君、だから
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「……ってことがあったんです……」
一時間目終了後の休み時間、俺は一人で二年生がいる教室に来て、藤堂先輩に相談した。
本当なら、昼休みの時にでも話をすればよかったんだろうけど、その昼休みには、俺とゲームの主人公……立花と戦うイベントが発生することになっている。ただし、あくまで『攻略サイト』にある通りなら。
「ふむ……それで、一応はその加隈くんというのは、そのまま引き下がったんだろう? なら、もうこれ以上の問題は起こらないと思うが」
「そうなんですけど……なんというか、どっかモヤモヤするっているか……」
そう。俺は朝のあの一件があってから、さっきの授業中も何かが引っかかっていた。
というのも、なんで今日になって加隈はわざわざ俺に絡みに教室にやって来たんだ?
もしアイツの言う通り、俺のせいでメチャクチャになったっていうんなら、もっと早く……それこそ、悠木がこの学園からいなくなった時点で絡んできてもおかしくないはず。
なのに……アイツは今日、俺に絡もうとして、逆に立花に返り討ちにされた。
それと、立花についてもそうだ。
確かに加隈は精霊まで召喚させてケンカを吹っかけてくるなんて、どう考えても異常だった。
でも、それを言うなら立花の奴だって、[ジークフリート]を召喚させて退けて、それどころか、一歩間違えたら加隈を大怪我させるんじゃないかってほどの勢いで倒そうとした。
アイツ等、本当に何やってんだよ……。
「そうか……だが、君が気になるというのなら、注意しておくに越したことはないな。これからは、立花くんの“グラハム塔”領域の攻略では、特に注意するようにしよう。それと、そういうことならプラーミャにもその話をしておくといい」
「えーと……どうしてですか?」
先輩の言葉の意図が分からず、俺は聞き返した。
「なに、普段の“グラハム塔”領域だけなら、少なくとも望月くん、サンドラ、そして私の誰かが同行するが、本攻略の際、私達は一緒じゃないんだぞ?」
「あ……」
「だが、プラーミャは最後まで常に一緒だ。それにプラーミャなら、実力的にも立花くんや他の者達にも決して遅れをとることはないからな」
「なるほど……」
確かに先輩の言う通りだ。もちろん俺達も注意はするが、それはずっとじゃない。だったら、一番長く一緒にいることになるであろうプラーミャが、立花を一番抑えられる。
「先輩、ありがとうございます! 早速次の休み時間にでもプラーミャに話をしておきますよ!」
うん、やっぱりこういう時、先輩は頼りになる。
本当に先輩に相談して良かった。
「うむ。それと……加隈くんについては、次の昼休みにでも一緒に会いにいってみよう」
「ええ!? だ、だけど……」
「? 何かあるのか?」
「い、いえ……」
俺は尋ねる先輩から目を逸らし、俯いた。
どうしよう……さすがにイベントの話まで先輩にはできないし、それに万が一先輩がいる前でイベントが起こったら……。
「ふふ……君が何を心配しているのかは知らん。そして、そのことについてこの私が一緒にいることが、君にとって都合が悪いのなら、私も無理に一緒にいようとは思わないよ」
「っ!?」
「……ただ、やはり少し寂しいが、な」
そう言うと、先輩はその真紅の瞳に悲しさと寂しさを湛え、ニコリ、と微笑んだ。
……何やってんだよ、俺。
俺がクソザコモブとしてアイツと……立花と戦うことになったとして、先輩にとって俺の評価が何か変わったりするのかよ? 先輩が、俺を見限ったりするのかよ?
違うだろ! 先輩は……先輩は、あの[ゴブ美]だった時ですら、ただ俺の可能性を信じてくれたんだ! 認めてくれたんだ!
なのに……何で今さら、俺は怖がってるんだよ……!
「……いえ、先輩。昼休み、一緒に加隈の奴に会いに行きましょう」
「望月くん……」
「俺は……先輩に見ていて欲しい。俺という人間を、これからもずっと」
「ああ……私はいつだって、君のことを見ているよ。だって……君、だから」
そう言うと、先輩は左手にそっと触れた。
そこには、“シルウィアヌスの指輪が”はめられている。
俺と、先輩の絆の指輪が。
「ふふ、だが……いつか、君のことを教えてくれるか?」
「はい……必ず」
俺は……『攻略サイト』のことも、クソザコモブな俺のことも、そして、先輩に訪れる不幸な未来も、全て伝えよう。
先輩と迎える、一年後の十二月二十五日に。
――キーンコーン。
「おっと、もう休み時間も終わりだな」
「あはは、そうですね」
俺は、もっと先輩といたいと思いながらも、仕方なく教室へと戻ろうとすると。
「望月くん!」
先輩が、背中越しに俺の名を呼んだので振り返る。
「また、昼休み!」
「っ! はい!」
俺は笑顔の先輩に、手を大きく振って元気よく返事した。
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