生徒会長、藤堂サクヤ
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「これが……!」
俺の目の前……つまり部屋の中央に扉だけが現れた。
これこそが、『攻略サイト』に書いてあった、真のラスボスのいる“ぱらいそ”領域へと繋がる扉。
俺達が探し求めていたものだ。
この扉、本来なら二周目にしか現れないものだけど、あいにくこの世界に二周目はない。
なら、ひょっとしたら見つけられるんじゃないか、と期待して探してみたけど……。
「どうやら俺達は、その賭けに勝ったみたいだ」
とはいえ、これはまだスタートラインに立つことができたってだけだ。
ここから先は、本当に命がけでつらい作業を繰り返すことになる。
だけど。
「これで……俺達は強くなることができる」
俺は、作った握り拳に力を込める。
見ると、[ゴブ美]も興奮しているのか、棍棒をブンブンと振り回していた。
さーて、と。
俺は扉の元へと近づこうと足を一歩踏み出した。
すると。
「へ!?」
なんと、目の前にあった扉が突然消えてしまった!?
「ど、どういうことだ!?」
俺は扉があった場所を調べる。
けど、変わった点はどこにも見受けられない。
「そ、そんな……!」
思わずガックリとうなだれた。
も、もう一度よく考えてみよう。
あの扉は、どうやって現れた?
「確か……[ゴブ美]に近づこうとした時に、急に床が沈み込んで……って、もう答えが出てんじゃん!?」
俺は扉が出現した時にいた場所へと戻り、床を確かめるようにつま先で踏んだ。
――ガコン。
「あー……床のこの部分が、扉を出現させるスイッチになってんのか……」
また現れた扉を見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。
だけど、こんな単純な仕掛けなのに、今までよく見つからなかったな……。
「まあ、ここが第一階層で領域の序盤も序盤だっていうことと、初心者用で何の価値もないからだろうなあ……」
後は、床が沈み込む箇所がピンポイント過ぎて、普通に上を歩いただけじゃスルーしちまうのかもな。
実際、沈み込んだ床は、一辺五センチくらいのマスしかないし。
とにかく。
「さて、それじゃ……」
扉を見据えながらそう呟くと、[ゴブ美]が覚悟を決めた表情になる。
「この部屋から出て第三階層まで探索するかー」
「……(ズルッ)」
おお……[ゴブ美]がズッコケたぞ。
というか、まだ他の一年生達が見学中だし、下手に扉を出現させて“ぱらいそ”領域に行っている間にその扉を見られてしまう可能性がある。
だから、本格的に“扉”の向こうへと行くのは、みんながいなくなった放課後以降ってことだ。
「まあ、まずはこの初心者用の領域を攻略しとこうぜ」
「…………………………(コクリ)」
[ゴブ美]は渋々といった様子で頷いた。
◇
――キーンコーン。
放課後になり、みんなが帰り支度を始める。
もちろん俺も、いそいそと教科書やノート、筆記用具をヒューズボックスの中にしまい、席を立つと。
「あ、望月さん。また明日です」
木崎さんがそう言って、ニコリ、と微笑んだ。
「え、あ、う、うん……その、また明日……」
俺は嬉しいやら恥ずかしいやら、そんな感情になってしまい、急いで教室を出た。
うう……やっぱり木崎さん、いい人だ……。
これが主人公とやらの毒牙にかかるだなんて、なんだか許せん。
とはいえ。
「はあ!? 木崎さん、あんな奴にいちいち話しかけてやる必要ねーよ!」
「そうそう、勘違いして木崎さんに迷惑かけるんじゃ……」
「……その時は、この私が鉄槌を下す」
背中越しに俺への罵詈雑言が飛び交っており、その中には加隈や悠木の声もあった。
……別に、オマエ等に言われたところで何とも思わねーよ。
俺はダッシュで校舎を出ると、拳大の石を拾って初心者用の領域の前へとやって来た。
「よっし!」
俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩くと、扉を開けて中に入……「君、そこで何をしている?」……へ?
突然声を掛けられ振り返ると、口の端を持ち上げ、腕組みしている女子生徒がいた。
「初心者用の領域に入ろうとする生徒がいるなんて、珍しいな」
ワインレッドのウェーブのかかったセミロングの髪に、少し切れ長で真紅の瞳、整った鼻筋に血に染まったかのような紅い唇。
素肌は陶磁器のように艶やかで白く、そのスタイルはモデル並み……いや、それ以上。
そんな圧倒的な美少女こそ、生徒会長である“藤堂サクヤ”、その人だった。
「そ、その、今日の授業でせっかく見学できたので、もっと中をよく見ようと思いまして……」
俺は彼女に対し、咄嗟に言い訳を口にする。
「ん? ああ、君は新入生なのかな?」
「は、はい! 一-二の“望月ヨーヘイ”です!」
藤堂先輩の問い掛けに、俺は直立不動で自己紹介した。
「なるほど。新入生にとっては、確かに初めての領域だ。もう一度見てみたいと思うのも自然だな……よし! せっかくだから、この私が案内してあげよう」
「へ……?」
思わぬ申し出を受け、俺は思わず呆けた声を漏らしてしまった。
「なあに、遠慮することはない。それに私も、入学時以来一年振りだからもう一度見てみたくなっただけだからな」
そう言って、藤堂先輩が微笑んだ。
うわあ……木崎さんも可憐で清らかなイメージだけど、藤堂先輩の場合は何というか……うん、まるで芸術品のように綺麗だ。
「さあ、せっかくの時間がもったいない。早く行こう」
「わ! ちょっ!?」
俺は藤堂先輩に手を引っ張られながら、初心者用の領域の扉をくぐった。
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