もう一つのスキル
ご覧いただき、ありがとうございます!
それからというもの、“グラハム塔”領域での訓練は、常にプラーミャ、立花、加隈のパーティーで行うことになり、その結果、連携も上がって、今では俺達が何か手助けをしたりすることもなくなった。
「へへ! コッチは任せろ!」
「ユーイチ! 調子にのるナ!」
「加隈くん、出過ぎだよ!」
……とまあ、加隈が元来のお調子者を発揮して、少し危なっかしいところはあるものの……大丈夫だろう。だよな?
「ふふ、この調子なら、もう私達が同行する必要もなさそうだな」
「エエ、そうですわネ」
「「「っ!?」」」
そんな先輩とサンドラの会話を耳聡く聞いた三人が、一斉にこちらへと振り向いた。
「イ、イヤヨ! サンドラが一緒じゃなかったら、こんなところ来ないんだかラ!」
「ボ、ボクも望月くんと一緒に……!」
「師匠! 俺を見捨てるんすか!?」
などと言いながら、三者三様に俺達に詰め寄ってきた。ええい、鬱陶しい。
「いいかお前達、この“グラハム塔”領域の踏破に当たっては、俺や先輩、サンドラは一緒に行けないルールなんだぞ? だったら、必然的に三人になるに決まってるだろ!」
「「「…………………………」」」
俺が少しキツめに言うと、三人はシュン、としてしまった。いや、どうしろと?
「ふふ、まあこの領域を踏破してしまえば、また次の“カタコンベ”領域では一緒に攻略できるのだから、楽しみに取っておくといい」
「「「! は、はい!」」」
先輩のフォローに、三人はぱあ、と笑顔を浮かべた。
「うむ。ということで、来週……いよいよ、三人での踏破を目指すぞ。いいな」
「「「はい!」」」
そうかー、そうなると来週からは俺達は“アトランティス”領域の攻略に集中できるな。
だけど……はは、まさかこの俺が、いつの間にかこんなに一緒に領域を攻略してくれる仲間ができるなんて、な。
「? ヨーヘイ、どうしたノ?」
「ん? ああいや、何というか、その……嬉しいな、と思ってさ」
そう言った後、俺は何だかむずがゆさを覚え、苦笑しながら鼻を掻いた。
「フフ、変なヨーヘイ」
「ウルセー」
はにかむサンドラに、俺はそんな憎まれ口を返すのが精一杯だった。
◇
土曜日になり、俺は先輩、サンドラ、プラーミャと一緒に“アトランティス”領域へとやってくると。
「「ココガ……」」
サンドラとプラーミャが、この特殊な領域を眺め、思わず声を漏らした。
「な? ちょっと普通と違う、だろ?」
「エ、エエ……まさか、こんなに階層が広がっている領域があるだなんテ……」
「ふふ……私も初めてここに来た時は、度肝を抜かれたぞ」
まあ、この“アトランティス”領域は、その階層の広さが街一つ分あるからな。しかも、それが二つ。
「おっと、幽鬼のお出ましだ」
俺達の姿を見つけた幽鬼……“チャリオット”が、地響きを上げながら突進してくる。
「任せなさイ! [ペルーン]、行きますわヨ!」
『(コクリ!)』
「フフフ……[イリヤー]、殲滅ヨ」
『……(コクリ)』
サンドラの精霊、[ペルーン]はメイスを振り回しながら突撃し、プラーミャの精霊、[イリヤー]がその後に続く。
「【ガーディアン】!」
[ペルーン]は前方に無数の盾を展開し、チャリオットの突進を受け止めると。
「フフフ! 【絨毯爆撃】!」
チャリオットの頭上へと飛んだ[イリヤー]が、真っ赤に燃える槍衾を叩き落した。
当然、チャリオット達はなす術もなく、全て幽子とマテリアルに姿を変える。
「アラ? 思ったよりも大したことないですわネ?」
「エエ、歯ごたえがないワ」
なんて二人は言っているが、それでもチャリオットはレベル四十五の幽鬼だ。まあ、それだけ二人が強いってことと、“アルカトラズ”領域が基準になってしまっているから、だな。
「はは、これなら二人も問題なさそうだな」
「当然ですワ!」
「私を見くびらないデ!」
おっと、俺の言葉が二人の癇に障ったみたいだ。気をつけよう。
「ふふ、二人もこれでここのレベルも理解しただろう。さあ、一気にこの領域を攻略してやろうじゃないか!」
「「「おー!」」」
先輩の号令の下、俺達は気勢を上げて攻略に乗り出した。
だけど。
「ひ、広すぎですワ……」
「……疲れタ」
変化のない景色をかれこれ三時間以上歩き続けていることもあって、サンドラとプラーミャが疲れた表情を見せる。
「ホラホラ、まだこの階層の全体の十分の一も攻略してないんだ。頑張れ」
「「じゅ、十分の一……」」
と、発破をかけてみるものの……本音を言うと俺もかなり疲れてはいるんだけど。
そんな中。
「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
――斬ッッッ!
とまあ、先輩だけはメッチャ元気に幽鬼を狩りまくっている。あの人はどこまで完璧超人(ただし、水泳以外)なんだ。
『はう~……そろそろ退屈なのです……』
「なんだ、[シン]。だったら[関聖帝君]と一緒に幽鬼を狩ってくればいいのに」
『はう! それでも[シン]が何かする前に、関姉さまが全部倒してしまうのです! 見ているだけになってしまうのです!』
「そ、そうか……」
ま、まあ確かに、あの様子じゃなあ……って、そういえば。
「だったらさ、今こそあのスキルを使ってみる時じゃないのか?」
『あのスキル、なのですか?』
俺の提案に、何故かコテン、と首を傾げる[シン]。いや、なんで本人が不思議がってんだよ。
「ホラ、お前には【方術】以外に特殊なスキルがあるだろ」
『! アレなのですね!』
「そうそう!」
どうやら俺の言いたいことが分かったようで、[シン]は何度も頷い……て!?
「シ、[シン]!?」
『はう……は、恥ずかしいのですけど、シ、[シン]はマスターのためなら、何だって……できるのです……』
そう言って、[シン]は頬を赤らめながら潤んだ瞳で俺にすり寄ってきた……って!?
「……なあ[シン]、一つ尋ねるが、お前……なんのスキル使うつもりだ?」
『は、はう……[シン]にそんなことを言わせるなんて、マスターはイジワルなのです……も、もちろん【繁殖】、なのです……』
俺に抱き着いてモジモジしながら、そんなことを呟く[シン]。
それを聞いた今の俺は、顔面が真っ青になっているに違いない。
「ちょ!? おま!? 【繁殖】じゃねーよ! 【神行法】だ【神行法】!」
『ああー! なんだ、ソッチなのですか!』
理解した[シン]は、ポン、と手を叩いた。
そして俺の中で一つの疑問が浮かぶ。
……というか【繁殖】スキルって、ひょっとして人間と精霊でもアリなのか!?
ま、まあ、深く考えないでおこう。
『はう! では、行くのです! 【神行法・跳】!』
そう叫ぶと、[シン]は勢いよくこの階層の上空へ、まるで空中を飛び跳ねるように高く昇っていった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回はこの後更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!




