先輩の思惑
ご覧いただき、ありがとうございます!
「モ、モウ一歩も動けませんワ……」
俺達は“グラハム塔”領域から帰還すると、サンドラが扉の前でへたり込んだ。
「ふふ……だが、これでサンドラも第四十三階層まで攻略できたじゃないか。このままいけば、二学期早々には踏破できそうだ」
「む、無茶ですワ!?」
藤堂先輩の言葉に、サンドラは目を丸くしながら叫んだ。
「無茶ではないぞ? そもそも、私は君一人で踏破しろとも言っていないしな」
そう言うと、先輩は何故か俺のほうをチラリ、と見た。
ええと……何だろう?
「ふふ、つまり、君とこの望月くんで“グラハム塔”領域を攻略するんだ」
「「はあああああああああああ!?」」
先輩のとんでもない発言に、俺とサンドラは絶叫した。
いや、なんで俺が!? このサンドラと!?
俺は口をパクパクさせながら先輩を見ると……先輩は、ニコリ、と微笑んだ。
あ……ひょっとして……。
「イ、イヤですワ! それじゃ勝負になりませんわヨ!」
「いや、そんなことはないぞ? それだったら、第六十階層にいる“グラハム塔”領域のボス、“タロース”をどちらが倒したかで決めればいいのでは?」
「ウグウ……ですワ……」
先輩に言いくるめられ、口ごもってしまうサンドラ。
「……俺はそれで構いません」
「っ!? ほ、本気ですノ!?」
「ああ……それに、最後の最後で決着つけるなんて、それこそどちらが上か、ハッキリするじゃないか。それとも何だ? ひょっとしてサンドラ、自信ないのか?」
「ナッ!?」
俺はわざと煽るようにそう言い放つ。
ここまで言われたら、コイツは絶対に乗ってくるはず。だって『攻略サイト』によれば、あの加隈に同じように煽られて、自分に不利な条件を飲んだらしいからな。
「エ、エエ! モチロン構いませんワ! ヨーヘイには絶対後悔させてあげますノ!」
「はは、もちろん俺も負けてやるつもりはねーよ!」
よし、これで狙い通り、俺はサンドラとこの“グラハム塔”領域を攻略することになった。
俺は小さくガッツポーズをした後、先輩の傍に寄ると。
「先輩……ありがとうございます」
そう、先輩に耳打ちした。
「あう!? な、何のことだ!?」
先輩はビクッとしてとぼけた。
だけど……先輩の狙いは、サンドラをけしかけて俺と勝負させ、なおかつ勝利条件を領域ボス討伐に切り替えること。
これは、俺の安全を考え、この“グラハム塔”領域をソロで攻略しなくてもいいように、っていう先輩の優しさだ……。
本当に……俺にはもったいないくらいの先輩ですよ。
「う、うむう……そ、その、本当なら……」
先輩はゴニョゴニョ言いながら、少し寂しそうにして俯いてしまった。
「先輩……俺、この“グラハム塔”領域、速攻で攻略してみせますよ。だから、その次の“カタコンベ”領域と“天岩戸”領域は、絶対に、その……俺と一緒に攻略しましょうね!」
「! う、うむ! もちろんだとも! 一緒に攻略しようではないか!」
先輩は、ぱあ、と咲き誇る花のような笑顔を見せてくれた。
「さて! サンドラはもう動けるか?」
「エ、エエ、もちろんですワ!」
「うむ、では次は私の家に行くぞ! これから期末テストの勉強だ!」
「「…………………………エ?」」
俺とサンドラは、顔面蒼白になった。
◇
「うん……うん、そういうことだから、先輩の家でご飯を食べて帰るよ」
『それはいいけど……あまり迷惑かけちゃ駄目よ?』
「はは、分かってる」
そう言って、俺はスマホの通話終了のボタンをタップした。
あの後、先輩の家に来て先輩の指導の下テスト勉強をしていた俺達は、先輩のご厚意で晩ご飯をご馳走になることになった。
で、俺は母さんに電話してそのことを伝えると、こうやって釘を刺されたわけだ。
「そ、その……お母様からの許可はいただけたか?」
「はい、大丈夫です!」
「う、うむ! そうか!」
少し心配そうな表情で尋ねる先輩に俺はサムズアップすると、先輩が嬉しそうな表情を浮かべた。
で、俺は机の上に突っ伏しているサンドラを見やると。
「…………………………キュウ」
白目をむいた状態で変な鳴き声をした。
まあコイツは、聞けば“グラハム塔”領域第四階層までしか行ったことがないのに、今日いきなり第四十三階層まで来たわけだからな。一気に三十九階層も攻略したことになる……うん、ちょっと可哀想になってきた。
「ふふ、サンドラも今日はよく頑張ったぞ。うちの“カナエさん”が作る夕食は格別だから、存分に楽しんでくれ」
先輩が今言った“カナエさん”というのは、先輩の家……いや、お屋敷にいる専属のメイドさんなのだ。
というかハッキリ言ってここは、よく外国のお貴族様が住むような屋敷そのものなのだ。もちろん俺も、ここに来た時には目を丸くしたとも。
まあ……サンドラは元々貴族だから、むしろこれが普通だと言わんばかりの態度だけど。
「皆様、お食事の用意が整いました」
「うむ、カナエさんありがとう。では二人共、食堂に移動しよう」
「はい!」
「…………………………帰りたイ」
オイ、サンドラ。そういうことは言っちゃダメだろ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回はこの後更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!




