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氷室先輩の怒り

ご覧いただき、ありがとうございます!

「さあ! クソザコモブの君に相応しい精霊(ガイスト)を召喚してみせたまえよ!」


 両腕を大きく広げ、尊大に、高らかにのたまう牧村クニオ。

 というか、俺の[シン]はとっくにいる(・・・・・・)んだけど。


『遅いのです!』

「っ!?」


 既に牧村クニオの精霊(ガイスト)、[ラタトゥスク]の背後に回り込んでいた[シン]は、奴の背中に呪符を貼り付け……なにっ!?


「クフ、知ってたよ」


 牧村クニオはニタア、と口の端を吊り上げ、[シン]の伸ばした腕をするり、と(かわ)した。


「クハ! 食らえ!」


 [ラタトゥスク]が両手の鋭い爪で[シン]に襲い掛かるが、持ち前のスピードを活かしてバックステップで下がり、一気に距離を取った。


「ふうん、なかなか厄介な速さだな」


 余裕の表情で[シン]を見やる牧村クニオ。だけど、今の[ラタトゥスク]の動きを見て、俺は違和感を覚える。


 何故なら、俺の[シン]は精霊(ガイスト)最速で、[ラタトゥスク]を見る限りその敏捷性は一般的な精霊(ガイスト)としては速い部類に入るかもしれないが、おそらく、氷室先輩の[スノーホワイト]よりも遅い。

 なのに、[ラタトゥスク]は背後を取られて体勢が不十分だったにもかかわらず、[シン]の手をアッサリと避けた。


 ……せめて[ラタトゥスク]の情報があればいいんだけど、コイツは『ガイスト×レブナント』には存在しないモブ以下であるため、『攻略サイト』には何も載っていない。

 とはいえ、だからって俺がコイツに負ける気はさらさらないけどな。


「クフ、どうした? そんなにらめっこしたところで、この僕を倒すことなんてできないよ?」

「バーカ、それはオマエも同じだろうが。そもそも、[シン]のほうがスピードは圧倒的に速いんだ。さっきの攻撃を見る限りじゃ、オマエの精霊(ガイスト)は近接タイプ。攻撃手段もないのに、どうやって倒すつもりなんだ?」


 俺はわざと煽るように牧村クニオに語り掛ける。

 せめて少しでも[ラタトゥスク]の情報を聞き出さないと。


 だけど。


「クハハハハ! 君が僕から情報を引き出そうとしているのは丸分かりだよ!」

「へえ、そうなの? というか、別にオマエの情報なんてなくても、俺達に負ける要素なんか何一つないんだけど?」


 などと余裕の表情を浮かべながら強がってはみたものの……正直、相手の情報なしじゃ戦略も立てづらい。

 ここは距離を取りつつ、慎重に仕掛けたほうが良さそうだな。


「クフ、別に僕はこのまま膠着状態でも構わないけど、その間に氷室くんはどうなるかな?」

「なに?」


 牧村クニオの言葉に、俺は氷室先輩へと振り向くと……っ!?


「アハハハハ! アンタ、本当に弱いわね! あの藤堂サクヤとは大違いじゃない!」

「……っ!」


 女子生徒の攻撃を受けた氷室先輩は膝をつき、女子生徒が嘲笑した。


「まあ? 私はこう見えても藤堂サクヤと夏目ハルカの次に強いから、並以下(・・・)のアンタじゃ初めから勝負にならないんだけど?」

「……そうですか」


 氷室先輩は表情を変えずにその言葉を聞き、ただ女子生徒を見据える。

 だけど……氷室先輩は、攻撃を受けた肩をギュ、と強く握りしめていた。


 当然だ。氷室先輩だって悔しいに決まってる。

 だからこそ、誰にも負けないくらい努力を重ね、藤堂先輩に肩を並べようと頑張っていたんだから。


「クハ! 佐久間くんも言うねえ! まあ、氷室くんの実力じゃしょうがない!」


 すると、俺と同じように二人の様子を眺めながら、牧村クニオがケタケタと笑った。


「……オイ、オマエは氷室先輩を認めてた(・・・・)んじゃないのか?」

「ん? もちろん認めてるさ。藤堂くんのことをちらつかせ、生徒会長を譲るって言っただけで簡単に僕になびく、都合のいい女(・・・・・・)として、ね」

「テメエ!」


 その言葉に逆上し、俺は我を忘れて[シン]を突撃させる。


「クハハハハ! 単純だねえ!」

『っ!? 危ないのです!』


 [シン]は間一髪、[ラタトゥスク]が突き出す両手の爪を躱した。

 というか、なんであの速さについて来れるんだよ!? しかもあれじゃ、まるで[シン]がそこに来ることが初めから分かってたってくらい、タイミングもバッチリだったぞ!?


「クフ! 君のようなクソザコモブの単純バカは扱いやすくていいね! というか、氷室くんが弱くて都合がいいのは事実だろう?」


 クソッ! 何だってアイツの言葉はここまでイライラさせやがるんだ!

 冷静になろうとしても、どうしても牧村クニオに突っかかっちまう!


 その時。


「あーあ、あの藤堂サクヤのお気に入りも、大したことなかったわね。牧村様に、あんなに簡単にあしらわれてるし。ていうか、そういう意味じゃアンタと同じか。なにせ、クソザコモブ(・・・・・・)だもんねー! アハハハハ!」

「っ! 今の言葉、取り消しなさい!」


 女子生徒に吐き捨てるように言われ、あの氷室先輩が激高した!?

 いや、あんな姿、先輩と戦った時だってなかったぞ!?


「私のことは事実ですから、どれだけ馬鹿にしていただいても構いません! ですが……ですが! 望月さんへの暴言だけは、絶対に許せない!」

「え……?」


 氷室先輩の言葉に、俺は思わず呆けた声を漏らす。

 というか、氷室先輩はなんで俺なんかのことで怒るんだ……?


「彼は……望月さんは、こんな馬鹿な私のことが放っておけなくて、わざわざ藤堂さんと語り合う舞台を用意してくれた! そのおかげで、私は藤堂さんの隣に並ぶことができたんです!」


 氷室先輩が女子生徒に向かって大声で叫ぶ。

 だけど……正直、俺は大したことをしていない。それに、そんなことをしたのだって、藤堂先輩と氷室先輩の想いがすれ違ったままなのが嫌だっていう、単なる俺のわがままなんだから。


「それだけじゃない! 彼が生徒会に来てから、いつも誰かを気遣って、支えてくれた! 私の大切な弟が怪我をした時も、心配してわざわざ連れてくるような優しい人なんです! そんな彼を、これ以上侮辱するな!」

「アハハハハ! じゃあこの私を止めてみせなさいよ! といっても、そんな実力もないアンタじゃ無理だけど!」


 キッと睨みつける氷室先輩を見ながら、女子生徒は嘲笑い続ける。


 すると。


「……ええ、もちろんそのつもりですよ。あなたを地面にに這いつくばらせて、これまでの発言を死ぬほど後悔させてあげます」

「っ!?」


 腹の底から震えるほどの冷たい言葉を放った氷室先輩が、肩に乗る[スノーホワイト]の頭にそっと指先を乗せる。


 そして。


「クラスチェンジ、開放」


 そう、言い放った。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は今日の夜更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!

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