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第十三話 あの頃は

ラミリアのもとへ足を運んだスーリアはルナマリアの膨大かつ禍々しい魔力に警戒感を露わにする。そんな彼女にルナマリアは自身が魔王であることを告げ、スーリアはそのまま気を失ってしまった。

ラミリアに初めて会ったのは六年前のことだ。王立学園の高等部へ進学したとき。あの頃のラミはヤバいくらい荒れてた。


幼少時から剣の鬼才と評され、十歳になる前から戦場に舞い続けた剣姫。剣が強いというだけの理由で戦場へ駆り出され人を斬り続けたラミの精神は間違いなく疲弊していた。


ラミが人を斬れば斬るほど人々は彼女を賞賛し、やがて剣聖と呼ばれるようにもなった。だが、彼女は本当にそれを望んでいたのだろうか。


「何見てんだてめぇ。ぶち殺されてぇのか」


初めてラミが私に話しかけた言葉がこれだった。彼女はいつもこんな感じで少しでも気に入らない奴に絡んでいたもんだ。


彼女が王女であり剣の鬼才であることは誰もが知っている。だから、絡まれた奴は皆んな必死に謝ることしかできなかった。


「てめぇに言ってんだよ。あたいに何か文句でも──ぐっ!!」


ラミが言葉を最後まで紡ぐのを待たずに、私は彼女の腹に思いっきり蹴りを入れた。


「うるせぇよお姫さん。口喧嘩がしてぇのか?そんなにヤりてぇならさっさとかかってこいよ」


そこからはもうしっちゃかめっちゃかだ。この日から私たちは顔を合わすたびにケンカするようになった。卒業までの三年間ずっと。


ラミはめちゃくちゃな奴だったが卑怯者ではなかった。私の体調が悪そうなときは絶対に絡まなかったし、数人で囲まれていたときはいつも乱入してきた。


ときどき話もするようになった。ラミの幼馴染であるヴァンの存在も大きかったのだが。


会話を通して、ラミが素直で優しい一本筋が通った奴ということもよく分かった。相変わらず殴り合いはしたが、いつの間にか私はラミのことが大好きになっていた。


「そういやスーちゃん卒業したらどうすんだっけ?」


「スーちゃん言うな」


「え、おこ? おこなの? スーちゃんおこ?」


ラミはときどき訳の分からないことを口走ることがある。そして何故かヴァンは彼女の言葉をすべて理解できていた。幼馴染ならではの絆なのだろうか。


「私は……両親ともに教会の幹部だからな。私もおそらく聖職者になるだろうな」


「おー、マジか。でもスーちゃんなら教皇とかなれるんじゃね? 口悪ぃけど」


「……そういうお前はどうするんだ、ラミ。王位は継げないからどこかへ嫁に行くんだろうが、お前のそういう姿は全然想像つかんな」


「嫁とかは興味ねえなぁ。まあ先のことなんて分からねぇからよ。そのときやりたいことをやるさ。自分がやりたいことと楽しいこと最優先だ」


「うん、ラミらしいアホな答えだ」


「んだとおっ」


ああは言ったが、心のなかではラミらしい素敵な考えだと思ったし羨ましいとも思った。ってあれ? 私何でこんなこと思い出してんだ?



「……ん……んん……」


「あ、姫様! お目覚めになりましたよ!」


ぼんやりとした視界に飛び込んできたのは、白い天井にラミのアホヅラ、可愛い使用人に……!


「──ま、ままま……まま……!!」


ベッドから飛び起きようとしたスーリアの体をラミリアとバレッタが力ずくで押さえ込む。


「はいはい、スーちゃんちょっと落ち着けって」


これみよがしにため息をつくラミリアにイラッとするスーリア。


「だ、誰のせいだと思ってんだ! だいたいお前は……ゲホッ……ゲホゲホッ……!」


「ほらほら、咽せちゃってんじゃん。とりあえず深呼吸ちまちょうね〜はい、吸って〜吐いて〜」


そう、ラミリアは人を怒らせる天才である。案の定スーリアの血管は今にもはち切れそうだった。結局スーリアが落ち着くまで三十分以上かかってしまった。



「ふぅ……」


バレッタが淹れ直した紅茶を口にしてほっと息を吐くスーリア。鼻に抜けるベルガモットの香りが気持ちを落ち着かせる。


今、部屋のなかにはラミリアとスーリア、ルナマリア、そしてヴァンの四人がいる。ヴァンは練兵中だったのだが、ラミリアの命を受けてカタリナが呼びに行ったのだ。


「それにしても、スーリアが王城に来るなんて珍しいね」


ルナマリアと並んで座るヴァンが話を切り出す。


「ああ。私が放っている密偵が街のなかでラミリアと魔族らしき者が一緒に歩いているのを見たと報告があったんだ」


「で、それを確認しにきたと」


「そうだ。いくらラミがアホでもまさかそんな大それたことするはずがない……そう信じていた。ついさっきまではな」


冷たく光る蒼い目でジロリと睨まれたラミリアだが、どこ吹く風でお菓子を口にしていた。


「だからさー、言ってんじゃん。ルナマリアは魔王だけどいい子なんだって。じゃなきゃマブダチになんてなるわけねぇじゃん」


スーリアのこめかみと額に蜘蛛の巣のような血管が浮かび上がる。


「スーリア。僕もルナマリアとは仲良くしてるけど、本当に魔王なの?ってくらいいい子だよ? それに人間に害意なんていっさい持ってないし」


「ヴァン……お前まで……」


「ねえスーリア。たしかに教会の文献には魔王が脅威的な存在として書かれていたのかもしれない。でも、大切なのは自分たちの目で見たものじゃないかな」


「う…………」


「少なくとも僕はルナマリアが悪の存在とは思えない。それに、仮にルナマリアが悪い魔王だった場合、君の大好きなラミが親友になんてなるわけないと思わない?」


ヴァンの言葉に耳の先まで真っ赤になるスーリア。


「な、ななっ……ななな……!」


「ほんと分かりやすいよねスーリアは。君がラミのこと大好きなのは学生の頃から知ってるよ。君が倒れたのも、あんなに怒ったのも、自分以外の者をマブダチだなんてラミが言ったからじゃないのかなぁ?」


「な、な、何をバカな……ばば、バカなこと……」


カップを持つ手がブルブルと震え紅茶が零れる。まるでスーリアの周辺だけ大地震が発生しているようだ。


「あの、スーリアさん?」


カチャリと紅茶のカップをソーサーに戻したルナマリアが、スーリアに真っ直ぐな視線を向ける。


「あなた方が魔王のことをどのように認識しているのかは分かりませんが、私は人間に害をなす気も世界を征服するつもりもありませんよ?」


「…………」


「ラミにも言いましたけど、魔王の仕事って魔族の管理なんです。めちゃくちゃ地味で大変な仕事なんです。世界征服なんてやってる暇まったくないんですよ」


その割には頻繁に遊び来てんなおい、と思わず心のなかでツッコむラミリア。


「だから、あなたが心配するようなことは何もないと思いますけど?」


「む……だが……」


「ふぅ。いったいどうすれば信じてもら──!?」


突如表情を変えて窓の外へ視線を向けるルナマリア。


「どした、ルナマリア?」


「……何かヤバそうなの来てるみたい」


刹那、耳をつんざくような奇声が響き渡った。

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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!

https://book1.adouzi.eu.org/n3094hw/

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