サンドラのクラスチェンジ
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「ハアアアアッ!」
サンドラの[イヴァン]がプラーミャの精霊、[イリヤー]目がけて鉄鞭を振り下ろす。
『アハハハハ!』
必死に攻撃を仕掛けるそんなサンドラを見て、プラーミャは嘲笑いながら、[イリヤー]のバックラーで鉄鞭を弾き返した。
『ホラホラ! ドウシタノ? 避ケナイト死ンジャウワヨ!』
「クッ!」
[イリヤー]は短槍を無数に繰り出し、[イヴァン]は防戦一方になる。
だけど。
「アウッ!?」
『アハハ、ダカラ言ッタジャナイ?』
元々攻撃力はピカイチだが、『俊敏』のステータスが低い[イヴァン]は、[イリヤー]の攻撃の全てを捌き切れず、右肩に攻撃を食らってしまった……いや、よく見ると、既に数か所負傷しているようだ。
『アハハハハ……ハア。ネエ、サンドラ……』
「……何ですノ?」
二人が同時に距離を取ると、プラーミャが溜息を吐きながらサンドラに話し掛ける。
『家ヲ出ルナンテ馬鹿ナ真似ハヤメテ、今マデ通リ“出来損ナイ”ラシク、パパヤママ、ワタシノ言ウ通リニシナサイナ。ソウスレバ、アナタダッテ幸セニナレルノヨ? ソレニ、ワタシナラ未来永劫、アナタヲ守ッテアゲル。ソレコソ、雛ヲ育テル母鳥ノヨウニ』
「…………………………」
『ネ? ソウシナサイ?』
優しく諭すように語りかけるプラーミャ。
だけど、その表情はあからさまにサンドラを見下し、馬鹿にしていた。
「フフ……」
『? サンドラ?』
突然笑うサンドラに、プラーミャは不思議そうな表情を浮かべながら声を掛ける。
「……今まで、パパやママ、プラーミャはこのワタクシのことをそんな風に思っていたのですネ……なのに、ワタクシはみんなが気遣ってくれているものとばかリ……」
『ドウシタノ? ショックヲ受ケタ? デモ、コレガ現実ヨ?』
大声で叫びたかった。
あんなに毎日必死で頑張って、強くなって、成長してきたサンドラを馬鹿にするな、って。
でも……そんなもの、この俺がいくら言ったって響かない。
なら。
「サンドラ!」
俺はただ、サンドラの名前を叫んだ。
高々と、拳を突き上げて。
「…………………………プ」
『?』
「フフフ! 本当に、ヨーヘイはバカ! こんな家族にだって“出来損ない”扱いを受けるワタクシを誰よりも信じてくれて、認めてくれて!」
『サンドラ……』
「モウ……こんなの、やるしかないじゃなイ! 頑張るしかないじゃなイ! だから……見てなさイ! ヨーヘイ!」
サンドラは不敵な笑みを浮かべ、キッ、とプラーミャを見据えた。
『アハハ! マダ戦ウ気ナノ? モウ分カッテルデショウニ! コノワタシニハ敵ワナイッテコトガ!』
そう言うと、[イリヤー]が短槍を構え、[イヴァン]に向かって突撃し、直前で真上に飛び上がった。
『アハハハハ! コレデ終ワリ! 【絨毯爆撃】!』
[イリヤー]の短槍が真っ赤に燃え盛り、槍衾を展開した。
というか、さすがにあれはマズイ! あんなもの食らっちまったら、『耐久』が“S”の[イヴァン]でも耐え切れない!
「サンドラ! 躱せ!」
自分で言ってから気づく。アレをどうやって躱せっていうんだよ!?
だけど。
「フフ……ヨーヘイ、ワタクシは負けなイ! 信じてくれる、アナタのためにモ! だかラ!」
「っ!? サンドラ!?」
なんと、サンドラは躱すどころか、鉄鞭を構えて槍衾に突撃した!?
あ、あんなの自殺行為だろ!
その時。
「クラスチェンジ……開放!」
は? サンドラの奴、今……何て言った?
クラスチェンジ……だってえええええ!?
すると、突然[イヴァン]の身体から幽子が放出され、その渦に包まれた。
『ナ、ナニガ……!?』
プラーミャもいきなりのことで、困惑した表情を浮かべる。
そして、[イリヤー]の槍衾が幽子の渦とぶつか……っ!?
――ガキン。
『ッ!?』
渦の中から重厚な金属の盾が現れ、[イリヤー]の槍衾を受け止めた。
それと同時に、今度は荘厳な装飾が施された金属のメイスが[イリヤー]へと襲い掛かる。
『ガアッ!?』
[イリヤー]が弾き飛ばされると同時に、そのマスターであるプラーミャも吹き飛んだ。
幽子の渦が全て消え去り、俺達の目の前に[イヴァン]がその姿を現……っ!?
「はあああああああああ!?」
それを見た瞬間を俺は思わず叫ぶ。
いや、だって、仕方ないだろ!? 本来なら、[イヴァン]は“雷神”[トール]へとクラスチェンジするはずなんだぞ!?
なのに現れたのは……歴戦の勇士というような髭を生やしたオッサンが、頑強な肉体にメイスと重厚な盾を持ち、鎧と稲妻をその身にまとっているんだぞ!? 一体どうなってやがるんだ!?
「フフ……この領域ボスの部屋に入る直前、クラスチェンジの条件を全て満たしたの。だから言ったでショ? 『アッと驚かせてあげます』っテ」
「あ……!」
サンドラが悪戯っぽく微笑みながらそう説明する。
そういえば、あの時……!
「どういうわけカ、クラスチェンジ先は二つあったんですけド……結局、コチラを選びましたワ」
「そ、そうか……」
いや、サンドラのクラスチェンジが選択式だなんて、『攻略サイト』に書いてなかったじゃん!
でも……これって、俺と[シン]の時と同じように、『攻略サイト』にはないナニカがあるってことなのか……?
「さあ……プラーミャ、続きをはじめますわヨ!」
『アハハハハ! タカガクラスチェンジヲシタ程度デ、ワタシニ勝テルト思ッテルノ?』
「エエ! 勝てますワ! この……[ペルーン]なラ!」
サンドラはそう宣言すると、[イヴァン]改め[ペルーン]は[イリヤー]へと突撃した。
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