サンドラの覚悟
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「で、その“プラーミャ”っていうのは誰なんだ?」
「ソ、ソノ……ワ、ワタクシの双子の妹……ですワ……」
俺はあえて知らないフリをしてサンドラに尋ねると、想定通りの答えが返ってきた。
それにしても、その“プラーミャ”は確かにサンドラの闇堕ちの原因ではあるけれど、『攻略サイト』では“プラーミャ”ってのはあくまでサンドラとの過去エピなんかが書かれているだけ……つまり、その存在が示されてるだけで、実際にはゲームには登場しないキャラだ。
なので当然、主人公達がその“プラーミャ”と直接会ったりするなんてイベントは存在しない。
とはいえ。
「じゃあ次の質問。どうして俺にそのサンドラの双子の妹と会わないといけないんだ? 正直、俺には話が全く見えないんだけど」
「そそ、そうだぞ! 私にも詳しく話してもらおう!」
俺はサンドラの意図を探るため、そう尋ねた。
ところで藤堂先輩、なんで俺より食いついてるんですか。
「ソ、ソレハ……」
ここで何故か、サンドラは顔を赤くして言い淀む。
ウーン……俺の勘では、嫌な予感しかしない。
「ハ、ハッキリ言ったらどうなんだ?」
「せ、先輩、落ち着いてください!」
コッチはコッチで、少し暴走気味の先輩がサンドラに詰め寄る。
というか、なんで先輩がそこまで気にするんですか……。
「それで……サンドラ?」
「ウ、ウン……こ、こんなお願い失礼なのは承知で言うワ……ソノ……ワ、ワタクシと恋人のフリをして欲しいんですノ!」
「「はあああああああああああ!?」」
サンドラの答えに、俺と先輩は驚きの声を上げた。
いや、というか何で俺が!? サンドラの恋人のフリをするんだ!?
「わ、悪い……全然話が見えないんだけど……」
「ア、ゴ、ゴメンナサイ……実は、あの“グラハム塔”領域を踏破した時から考えていたことがあっテ……」
するとサンドラは、訥々と話し始めた。
元々サンドラの実家である『レイフテンベルクスカヤ家』は、皇族の血も引くルーシ帝国でも屈指の名門貴族であること。
『レイフテンベルクスカヤ家』にはサンドラと双子の妹である“プラーミャ”の二人しか跡継ぎがおらず、当然、長女であるサンドラには家から過度な期待がかけられていること。
だけど、精霊使いとしても、個人の資質としても、サンドラよりも妹の“プラーミャ”のほうが優れていること。
「……ですからワタクシは、その妹を超えようと、これまで必死で努力してきましたワ。勉学モ、貴族としての作法モ、そして、精霊使いとしてモ」
うん……ここまでは、『攻略サイト』に書いてあった通りだ。
だからこそ、主人公との勝負に負けてよりプレッシャーに苛まれて、闇堕ちしちまったんだからな。
だけど。
「……で、肝心の俺がそのサンドラの妹に会う理由は何なんだ? しかも、お前の恋人のフリをして」
「ソレハ……」
俺の問い掛けに、サンドラはキュ、と唇を噛むと、意を決したかのように顔を上げ、そのアクアマリンの瞳で俺を見据えた。
「……ワタクシは、『レイフテンベルクスカヤ家』の後継者候補から降りようと思っておりますノ……」
「はあ!?」
ど、どういうことだ!?
あの『攻略サイト』によれば、『レイフテンベルクスカヤ家』の後継者候補であることが何よりも誇りで、主人公に救われた後もひたすらその高みを目指していたサンドラが!?
「フフ……ワタクシ、今回の“グラハム塔”領域の攻略で分かりましたノ。ワタクシはあんなに勝負にこだわって、ヨーヘイにたくさん絡んで、いざ勝負になって……なのにヨーヘイときたら、勝負どころかワタクシのサポートばかりデ……」
ああー、まあ俺の目的はサンドラとの勝負じゃなくて、あの領域の踏破だし。それにあの時は、できる限りサンドライベは進めたくなかったしなあ……。
「ワタクシが勝負に勝っても、ヨーヘイはワタクシを祝福するばかりデ……何より、ワタクシのためにその身体を傷つけテ……」
「オイオイ、怪我のことは気にすんなって言っただろ……」
「わ、分かってますワ。それで……ワタクシは考えましたノ。ワタクシにとって、本当に『レイフテンベルクスカヤ家』を継ぐことがそれほど大事なのかト。イエ……少し違いますわネ。私がしたいことは、本当に『レイフテンベルクスカヤ家』を継ぐことなのかト」
意外だった。
サンドラにとって、『レイフテンベルクスカヤ家』こそが全てだったはず。なのにサンドラは、それを全て放棄しようとしている。
どんな心境の変化があったのかは分からない。でも、サンドラの瞳には、憂いや迷い、諦めといった色は見受けられなかった。
あるのは、ただ覚悟だけ。
「後悔……しないのか……?」
俺の問い掛けに、サンドラは無言で、だけど、力強く頷いた。
ハア……本気かよ……。
「分かったよ……」
「ッ! ほ、本当ですノ?」
「ああ……そこまで真剣に考えて、悩んで、それで答えを出したんだろ? だったら、せめて背中押すくらいはしてやるよ」
「ア、アリガトウ!」
「うお!?」
するとサンドラは、その水色に輝く瞳に涙を湛えながら俺に抱きついてきた!?
「ままま、待て!? あ、あくまで恋人のフリなのだぞ!? そんな真似する必要はないだろう!」
「フエエエエ!?」
それを見た先輩は慌ててサンドラを羽交い絞めにし、俺から無理やり引き剥がした。
と、というか、サンドラってあんなにいい匂いするのかよ……ヤベ、ちょっとドキドキした。
「そ、それで、その妹といつ会うんだ? さすがに俺にルーシ帝国まで来いって言われても無理だぞ?」
「ア、そ、そうでしたわネ……」
サンドラも今の抱きつき行為が恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながら髪を耳に掛ける仕草をした。
「そ、それで……“プラーミャ”は夏休みを利用して八月にこの“東方国”に遊びに来ますノ……その時ニ……」
「マジかー……」
夏休み……“アルカトラズ”領域を攻略しなきゃいけないのに……。
サンドラの言葉に、俺は思わず手で顔を押さえた。
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