悠木アヤ
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「悠木……」
「……久しぶりね」
面会室の中に入ると、透明な仕切りの向こう側に、この施設の制服を着た悠木アヤが、椅子に腰かけていた。
「なお、面会時間は十分です。時間になりましたらお声がけしますので」
同席している職員の説明を受けると、俺と先輩は用意されているパイプ椅子に腰かけた。
「はは……元気、してたかよ」
「……ええ、おかげさまで」
とりあえずなんて声を掛けていいか分からなかった俺は、適当な言葉を投げかけてみると、悠木はフ、と薄く微笑んだ。
何というか……悠木の奴、雰囲気変わった……?
「……今日は、私に聞きたいことがあるんでしょう?」
俺が話を切り出す前に、悠木からそう言ってきた。どうやら、俺達の目的はある程度察しているみたいだ。
「ああ……俺は、あの時の悠木の行動の全てについて、腑に落ちていない。お前は一-二……いや、一年生の中でも一番頭が切れる奴のはずだ。なのに、あんな短絡的で意味不明な真似をしたんだからな」
「……あら、ありがとう。意外と評価してくれてるのね」
……本当にコレ、あの悠木か?
俺にお礼を言うだなんて、到底考えられないんだけど。
「……そうね。まず結論から言わせてもらうと……私でも分からない、としか言いようがないの」
「分からない?」
悠木の言葉に、俺は思わず尋ね返した。
だけど……分からないって何だ?
「ええ……というのも、正直言うと学園にいる時、何故だか分からないけど私はあなたが憎くて憎くて仕方がなかったの。特に理由もなく」
「ど、どういうことだよ!?」
「……それこそ私が知りたいくらいよ。でも今は、別にあなたのことを憎いとも思っていないし、私自身なおさら訳が分からなくなっているの……」
いや、話を聞いている俺のほうが、訳が分からないぞ!?
そもそも、学園にいる時はなんでそこまで憎まれてたのかってこともだし、学園から出た途端、俺への憎しみが無くなったって……完全におかしいじゃねーか。
「それと……」
「それと?」
「……木崎さんが学園を退学していなくなって、しかもあなたも一-三にクラス替えをした後、私の中で選択肢が二つ現れたの」
「選択肢?」
「……ええ。それで、その選択肢っていうのが、『あなたの仲間になる』か、『あなたを抹消する』だったの」
「「はあ!?」」
俺だけじゃなく、今まで静かに聞いていた先輩まで声を上げた。
何だよソレ……それこそ、まるでゲームによくある二択みたいなモンか!?
「……何故だか分からないけど、私はそれを選んで実行しないとマズイと思った。だから、一番無難な『あなたの仲間になる』を選択したんだけど……」
「ああ……」
確かに、悠木は一-三の教室へ俺を勧誘しに来たな……。
「……でも、あなたに断られた途端、ふつふつと私の中にあなたへの殺意……というか、あなたを抹消しなくては、って気持ちが芽生えたの。何の疑いもなく、ね」
「…………………………」
「……多分、これって一つ目の選択肢が失敗したから、二つ目の選択肢を強制的に選ばされたんじゃないかって、今ではそう考えてる」
駄目だ……悠木の言っていることが理解できなくて、頭の中が混乱してる。
これじゃまるで、悠木が自分の意志や感情を、無理やり操られたみたいじゃねーか……。
「……それで、どういう訳かこうも思ったわ。あなたを抹消すれば、元通りになる、って」
「っ!?」
その言葉に、俺は息を飲んだ。
それこそ、まさに俺が悠木に聞きたかったことだから。
「……ふふ。そんなこと、絶対にあり得ないのに……むしろ、そんなことしたらすべてが終わるのに。それでも」
悠木はここで一拍置き、すう、と息を吸い込むと。
「……あの時の私は、そうとしか考えられなかった」
俺をジッと見つめながら、静かにそう告げた。
「な、なあ、悠木はなんでそうとしか考え……「すいません、時間になりましたので……」」
俺は透明の仕切り越しに悠木に詰め寄ろうとしたところで面会時間を過ぎてしまい、職員に止められた。
「……望月くん、行こう」
「はい……」
先輩に促され、俺は渋々席を立つ。
そして、面会室を出ようとした、その時。
「……ねえ」
「ん?」
「その……また、来てくれる……?」
悠木は、上目遣いでおずおずとそう尋ねた。
その瞳は、まるで縋るようで……。
だから。
「おう! 今度はルフランのスイーツ、持って来てやるよ! そうだな……ガトーフレーズでどうだ?」
「っ! ……うん……うん……!」
俺はニカッと笑ってそう言うと、悠木はぽろぽろと涙を零しながら、何度も頷いた。
はあ……しかも、わざわざ『攻略サイト』に書いてあった、悠木の好感度アップのケーキをチョイスするなんて、俺もお人好しだなあ……。
俺は頭を掻いて苦笑すると、先輩と一緒に面会室を後にした。
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次回は明日の夜更新!
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