアの三人は城の階段をひたすら駆け上がり最上階のバルコニーに出た。三人が視線を向ける先には、深い紫色の髪を風に靡かせながら宙に浮くルナマリア。そして……。
「あ……あれが……」
「ドラゴン……」
「初めて見た……」
まるで金属のような質感の鱗に全身を覆われた巨体。凶悪な顔つきに鋭い爪。ファンタジー系のアニメやラノベでしか見たことがない伝説上の生き物がそこにはいた。
「あ、あんなの魔王でも勝てないんじゃ……」
不安の声を漏らしたヴァンだったが、その懸念は必要なかったようだ。ルナマリアとしばし向き合っていたドラゴンは、おもむろに城へ背を向けるとそのままやってきた方角へと飛び去ったのだ。
「な、何故帰っていったんだ……?」
スーリアも目をくるくるとさせながら戸惑っている。ドラゴンが去るのを見送ったルナマリアはバルコニーにいたラミリアたちに気づくと、そこへふわりと降り立った。
「ル、ルナマリア、さっきのドラゴンは……?」
「あー、私がいるのに気づいて挨拶に来たみたいだね。百年くらい眠ってて起きたら魔王の気配を感じたらしくて。とりあえずどこに住んでるのか、家族や仲間がどれくらいいるのか聞き取りしてから帰ってもらったよ」
「ドラゴンが挨拶に……やっぱ魔王ぱねー」
ラミリアをはじめ全員が呆然とした表情を浮かべている。目の前にいる可愛らしい少女が真に魔王であることをまざまざと見せつけられてしまった。
「本当に……魔王なんだな」
ラミリアの自室に戻ったスーリアは、向かいに座るルナマリアにちらりと視線を向けるとそう呟いた。
「そうですよー。王とは言うものの政治とかしてないですけどね。特定の種族が数を増やしすぎていないか、種族間で争っていないか、勝手に徒党を組んで危ないことをしていないか、などを監視して必要に応じて対策する、それが魔王たる私のお仕事です」
文献で伝えられている魔王と違いすぎることにスーリアは戸惑っているようだ。が……。
「そうか……自分の目で見てみないと分からないものだな。ヴァンの言う通りだ」
ふぅ、と小さく息を吐いて紅茶を口にする。僅かな時間ではあるがルナマリアをそばで見てスーリアの価値観にも変化があったらしい。
「それに、あの頭の悪い勇者どもに比べたら遥かに好感がもてるしな」
相変わらずスーリアは勇者たちを忌々しく感じているようだ。そのワードを口にしただけでこめかみに血管が浮き出ている。
「つーか、もうあいつら必要ねぇだろ。解任とかできねぇの?」
「いや、そういう仕組みじゃないしな。どこかでのたれ死んでくれるのを祈るしかないな」
大きくため息をついたスーリア。実際にはもっと悲惨な最期を迎えることになることを、このときはまだ想像もしていなかった。
「こいつで最期か?」
「そうみたいね」
勇者エルヴィン一行は王都から少し離れた小さな村に逗留し、魔物退治に励んでいた。もちろん心を入れ替えたわけではない。
そもそも、この村は魔物の被害に遭っていたわけではないのだが、ある日突然勇者たちがやってきて居座ってしまった。
単純に、王都に居づらくなったので一時的に身柄をかわしているだけである。脅威でも何でもない魔物を、遊ぶようにいたぶって殺す彼らに村人も嫌悪感を抱いていたが、勇者だと言われれば無下にもできない。
「おい、帰ってきたぞ……」
「ちっ……魔物にやられて死ねばよかったのに」
帰還した勇者たちの顔を見るなり不快感を露わにする村人たち。もちろん表には出さないが、すべての村人が同じ思いであった。
「今日も魔物からこの村を守ってやったぞ! さあ宴会の用意だ! あと、若い娘を何人か俺のもとへ連れてこい!」
村人たちから嫌悪されている理由はこれである。退治する必要がない魔物をいたぶって殺すだけでも嫌悪の対象だが、エルヴィンたちは魔物退治の見返りとして酒や食べ物、若い女を求めた。
特にエルヴィンの性欲は旺盛で、人妻たちにも手を出すものだから村人たちは我慢の限界を迎えそうになっていた。
「そ、そう言えば勇者様。王都にドラゴンが現れたそうですがご存じですか?」
「何? それは本当か?」
村長の言葉にエルヴィンが反応する。
「ええ、本当みたいです。王都は大混乱に陥っているとか」
もちろん大嘘である。
「そうか! いよいよ俺たちの出番というわけだな! おい、お前たち! さっそく明日王都へ帰還するぞ!」
テンションを上げるエルヴィンたちを目にして村人たちは一様に胸を撫で下ろすのであった。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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