私の幸福
ご覧いただき、ありがとうございます!
本日も幕間を四話お届け!
■藤堂サクヤ視点
「ふふ……彼からの初めてのプレゼントが、この指輪だなんて、な……」
私は左手薬指にはまっている、“シルウィアヌスの指輪”をそっと撫でる。
ただ……望月くんはどうして、これを私にプレゼントしようと思ったのだろうか。
彼曰く、この指輪には幽鬼を倒した時に手に入る幽子が半分に制限され、しかも、呪いを解かない限り私の薬指から外すことはできないらしい。
「ひょっとして……彼は私達のやろうとしていることを知って……いや、まさかな……」
私は一瞬、あの計画のことが彼に知られたのかと考えたが、すぐに思い直す。
アレは、私とお父様、カナエさん、そして一部の研究員しか知らない。それをただの学園の生徒でしかない彼が、知り得るはずがないのだ。
「でも……彼は、この私とずっと一緒にいたいからだと言った」
それはつまり、これからこの私に何が起こり得るのか、彼は知っているということだ。
思い返してみれば、彼の行動は異常だった。
あの初心者用の領域に現れた、もう一つの領域しかり。
私ですらこの身体が竦んでしまうほどの、幽鬼が闊歩しているもう一つの領域を、気の遠くなるほど繰り返し出入りして手に入れる疾走丸しかり。
さらには、彼が中学の時に偶然見つけたという、“アルカトラズ”領域しかり。
これら全て、彼は最初から知っていたのではないか……そう思えて他ならない。
「ふう……止めだ止めだ、こんなことを考えて何になるというのだ」
私は深い溜息を吐いた後、思い切りかぶりを振った。
彼の行動は確かに異常だ、それは認めよう。だが……彼が一度たりとも、この私に対して不利益なことをしたか? いや、そんなことは決してなかった。
それどころか、あの“アルカトラズ”領域では【水属性反射】という、[関聖帝君]の弱点を補って余りあるほどの恩恵を手に入れることができたのだ。
それに……彼はいつも、この私の心に寄り添って、気遣って、支えてくれて……。
あのデートだって、偽とはいえサンドラとの恋人役を演じることになったことに嫉妬して、勝手に落ち込んでいた私のためにしてくれたのだ。
「ふふ……本当に彼は……」
そんな彼を想うだけで、この私の胸がこれ以上ないほどに熱く、そして激しく高鳴る。
ああ……単なる興味本位で声を掛けたあの彼が、私の中でこれほどまでに大きな存在になるなんて、誰が予想できただろうか。
指輪の呪い? 解けない限り、永遠にこの薬指から外れない?
最高じゃないか。
この指輪が私の薬指にある限り、私と彼は永遠につながっていられるのだから……。
「さて……では、そろそろ時間だな」
私はそんな彼との永遠の絆ともいえる指輪にもう一度触れると、自室を出てお父様の待つ研究所へと向かった。
◇
益田市の郊外にある、お父様の研究所。
今、私と[関聖帝君]は色々な管やコードをその身体につけられながら、ベッドに横たわっていた。
そんな中。
「うーむ……これはすごい! まさか、ここまで数値が上昇しているとは!」
「はい! これなら予定していたスケジュールを大幅に前倒しできそうです!」
私の精霊……[関聖帝君]のデータを眺めながら、研究員達が色めき立った。
まあこの数値は、“アルカトラズ”領域で倒した幽鬼から手に入れたもの、だからな……。
「サクヤ……お前はどうやってこれほどの“ウルズの泥水”を手に入れることができたのだ……?」
お父様は、必死の形相で私に詰め寄る。
それもそうだろう。この“ウルズの泥水”の量によって、お父様の計画の成否が決まるのだから。
今までは、“ウルズの泥水”を手に入れるために大量のマテリアルから抽出していた。
それでも、得られる“ウルズの泥水”の量は微々たるものだったのだから、お父様からすれば、喉から手が出るほどにその情報を得たいに違いない。
「……実はこの前、学園内にある領域の攻略を行っていた際、エルフの、しかも鍛冶師のような恰好をした女性の姿の幽鬼に遭遇しました」
「っ!?」
私の言葉に、お父様は息を飲んだ。
「それで、私は[関聖帝君]でその幽鬼を倒すと、私の身体の中に幽子とは別の何か……恐らく、“ウルズの泥水”が吸収されたのでしょう……」
「おお……! で、では、その幽鬼は……!」
恍惚の表情を浮かべたお父様が、天を仰ぐ。
やはり、あの幽鬼はお父様が求めていた、“柱”と呼ばれるものの一つなのだろう。
「ふ、ふふ……ようやくサクヤの中にある種が芽吹いてきたか……!」
そう……あの幽鬼が“アルカトラズ”領域に現れたのは、私の中に種があるから。
“柱”達は、私の中の種を求め、これからも奪いにやって来るだろう。
そして私は、そんな“柱”を打倒し、種に“ウルズの泥水”を与え続けるのだ。
……お父様の悲願が成就する、その日まで。
でも。
「……彼がこのことを知ったら、どう思う、かな……」
私達はある意味、人の道を外れるような、神を冒涜するような、そんなことをしてしまっているのだ。
彼は私に幻滅するかもしれない、私から遠ざかってしまうかもしれない。
そんなことを考えていた、その時。
「藤堂様……これを……!」
「うん? どうした……って、これはどういうことだ!?」
研究員の一人から書類を手渡され、お父様が愕然とする。
「何故……何故、いつもと同じように“ウルズの泥水”を供給しているのに、サクヤと[関聖帝君]の数値が上がらないのだ! これではいつもの半分以下ではないか!」
半分以下……なるほど、そういうことか。
私は左手薬指を眺め、確信した。
やはり……彼はこの計画に気づいていたのだ。
「……ふふ。だったら、答えは出ているじゃないか……」
そうだ……彼ならきっと、『この計画をぶち壊す』と言うだろう。
彼はいつだって、私のことを大切に想ってくれているのだから。
ああ……今の私は幸福に満ちている。
そんな彼に想われているという心地良さを感じながら、お父様と研究員が騒ぎ続ける研究所のベッドの上で私は一寝入りした。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は昼頃更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!




