領域(エリア)見学
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今日も一挙四話更新です!
「くあー……眠い……」
次の日の朝、俺は眠いまぶたをこすりながら、重い足取りで学園へと向かっている。
昨日あんなことがあって行きづらくはあるんだが、それでも俺は行くしかない。
だって。
「学園に行かないと、“領域”に入れないからなあ……」
そう、[ゴブ美]のレベルを上げるためには、領域という場所に現れる”幽鬼“と呼ばれる敵を倒さないといけない。
この幽鬼、倒すと“幽子”に変わり、“マテリアル”をドロップする。
その幽子を一定以上吸収することで、精霊はレベルアップできるのだ。
「といっても、入学したばっかりの俺が入れる領域なんて、初心者用の領域一択だろうけど」
俺は昨日の夜、あのまとめサイトを穴が開く程に何度も読み返した。
その結果、今の俺が入れそうな領域が、学園にある初心者用の領域だけだった。
もちろん、学園の外にも領域はいくつもあるが、今の[ゴブ美]の能力じゃ、速攻で死んでしまうだろう。
それに……結果的に、[ゴブ美]の育成には、初心者用の領域が最適だった。というか、これしか思いつかなかった。
「ホント、この攻略サイト様様だな……」
これがなかったら、[ゴブ美]を強くしようと張り切ったところで、どうやっても主人公にやられる運命しかなかった。
結局のところ、学園最弱の俺が唯一有利なのは、このまとめサイトで得た情報だけってことだ。
もちろん、最大限活用させてもらうとしよう。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか学園に着いた。
で、教室に入ると。
「「「「「…………………………」」」」」
クラスの連中が俺を見たかと思うと、ガヤガヤした雰囲気が一瞬だけ微妙な空気になる。
といっても、すぐに元の雰囲気に戻り、クラスは賑やかさを取り戻した。
そんな中。
「よう! なんか昨日は悪かったな!」
後ろから背中をポン、と叩き、加隈ユーイチがニッ、と笑った。
まあ、コイツが何も考え無しな性格だというのは分かったが、昨日の今日でよく俺に声を掛けられるな。
「……別に」
面倒なので、俺は半ば無視するように自分の席へ向かう。
「チェ、感じワリーな」
いや、それは俺の台詞なんだけど。
つーか、少しは空気読めよ。
「……フン」
すると今度は、俺の席の横を通りかかった悠木アヤが、俺を一瞥してから鼻を鳴らした。
オイオイ、俺がオマエに一体何をしたっていうんだよ。というか、昨日勝手に[ゴブ美]のステータスをみんなにバラしたの、俺は絶対に許さないからな。
「うふふ、みなさんおはようございます」
教室に入るなり、木崎セシルが笑顔で挨拶をした。
「「「おはようございます!」」」
おおう……クラスの男子連中が一斉に挨拶を返しやがった。
……ま、まあ、その気持ち分からなくはないけど。
俺はチラリ、と木崎のほうへと見やると。
「! ……(ニコリ)」
うおお!? 俺の視線に気づき、笑顔を向けたぞ!
ヤバイ……結構ドキドキした……。
——キーンコーン。
しばらくして朝のチャイムが鳴り、クラスの連中は全員席に着くと、先生が教室に入ってきた。
「みなさん、おはようございます」
「「「「「おはようございます」」」」」
にこやかに挨拶をする先生。
で、昨日俺が教室を飛び出したっていうのに、俺を一瞥もしないのな。
まあ、空気として扱ってくれたほうが俺としても助かるけど。
「それでは昨日お伝えした通り、今日の午前中は早速領域の見学をします。これからの皆さんの学園生活の中心になりますので、しっかり見学してください」
おお……! まさか、今日から領域に入れるとは思いもよらなかった!
というか、昨日そんな大事な話をしてたんなら、先生もちゃんと連絡くらいして欲しいよな……。
まあ、俺が勝手に飛び出したんだけど。
それから、先生の案内で領域のある場所……コンクリートブロックでできた小さな小屋のような建物の前に来た。
そしてそこには、既に他のクラスの連中も来ていた。まあ当然か。
「え、ええと、先生これ……?」
加隈が小屋を指差しながら、おそるおそる先生に尋ねる。
「はい、こちらが今日見学してもらう領域です」
「「「「「ええええええええ!?」」」」」
先生の言葉に、クラス全員が驚きの声を上げた。
他のクラスの連中はというと、既に聞かされているのか、驚いた様子もなく澄ました顔で俺達を見ていた。中には、同意するかのようにウンウン、と頷く奴もチラホラいた。
「ちゃんと中は広いですから。それと、今日見学するのは初心者用ですので安心してください」
いや、『攻略サイト』で確認したけど、[ゴブ美]の能力だと素の状態で行ったらかなりギリギリなんだけど。
先生、[ゴブ美]のステータスを知っている上で言ってるんですよね?
「では、昨日の班分けの通りに分かれてください」
先生がそう言うと、クラスメイト達はぞろぞろと移動し、五人一組に分かれる。
昨日いなかった俺は、当然一人だけあぶれていた。
「え、ええと先生、俺は……?」
俺はおずおずと先生に尋ねるが。
「……あなたは昨日、自分勝手に集団行動を乱しました。そのような行動をされると、今後の領域探索においても、他の生徒に迷惑を掛けることになるんです。よって、あなたはペナルティとしてソロで見学してもらいます」
「はあ!?」
い、いや、何言ってんだよこの先生は!
「それに先程も言いましたが、ここは初心者用の領域です。普通の生徒であれば、危険な目に遭うことなんてありませんよ」
そう言うと、先生は俺を見ながら嘲笑した。
……ああ、そうか。
コイツ、[ゴブ美]のステータスを知った上で、俺をソロで行かせて痛い目に遭わせようってつもりか。性格悪いな。
「……分かりました」
俺は落ち込んだフリをして、すごすごと先生から離れた。
ハッキリ言ってこの先生は最低だが、俺としては好都合だ。
だって。
これで心置きなく、俺は初心者用の領域を探索できるから。
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