プールへ行こう②
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「アハハ! ヨーヘイ! 気持ちいいですわネ!」
「あうあうあう!? そ、そんなに早く行かないでくれえええええ!?」
プールの中で嬉しそうにはしゃぐサンドラに対し、藤堂先輩は泣きそうになりながら必死で俺の手を握っていた。
……まさか、先輩が泳げないだなんて。
「ホ、ホラ先輩、プールの縁につかまってください」
「イ、イヤだ! 君の手を離してしまったら、私は溺れてしまうではないか!」
いや先輩……ここ、足がつきますから。
「フフ、せっかくですから、泳ぎ方をお教えしましょうカ?」
「う、うむ……だ、だが、私はこれまで色々と指導を受けてきたが、一度たりとも泳げるようになったことはないのだが……」
「ソ、ソウですカ……」
サンドラの申し出に、先輩はおずおずとそう告げると、サンドラは乾いた笑みを浮かべた。コイツ、教えるのを諦めやがったな。
「え、ええとー……じゃあ、俺とサンドラの二人でお教えしますので、せめて浮くくらいはできるようになりましょう」
「っ! 浮く、だと……! それは、顔を水につけなくても大丈夫なのか!?」
「あー……そこからですかー……」
うん、小学一年生レベルからの指導が必要だな。
俺とサンドラは顔を見合わせて頷き合うと、とりあえずプールから出ることにした。
「じゃあ、アッチの子ども用の浅いプールに移動しましょうか」
「う、うむ! それなら……!」
俺の提案に、先輩は心から安堵した表情で胸を撫で下ろした。
……[関聖帝君]の【水属性弱点】は、これが原因なのかもしれないなー……。
◇
「そうです! そのままバタ足を続けてください!」
「う、うむ! 分かったぞ!」
小学生以下が入る子ども用のプールで、俺は先輩の手を引きながらバタ足の練習をしていた。
最初はあんなに水を怖がっていた先輩も、今ではしっかりと顔をつけて息継ぎもできるようになっている。うう、進歩したなあ……。
「ど、どうだった?」
「エエ、しっかりと身体も浮いていましたし、これなら大人用のプールに移っても大丈夫ですわヨ!」
「そ、そうか!」
サンドラのお墨付きをもらい、先輩が嬉しそうにはしゃいた。
そして、そんな俺達の光景を不思議そうに眺めるちびっ子と保護者達。そろそろいたたまれなくなってきた。
「じゃ、じゃあ二人とも、そろそろ移動……の前に、お昼にしようか」
「賛成ですワ!」
「うむ! 私もお腹がペコペコだ!」
そうですね、先輩が一番カロリー消費しましたからね……。
ということで、俺達は売店に行って各々食べたいものを買い込む。
『マスター! [シン]はアイス一択なのです!』
「分かった! 分かったから出てきちゃダメ!」
興奮する[シン]をたしなめ、とりあえず引っ込めると……ウーン、俺は定番のたこ焼きにでもしよう。これなら先輩達ともシェアできるし。
んで、[シン]はアイスって言ってたけど……せっかくだしかき氷にしてやろう。
「すいませーん、たこ焼き一つとかき氷一つください」
「ハイ! 八百円です!」
俺は店員さんにお金を支払って、たこ焼きとかき氷を受け取ると、先輩達と合流……って!?
「ねえねえ、せっかくだし俺達と一緒に遊ぼうヨ! ネ?」
「……目障りだ」
「ねー、そんなこと言わずにさあ」
「フフ……今なら見逃してあげますかラ、とっとと失せるのですワ!」
見ると、先輩とサンドラがチャラい二人組の男達にナンパされていた。
ああー……ちょっと離れただけでこれかあ……。
「先輩! サンドラ! お待たせ!」
「ッ! ヨーヘイ! 遅いですわヨ!」
「ふふ……では行こうか」
俺はわざとらしく大声で二人を呼びながら駆け寄ると、二人は、ぱあ、と笑顔を浮かべた後、男達を完全に無視して俺の傍へと来た。
「オイ! いきなり出て来てなんだオメー!」
「調子こいてんじゃネーゾ?」
うわあ、まさにお約束のテンプレで絡んできたぞコイツ等。
「……何だ? 貴様等は私の望月くんに何か用か?」
「「う……」」
先輩がギロリ、と睨むと、男達は一瞬たじろぐ。
ですが先輩、その言葉は少し語弊があるように思います。いや、嬉しいんですけどね。
「ソウヨ! ワタクシのヨーヘイに、馴れ馴れしく話さないデ!」
そしてサンドラよ、先輩に続いてお前もか。
「ほ、ほら二人共、早く行きましょう!」
「むむ……」
「モウ……」
これ以上揉め事になっても困るので、二人を促してその場を離れようと……って。
「待てよ!」
「女の前だからって調子コイてんじゃねーゾ! コラ!」
肩をつかまれて無理やり引っ張られ、スゲー至近距離で睨んできやがった。
いや、先輩の【威圧】や幽鬼に比べたら全然怖くないけど、とはいえ面倒だな……っ!?
――バキッ!
「っつう……!」
突然男の一人に殴られ、俺は思わず後ろへとよろめく。
「ヘッヘ、調子に乗るからこんなことに……ッ!? ヒイッ!?」
「貴様あああああああああああああ!」
「タダでは済ませませんわヨッッッ!」
あろうことか、先輩とサンドラは精霊を召喚し、今にも男達に襲い掛かろうとしていた。
「先輩! サンドラ! 落ち着いて!?」
「だ、だが! あのクズ共は君を殴ったのだぞ!」
「そうですワ! 叩き潰してプールに浮かべてやりますワ!」
「だああ!? オ、オマエ等も俺を殴って気が済んだろ! サッサとどっか行けよ!」
二人を必死で抑え込みながら男達にそう叫ぶと、連中は一目散に逃げて行った。
ふう……これで流血沙汰にならなくて済んだ……って。
「えーと……先輩? サンドラ?」
「「…………………………」」
うん、二人はあの連中を逃がしたことが相当お気に召さないらしい。
おかげで、今度は俺が二人にジト目で睨まれる始末だ。
「……あのような連中、逃がしたところで良いことなど一つもないというのに」
「全くですワ! しかも、ヨーヘイに手を出すなんテ……!」
「いいの! 俺からすれば、二人が精霊呼び出したせいで、後で問題になるほうが困るの!」
「だ、だが……」
納得がいかない先輩は、眉根を寄せる。
「先輩……俺は、こんな下らないことで先輩が嫌な思いするほうが嫌なんです」
「う、うむ……」
「サンドラもだぞ。こんなことでお前の頑張りが台無しになったらどうするんだよ」
「わ、分かりましたワ……」
うん、渋々ではあるものの、何とか二人が納得してくれた。
「さて……それじゃ、って、あーあ……せっかく買ったたこ焼きとかき氷が……」
当然ではあるが、殴られたせいで、たこ焼きとかき氷を床にぶちまけてしまっていた。
「ふふ……仕方ない、なら今度は一緒に買いに行こう」
「ですわネ」
「え? いや、一人で買いに行ってくるからいいよ」
俺は申し訳なくて遠慮すると。
「何を言う。また、今みたいなことになったらどうするのだ」
「そうですワ! ヨーヘイが一緒にいれば、変な男も声を掛けてきませんのヨ!」
「ご、ごもっとも……」
ということで、結局俺達は一緒に買いに行くことになり、その後、みんなで買ったものをシェアしながら楽しく食べた。
あ、[シン]もかき氷を食べてゴキゲンでした。
◇
「すう……すう……」
「ン……フミュ……」
「…………………………」
帰りのモノレールの中、俺は椅子に座りながら二人に寄り掛かられている。
というか、どうやら二人はプールの疲れから眠ってしまったのだ。
「う、動けない……」
下手に動いて二人を起こしても悪いし、ここは駅に着くまでなんとか我慢するかー……。
ということで、俺はピクリとも動かずに耐えているんだけど。
でも。
「……はは」
二人の可愛い寝顔を見て、こんな状況も悪くないって思いながら、俺は微笑んだ……って、今、二人共少し動いたような……?
「…………………………先輩?」
「(ビクッ!?)」
あ、動いた。
「サンドラ?」
「(ビクビクッ!?)」
……揃いも揃って、二人共何やってるんだよ……。
俺は寝たフリをしている二人に苦笑しつつも、これはこれで嬉しいので、駅に着くまであえてこのままでいた。
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