第十話 マブダチ
「うーん、このお菓子美味しいですね姫様!」
ここはイングリド王城にあるラミリアの自室。侍女服のままソファに腰掛けたバレッタは、幸せそうな顔をしてお菓子を頬張っている。
「バレッタさん、これも美味しいですよ」
ローテーブルの皿に盛られたお菓子の一つを指さすカタリナ。
「このお菓子、紅茶に合いますね〜」
紅茶とお菓子を交互に口にしているのは先ほど街で出会った自称魔王の少女である。
いや、どうしてこうなった?
ソファにはラミリアにバレッタ、カタリナ、自称魔王が座りさながら女子会の様相を見せていた。そのなかに混ざる勇気がなかったのか、ヴァンはラミリアのベッドに腰掛けている。
「いや、呑気に茶しばいてる場合じゃねぇ」
一人自分にツッコんだラミリアは自称魔王に視線を向けた。
「えーと、お嬢ちゃん名前何だっけ?」
「あ、言いませんでしたっけ? ルナマリア・ディル・スタンダールです」
マジか。聖女の私よりずっと聖女っぽい名前やないか。
「で、ルナマリアは魔王だと」
「あい。一応魔王が仕事ですね」
魔王って仕事なの!?
ちなみにバレッタもカタリナも、小さな女の子が冗談を言っていると思っているのでずっとニコニコ顔だ。
「ルナマリアちゃんは王都に住んでるんじゃないの?」
カタリナは次のお菓子を選びつつルナマリアに質問した。
「違いますよー。美味しいお菓子屋さんの噂を聞いたから買い物に来たんですよ。でも迷子になってしまって」
「なるほど。そこを姫様に助けられたのね」
バレッタがぽんと手を叩いて納得する。
「まあそんなところです。完璧な変装で入り込んだはずですが、ラミリアさんの天才的な推理力と洞察力の前には無力でしたね」
いや、誰が見ても分かるわ。舐めんなし。
そんなこんなで、訳が分からぬままスタートした女子会はその後一時間近く続いた。
「あーーーー。何かどっと疲れたし」
お開きとなりバレッタとカタリナは食器類を片付けるため部屋を出て行った。ラミリアはベッドへ仰向けに寝っ転がる。
「ほえー。お姫様ってこんなふわふわのベッドで眠ってるんですね〜」
何故かベッドの上にはルナマリアもいた。
「ルナマリア。あんた本当に転生者で魔王なの?」
「ええ、そうですよ。びっくりしましたよほんと」
全然そんなふうには見えない。
「あんた、世界征服とかするつもり?」
「へ? 何でそんなことを?」
心底驚いたといった表情を浮かべるルナマリア。まるでラミリアが非常識な質問をしたような空気になってしまった。
「いや、だって魔王ってそういうもんなんじゃないの? 知らんけど」
「魔王の仕事って基本的に魔族の管理ですからね。わざわざ仕事増やすようなことしませんよ」
なるほど。誰でも仕事が増えるのは嫌なものだ。いや、そういうことじゃないか。
「うーん。どう思う、ヴァン?」
「いや、僕に聞かれても……」
そりゃそうか。でも、ルナマリアが魔王というのは本当だと思う。尋常じゃないくらいの魔力秘めてるしな。
「……ラミリアさんは、転生前どういう人だったんですか?」
「あ? どうしたんいきなり」
「ちょっと聞いてみたくなったんです。こっちで初めて出会った転生者だし」
ルナマリアはラミリアと同じようにベッドで仰向けになり天井を見つめた。
「んー、まあ普通のJKだったと思うぞ。多少はヤンチャだったけど」
「多少じゃないよ」
すかさずヴァンがツッコむ。
「……幸せでしたか?」
「不幸と思ったことはねぇな。ルナマリアは違うのか?」
「私は……親に殺されそうになったんです」
いきなり超ド級のヘビーな話が始まってしまった。
「首を絞められて、でも死にたくないって強く願ったらこの世界で魔王に転生しちゃいました。アハハ」
いや全然笑えねーし。アハハじゃねーよ。
「転生したとき、私はすでに自分で動ける状態でした。体は小さかったけど。でも、私のお父さんやお母さんはどこにもいませんでした。何でも、魔王はそんなもんらしいです」
いきなりハードモードがすぎる。生まれてすぐサバイバルとか。
「まあ、幸いよくしてくれる魔族がたくさんいたんで生活には困りませんでしたけど」
「そ、そっか……」
同じ転生者なのに余りにも境遇が違いすぎてラミリアは何となく申し訳ない気持ちになってしまった。
「だから……ラミリアさんとヴァンさんが転生者だって分かったとき、めちゃくちゃ嬉しかったんです」
寝転がったままちらりとルナマリアを見ると、涙が頬を伝っていた。喉の奥が熱くなる。
「さてと……そろそろ帰らなきゃ。皆んな心配するだろうし。ラミリアさん、ヴァンさん、今日はありがとうございました。会えて……嬉しかったです」
身を起こしたルナマリアは寂しそうに笑うと、ベッドから降りて部屋を出て行こうとした。
「待てよルナマリア」
「……はい?」
「またいつでも遊びに来なよ。お菓子と紅茶くらいならいつでも出せるからさ」
少し照れながら伝えると、ルナマリアは驚きの表情を浮かべたあと泣きそうな顔になり、最後は満面の笑顔を見せた。
「ほ……本当にいいんですか? 私魔王なのに……?」
「関係ねーよ。誰と付き合うかは私自身が決める。誰にも文句は言わせねーさ」
ルナマリアは満面の笑みを浮かべたまま大粒の涙を溢す。
「……それって、お友達でしょうか?」
「ああ……マブダチだ」
「今日初めて会ったのに?」
「時間なんて関係ねーよ」
「うん……ありがとう。ラミリア」
「ああ。よろしくな、ルナマリア」
こうして、魔王を討伐するはずの聖女は何故か魔王とマブダチになったのであった。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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