朝の教室
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今日は九月四日、金曜日。
例の『一-二のゴブリン』という、俺にとって迷惑極まりないイベントが起こる日だ……『攻略サイト』にある通りなら。
「ウーン……俺、本当に立花の奴とバトルすることになるのかなあ……」
先輩の待つ十字路に向かう途中、ポツリ、と呟く。
いや、アイツとプラーミャが転校してきて今日で五日目になるが、俺が言うのもなんだが立花の俺に対する好感度が現在進行形で爆上げ中なんだけど……。
「? 望月くん、どうしたの?」
「どうしたって、今日は色々と……って、た、立花!?」
「えへへ、おはよー!」
考え事している間に、立花の奴が俺の隣を歩いていた。しかも、かなりの至近距離で。
この距離間……普通に恋人同士か異性の幼馴染でもない限りあり得ねーだろ。
「お、おお、おはよう……というか、もう少し離れて歩け」
「えー……どうしてさー?」
「どうしても何も、ただのクラスメイト同士が、こんなにピッタリくっついて歩いたりしねーだろ!」
そう言って、俺は無理やり立花を引き剥がした。
というか、俺には男とくっついて歩く趣味はない。もちろん、藤堂先輩ならハグしたい勢いだけど。
「……分かったよ」
そう言って、シュン、となった立花は、俺から一歩離れてトボトボと歩く。いや、落ち込み過ぎだろ。
ハア……全く……。
「わっ!?」
「というか、そんなことくらいで落ち込むなよ。ホラ、早く行こうぜ」
「! う、うん!」
俺は立花の背中をバシン、と叩いて声を掛けてやると、打って変わって立花はぱあ、と笑顔を見せた。
こういうところ、絶対に勘違いしそうになるが、俺は絆されないんだからね!
ということで。
「先輩! おはようございます!」
「おはようございます!」
「うむ、おはよう」
十字路に着くと、今日も先輩はまるでたまたま出逢ったかのように振舞って、にこやかに挨拶をした。
こういうところも、先輩の尊みを爆上げさせている要因の一つだと思います。
「ところで立花くん、精霊のレベルは今どうなっている?」
「はい、望月くんのおかげで[ジークフリート]のレベルは二十六になりました」
「うむ、望月くんは優しくて面倒見が良いからな」
……二人して、何で俺を持ち上げてるんですかね?
そして、二人の会話にとげがあるように感じるのはどうしてでしょうか?
「このままいけば、結構早く“グラハム塔”領域を踏破できそうですよ。もちろん、プラーミャと立花の二人だけで」
「ええ!? 望月くんは一緒に来てくれないの!?」
俺の言葉に、立花が驚きの声を上げた。
「お前も知ってる通り、俺とサンドラは既に“グラハム塔”領域は踏破済みなんだよ。そんな俺達が一緒に攻略に同行したりすると、それだけで他の生徒達が不公平になっちまうからな」
「あ、そ、そうか……」
俺の説明を聞いて納得するものの、立花はあからさまにガッカリした。
とはいえ、俺やサンドラ、それに、何と言っても先輩と一緒に指導を受けてる時点で超優遇されてるんだし、それくらいは受け入れろ。
「む……ふふ、話をしていたら、あっという間に学園に着いてしまったな」
「あはは、そうですね」
そう言って、俺達は下駄箱で上靴に履き替えた。
「では、また昼休み」
「はい」
俺は何度も振り返る先輩が見えなくなるまで、手を振り続ける。
……昼休みになったら逢えるってのは分かってるんだけど、やっぱり寂しいなあ。
「……くん。望月くん」
「うお!? きゅ、急に呼ぶなよ!」
「むー……さっきから呼んでたよ」
立花に声を掛けられて思わず驚いてしまい、立花に抗議するが……うん、立花のほうがお怒りのようだ。
「わ、悪い……」
「もう行くよ!」
立花はプイ、と顔を背けると、俺を置いてサッサと教室に向かってしまった。
といっても、俺には立花が拗ねている理由がサッパリ分からん……。
「ア! ヨーヘイ!」
すると、サンドラもちょうど着いたばかりなのか、上靴に履き替えてパタパタと走りながら傍にやって来た。
「よう、おはよう……って、アレ? プラーミャは?」
「アソコにいますわヨ」
そう言ってサンドラが指を差す方向へと目を向けると……何やら、下駄箱の陰から俺をメッチャ睨んでるんですけど?
「……さあて、教室に行くかー」
「エ、エエ……」
俺はとぼけてサンドラにそう声を掛けると、サンドラもプラーミャは置き去りにすることを選択したようだ。
「ま、待ちなさいヨ!」
んで、結局プラーミャは俺とサンドラの間に割り込むように並び、思いっ切り舌を出して悪態を吐いてきやがった。何だかなあ……。
そして、俺達は教室の扉を開けようとした、その時。
「オ、オマエ! 転校生のクセに生意気なんだよ!」
「…………………………」
何故か、『ガイスト×レブナント』における主人公の友人キャラ、“加隈ユーイチ”が、無言で睨む立花に絡んでいた。
……嫌な予感しかしないんですけど。
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次回は明日の夜更新!
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