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明後日の用事

ご覧いただき、ありがとうございます!

 夏休みに突入してから、今日で一週間。


 俺達三人は、“アルカトラズ”領域(エリア)の第八階層を攻略中である。


「サンドラ! 左から“アーヴァンク”が三体来てるぞ!」

「分かりましたワ!」


 藤堂先輩の指示を受け、サンドラの精霊(ガイスト)、[イヴァン]が鉄鞭(てつべん)を振り回しながら突っ込んで行った。


「食らいなさいイ! 【裁きの鉄槌】!」


 [イヴァン]がこの階層の幽鬼(レブナント)であるアーヴァンクのうちの一体に鉄鞭(てつべん)を叩き込むと、周囲に稲妻がほとばしり、アーヴァンク達は一瞬で黒焦げになる。


「望月くん、行くぞ!」

「はい!」


 そこへ、先輩の[関聖帝君]と俺の[シン]が一気になだれ込み、[関聖帝君]は青龍偃月(えんげつ)刀を一閃させるとアーヴァンクの二体の首と胴体が分かれた。

 残る一体も、[シン]の呪符で爆散する。


「ふう……」


 戦闘が終わり、俺は深く息を吐いた。


「フフ……もうこの辺りの幽鬼(レブナント)も大分慣れてきましたワ」

「ああ……これなら次の階層に進んでも良さそうだな」


 サンドラの言葉に先輩が同意して頷く。

 さて……ここまで“アルカトラズ”領域(エリア)の攻略は順調と言っていいだろう。

 実際、ここまで一週間で来れたんだ。このままいけば、八月のお盆前には第二十階層に到達できそうだ。

 だけど、この“アルカトラズ”領域(エリア)に二体の領域(エリア)ボスがいる。そして、そのことを二人にはまだ教えていない。


 さて……どうやって伝えたものか……。


「ヨーヘイ?」


 すると不思議そうな表情を浮かべたサンドラが、俺の顔を下から(のぞ)き込んでいた。


「お、おお、悪い、ちょっと考えごとしてた」

「ソウ? ここはまだ領域(エリア)内ですから、油断はいけませんわヨ?」

「はは、そうだな」


 俺は一旦考えるのを止め、領域(エリア)の探索に集中する。

 まあ……領域(エリア)ボスに関しては、実際に遭遇してから考えることにしよう。


「うむ。では今日の探索は一旦ここまでにして、ルフランでミーティングをしよう」

「賛成ですワ!」


 うん、それって先輩とサンドラがスイーツ食べたいだけなんじゃ……ま、いいか。


『ムフー! アイス! アイスを食べるのです!』

「ハイハイ」


 ……最近[シン]も、マスターの俺に対して遠慮が無くなってきたなあ……。


 ◇


「ふふ……やはり今日はパルフェにして正解だったな」

「そうですわネ!」


 “アルカトラズ”領域(エリア)から出た俺達は、そのままルフランに来て特製パルフェを食べている。

 なお、先輩はチョコのパルフェ、サンドラがイチゴのパルフェ、俺は抹茶のパルフェだ。


『んふふー! ンマンマなのです!』


 で、[シン]もゴキゲンな表情でトリプルにしたジェラートに舌鼓を打っている。


「そういやサンドラ、[イヴァン]のステータスって今どうなってるんだ?」

「[イヴァン]ですノ? ちょっとお待ちくださいまセ……」


 サンドラはカバンからガイストリーダーを取り出して画面を俺達に見せてくれた。


 —————————————————————

 名前 :イヴァン

 属性 :皇帝(♂)

 LV :46

 力  :S+

 魔力 :E

 耐久 :S

 敏捷 :D+

 知力 :C-

 運  :A

 スキル:【裁きの鉄槌】【統率】【雷属性魔法】

【雷属性無効】【状態異常弱点】

 —————————————————————


「おお! いつの間にかレベルが四十六になってるじゃねーか! しかも『耐久』が“S”かよ!」

「フフ……ドウ? すごいでしょウ?」


 俺が驚きの声を上げると、サンドラは嬉しそうに微笑んだ。

 いや、これなら“アルカトラズ”領域(エリア)で十二分に戦えているのも頷けるわ。


「ところで、ヨーヘイと先輩はどうなんですノ?」

「あー……」

「う、うむ……」


 サンドラの問い掛けに、俺と先輩は言い淀む。

 というのも、俺も先輩も、精霊(ガイスト)のレベルが一切上がっていないのだ。


 クラスチェンジしたらレベルがほとんど上がらないっていうのは分かってはいたけど、ここまで上がらないっていうのは想像できなかったからなあ。


「ま、まあ……私も去年の秋にクラスチェンジしてから、レベルが三は上がったから、成長はしているぞ。だから……」


 先輩は俺のほうを見ながら、柔らかい笑みを浮かべてそう告げる。

 多分、先輩は同じくクラスチェンジをしている俺を気遣って、そう言ってくれたんだろう。


「あはは、上がりにくいんだったら、それ以上に幽鬼(レブナント)を倒すだけですよ。それに……あの時ほど絶望的じゃない」

「ふふ……そうか、そうだったな……」


 俺の答えに、先輩は納得するように頷きながら微笑んだ。

 そう、先輩は知っている。俺と[シン]がどうやって今に至ったのかを。


「? なんですノ?」


 そんな俺と先輩の様子に、サンドラはキョトンとしていた。


「いや、何でもない。ねえ、先輩?」

「ふふ、そうだな。確かに、何でもない」

「?」


 あの“ぱらいそ”領域(エリア)については俺と先輩、二人だけの秘密だからな。

 もちろん、先輩のお父さんである学園長にも伝わっていない。


「それより、例のサンドラの妹はいつコッチに来るんだ?」

「ア! そうでしたワ! 八月一日に来ることになりましたノ!」

「へえー……じゃあ、三日後かー……」


 うぐう……サンドラと恋人のフリする、のかあ……。

 ま、まあサンドラはメインヒロインの一人だけあって、胸は絶壁だが圧倒的に可愛い。胸は絶壁だが。

 そんな彼女に、クソザコモブ設定の俺が彼氏役って……面白いもんだなー……。


「…………………………」


 そんな中、先輩はただ無言で(うつむ)きながら俺とサンドラの会話を聞いていた。


 先輩……。


「そ、そうだった!」

「きゅ、急になんですの!?」

「あ、いや……じ、実は明後日、ちょっと用事を思い出してさあ……その日、“アルカトラズ”領域(エリア)、行けそうにない」

「そうなんですノ……でしたら、仕方ないですわネ」

「はは、悪い……」


 俺は苦笑しながら頭を()くと、サンドラが少し残念そうな表情を浮かべる。

 先輩も……唇をキュ、と噛んでいた。


 ……そして、この日はお開きとなった。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は今日の夜更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!

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