アルカトラズ領域
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「おお……!」
早速俺と先輩は扉をくぐると、そこはテレビのドキュメンンタリー番組や映画に出てくるような、まさに刑務所の様相だった。
こここそが、真のラスボス戦に向けて準備されている五つの領域の一つ、“アルカトラズ”領域だ。
ちなみに、ここの幽鬼の平均レベルは六十。先輩の[関聖帝君]はわずかに上回っているが、一方の俺はレベルが少し足らない。
サンドラに至ってはレベルもまだ四十にすら到達しておらず、クラスチェンジもしていないから、普通に考えればこの領域攻略はかなり厳しいだろう。
だけど……サンドラの精霊、[イヴァン]には【雷属性無効】のスキルがある。
というのは、この“アルカトラズ”領域に出現する幽鬼は、雷属性と水属性の二属性に分かれるのだ。
なので、少なくともサンドラが受けるダメージは単純計算で半分となる。これは、攻略において非常に大きなアドバンテージだ。
つまりは、この三人でこの領域の攻略に乗り出せば、充分に踏破は可能だ。
「それで……とりあえずどんなところか知るためにも、せめてこの階層だけでも探索してみましょうか?」
「うむ……そうだな」
俺の提案に、少し考えた後に先輩は頷いた。
「でしたら、俺と[シン]が前で斥候の役目をしますので、先輩は俺の後ろへ」
「む……ふふ、そうだな。頼りにしているぞ、望月くん」
はは、先輩に『頼りにしている』って言われたぞ!
これは、俺達がシッカリ先輩を護らないと!
「さあ[シン]! 行くぞ!」
『ハイなのです!』
俺と[シン]は警戒しながら通路を慎重に進む。
先輩も、背後を含め警戒を怠らない。
『! 幽鬼なのです!』
通路の奥に蠢く幽鬼を見つけ、[シン]が叫ぶ。
あの巨大な蟹の形をした幽鬼は……“ザラタン”か!
「先輩! ここは俺達が仕掛けます! 先輩はその後にとどめを!」
「分かった!」
「[シン]! 動きを止めてから甲羅を破壊するぞ!」
『任せるのです!』
[シン]は素早い動きでザラタンに何もさせないままにその甲羅の上に立つと、ペタリ、と二枚の呪符を張り付けた。
『【縛】! 【裂】!』
『ギチギチギチギチッ!?』
ザラタンは身動きが取れなくなると同時に、もう一枚の呪符によってその頑丈な甲羅に亀裂が入った。
「先輩! 今です!」
「おおおおおおおおおおおおおッッッ!」
俺の指示を受け、[関聖帝君]はザラタンに一気に詰め寄ると、その亀裂目がけて青龍偃月刀を振り下ろした。
『ギチッ!? ……ギ……ギイ…………』
そしてザラタンは沈黙し、幽子とマテリアルへと変わった。
「先輩! お見事です!」
「ふふ、やったな」
俺と先輩はハイタッチを交わす。
だけど、先輩はともかくとして、俺達の呪符が普通に通用したのは大きかった。
レベルに差があるから、状態異常系の【縛】はひょっとしたら通用しないかも、なんて考えたが、無事通用しているところを見ると、レベル差で効果に影響はなさそうだな。
「ふふ……なかなか見事な連携だったな」
「はい! 先輩と俺は、最高のコンビですよ!」
「あう!? そそそ、そうだな……」
俺の言葉に、先輩が恥ずかしくなってまた両手で顔を覆ってしまった……。
◇
「ふう……」
目の前の“エレクトイール”にとどめを刺し、俺は深く息を吐いた。
とりあえず、“アルカトラズ”領域の第一階層を全て攻略したものの、やっぱりレベルが高いだけあって幽鬼が手強い。
それに、先輩も水属性の幽鬼には相当手こずり、思うような攻略とはならなかった。
これを、最上階である第二十階層までこなしていかないといけないのかー……。
しかも、ここは領域ボスがご丁寧にも第十階層と第二十階層にそれぞれ配置されてるからなあ……。
「ふむ……望月くん、今日のところはこれで引き上げよう」
「ですね……」
先輩の提案に頷き、俺達は領域の扉へと戻る。
途中、ザラタンが三体同時に現れた時はどうしようかと思ったが、そこは実戦経験豊富な先輩。その的確な指示でザラタンを各個撃破し、終わってみれば無傷の圧勝だった。
うん、ザラタン相手ならもう大丈夫そうだな。
そして。
「あー! 疲れたー!」
扉をくぐって元の世界に戻ると、俺は思い切り伸びをしてそう叫んだ。
いや、やっぱりここは、“グラハム塔”領域と比べて圧倒的に難易度が高い……。
「ふふ……もうすっかり暗くなってしまったな」
先輩の言葉を受けて空を見上げると、既に月が明々と輝いていた。
「ですが……今日のこと、俺は一生忘れません」
「む? どういうことだ?」
「だって今日の領域攻略は、その……正真正銘、先輩のパートナーとしてのものですから……」
「あう!? そ、そうか……今日は、私と望月くんの、パートナーとしての初めての攻略になるんだったな……」
「はい!」
もちろん、これから先もこうやって、俺は先輩と一緒に色んな領域に行くんだ。
そのためには、この“アルカトラズ”領域で絶対にアレを手に入れないといけない。
それは、先輩の不幸な結末を防ぐ手助けになるはずなんだ。
だから……。
「? 望月くん?」
俺がジッと“アルカトラズ”領域の扉を凝視していたものだから、先輩が不思議そうに俺を見ていた。
「あ、ああいえ……何でもありません」
「?」
この領域を、『ガイスト×レブナント』の本編が始まる夏休み明けまでに、絶対に踏破してやる。
そう心に誓いながら改めて扉を一瞥すると、先輩と一緒にこの場を去った。
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