認めない
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「……ウルセーヨ、クソが……」
「っ!?」
加隈のその言葉に、俺は思わず声を失った。
今……加隈が、俺に言った台詞……それこそ、クソザコモブである俺が、主人公に負けた後、会話するたびに吐き捨てる台詞、そのものなのだから……。
「? 望月くん、どうした?」
「あ……ああ……」
俺の様子がおかしいことに気づいた藤堂先輩が声を掛ける。
だけど……クソ、これじゃあまるで、俺と加隈の、その役割が入れ替わったみたいじゃないかよ……!
でも、そう考えると色々と合点がいくんだ。
主人公である立花が、本来は一番最初の敵でしかない俺に、ここまで好感を持っていることや、今日の朝の一件でも、立花は明確に加隈に対して嫌悪感を示した。
何より……確かに今日、イベントは起きたんだ。
立花と、クソザコモブの加隈との一戦が。
「……チクショウ」
「望月くん……?」
「チクショウ! こんなの認めるかよ! フザケルナ!」
「ヨーヘイ!? どうしたノ!?」
ああ! そうとも! こんなの認めてたまるか!
これじゃ、俺がどんなに頑張っても、ゲームの運命が変わらないって言ってるのと一緒じゃねーか!
だったら……だったら!
「っ!?」
俺は加隈に詰め寄り、その胸倉をつかんだ。
「オイ! 加隈! オマエは……オマエは、このままでいいのかよ!」
「っ! ……ウルセーヨ、クソが」
「ウルセー! それはコッチの台詞だ! 俺はこんなの認めない! オマエは……加隈は、『少しチャラい感じのお調子者だけど、仲間想いでいざという時には頼りになる奴』ってキャラだろうが!」
「っ!」
俺の言葉に、加隈が息を飲む。
だけど、またすぐに視線を逸らしてしまった。
「……悔しいだろ。クソザコモブだのゴブリンだの言ってたこの俺に、ここまで言われるんだからな。だったら! ……だったら、見返してみろよ! 強くなってみせろよ!」
「…………………………」
そう叫ぶと、俺は無言の加隈の胸倉から手を離し、踵を返した。
「望月くん……」
「ヨーヘイ……」
「二人共……行こう」
そう言って、俺達は教室を出ようとしたところで、俺はクルリ、と振り返る。
「……俺達は今、放課後はいつも“グラハム塔”領域を、立花……オマエとケンカしたアイツ達と一緒に攻略してる。もし、オマエが今の自分を変えたいなら……来い」
それだけを告げて、今度こそ教室を後にした。
あとは……アイツ次第だ。
すると。
――ポン。
「先輩……?」
「ふふ……君という男は、つくづく……」
そう言うと、先輩は嬉しそうに微笑む。
「マア、そのほうがヨーヘイらしいですわよネ」
と、サンドラも苦笑した。
二人共……でも、本当は違うんだ。
俺がアイツにああ言ったのは、アイツは俺だからなんだ。
ただ、俺は俺を認めたくないだけなんだ……。
だから。
「……こんなクソゲー、絶対に変えてやるよ……!」
俺は拳を握りしめ、二人に聞こえないほどの声で、そう呟いた。
◇
「……ねえ、まだ中に入らないの?」
「…………………………」
放課後の“グラハム塔”領域の扉の前、俺は腕組みしながら仁王立ちしていた。
そして、急かすように立花が俺の身体を揺すり続けている。
「ふふ……まあ、もう少し待つんだ」
「そうですわヨ。別に領域は逃げませんワ」
事情を知っている先輩とサンドラは、微笑みながら俺と一緒に待ってくれている。本当に、二人には感謝しかない。
「マ、そんなに中に入りたいのなら、私と二人だけで先に行ク?」
「むー……」
クスクスと笑いながらプラーミャにそう言われると、立花はプクー、と頬を膨らませ、トコトコと扉の前でしゃがみ込んでしまった。というか拗ねるなよ。
当然、その間にも多くの一年生が扉をくぐって領域の攻略に向かっていく。それを、立花は苦々しそうに眺めていた。
「……そろそろ、夕方の五時、か」
結局二時間近く扉の前にいたが、アイツは現れなかった。
――ポン。
「まあ……彼も悩んでいるのだろう。さすがに、一日で答えを出すのは難しいのかもな」
「先輩……」
確かに先輩の言う通り、アイツも自分の心を整理する時間は必要、か……。
でも。
「すいません先輩、今日のところは先輩達で先に中に入っていてくれませんか?」
「む、私達も一緒に……といっても、もうこんな時間か」
「はい……さすがに、このまま何もしないのでは、立花やプラーミャに悪いですから」
俺はチラリ、と立花とプラーミャを見ると、立花は既にいじけており、口を尖らせてしゃがみながら地面を指でなぞっていた。
プラーミャは……うん、サンドラとベタベタして嬉しそう。
「分かった……君も後で……って、ふふ、どうやら君の声は届いたみたい、だな」
「あはは……ですね」
俺と先輩は、こちらに向かって歩いてくる一人の男子生徒……加隈ユーイチを見つめ、口の端を持ち上げた。
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