世界最速の精霊
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「さあて……んじゃ、サッサとケリつけるか」
そう言うと、俺は少し焦りの表情を浮かべる牧村クニオを見据えた。
「ク、クフ! [ラタトゥスク]のスキルの正体が分かったからって、そう簡単に僕を倒せ……「倒せると思ってるよ」……なっ!?」
フン、タネさえ分かれば、どうってことはない。
何故なら、[シン]こそが『ガイスト×レブナント』最速なんだから。
「[シン]! 小細工はなしだ! あの不細工なリス野郎を、真っ向から叩き潰してやれ!」
『ハイなのです! [シン]はやってやるのです!』
俺の声に呼応し、[シン]はクラウチングスタートの体勢をとった。
「クハハハハ! まさか、そのまま真っ直ぐに突っ込んでくるつもりかい!」
「いや、俺の思考が読めるんだろ? だったらいちいち声に出すなよ」
俺はやれやれといった様子で肩を竦めると、それが癇に障ったのか、牧村クニオが露骨に顔をしかめる。
「クフ、まあいい。だったら僕はそれに合わせて、あの精霊をズタズタにしてやるだけだよ!」
[ラタトゥスク]は両手を[シン]に向けて突き出し、待ち構えた。
『ヨーイ……』
[シン]の白くて細い脚に、グッと力が宿る。
そして。
『ドン! なのです!』
そんな叫び声を共に、[シン]は文字通りロケットスタートを切った。
それこそ、自身の叫び声すら後方に置き去りにするほどに。
「クハハ! 食らえ!」
最初から軌道が分かっているかのように、[ラタトゥスク]は[シン]のその額に向けて両手の爪を合わせる。
だが。
「っ!? 躱……っ!?」
[ラタトゥスク]の爪がその鼻先に触れようとした瞬間、[シン]は超高速で身体を捻り、スルリ、と躱すと、相手の背中に呪符を大量に貼り付けた。
『終わりなのです! 【爆】!』
「ギャアアアアアアアアアア!?」
[ラタトゥスク]が呪符によって吹き飛ばされると同時に、ダメージを共有する牧村クニオは、まさに断末魔のような叫び声を上げながらもんどり打った。
「[シン]、暴れられないように拘束しておこう」
『了解なのです! 【縛】』
[ラタトゥスク]にペタリ、と呪符を貼り付けると、牧村クニオは苦しみながらも身悶えすらすることができない。
今まで散々やらかした罰だ、しばらく苦しんどけ。
「望月さん」
氷室先輩が俺の名を呼んだので振り返る。
「お見事でした」
「あはは、氷室先輩こそ。それより、いきなりクラスチェンジをしたから驚きましたよ」
「そうですね……ですが、元々ここでクラスチェンジをするつもりでしたので」
「へ?」
氷室先輩の言葉に、俺は思わず気の抜けた声を漏らした。
いや……てことは、最初から氷室先輩はクラスチェンジができたのか?
「そもそも望月さんをこの屋上に連れてきたのは、あなたに私の精霊のクラスチェンジをする姿を見て欲しかったからですので」
「そ、そうだったんですか……」
じゃあ牧村クニオに邪魔される直前に氷室先輩が何かを言おうとしたのは、このクラスチェンジのことだったんだな。
「……あなたが導いてくれたおかげで、私はクラスチェンジをすることができました」
そう言うと、氷室先輩がその藍色の瞳で俺を見つめる。
「違いますよ……全部、氷室先輩が頑張ってきたからですよ。俺は何もしていません」
「いいえ。あなたがいたから、私は藤堂さんと向き合えたんです。あなたがいたから、私は自分を認めてあげることができたんです」
氷室先輩が、俺にそっと近づいた。
「何と言おうと、それだけは譲れません」
「あ、あはは……」
ずい、と詰め寄る氷室先輩に、俺は苦笑するしかない。
だけど、この世界のどこに、たった一人でレベル七十九まで上げ続けて、それでもなお、あの藤堂先輩の背中を追いかけようとする人がいるんだよ。
そんなの、氷室先輩以外あり得ないだろ。
「これを、見てください」
そう言うと、氷室先輩が俺にガイストリーダーを見せてくれた。
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名前 :ポリアフ
属性 :女神(♀)
LV :79
力 :F
魔力 :SS
耐久 :F
敏捷 :S
知力 :S+
運 :C
スキル:【氷属性魔法】【スナイプ】【レイオマノ】
【リリノエ】【ワイアウ】【カホウポネカ】
【オブザーバトリー】【氷属性無効】【火属性弱点】
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「す、すごい……!」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
ステータスには極端な偏りがあるものの『魔力』が“SS”だし、『知力』も “S+”、スキルの数も優秀だ。
このステータスが実現できたのは、氷室先輩がこれまで諦めずにレベルを上げ続けたから。
だから、その才能が一気に開花したんだ。
「もしあなたがいなかったら、私はずっと弱いままだった」
「いや、ですから……っ!?」
俺が氷室先輩の言葉を否定しようとすると、氷室先輩がその人差し指で俺の口を塞いでしまった。
「藤堂さんが言った通り、あなたは誰よりも心が強く、そして、誰よりも優しい方です。私は、そんなあなたの隣に立ちたい。藤堂さんよりも、あなたの隣に」
「え、えっと、それは……」
氷室先輩の言葉に俺は思わずしどろもどろになってしまうと、氷室先輩は急にクルリ、と後ろを向いてしまった。
「……今日のところは、それをあなたにどうしても伝えたかったんです」
「は、はあ……」
俺はどうしていいか分からず、頭を掻きながら気の抜けた返事をしてしまう。
すると。
「私って、諦めが悪いんです……だから、覚悟してください」
また俺へと振り返り、氷室先輩は雪の結晶のようにその笑顔を輝かせた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回で、いよいよ第四章ラスト! どうぞお楽しみに!
次回は今日の夜更新!
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