不正行為
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「分かりましたよ……証拠、出しますよ」
俺が顔をしかめながら面倒くさそうに告げると、牧村クニオは目を見開いた。
一方、氷室先輩はというと、表情を変える様子は全くない。
「しょ、証拠なんてどこにあるんだ! 適当なことを言って、もし違っていたら、ただでは済まさないからな!」
いやいや、そんなどもりながら話してる時点で、不正をやってましたって言ってるようなモンだろ。
見ろよ、教頭先生達もかなり呆れてるぞ。
「じゃあ、その証拠ってヤツをその目に見せてやるよ。氷室先輩、開票した投票用紙、全部渡してくれますか?」
「……ええ」
俺は束ねた投票用紙一式を氷室先輩から受け取る。
「実は俺、今日の朝に生徒会室に来て、この投票用紙に細工をしておきました」
「「「「「っ!?」」」」」
ここにいる全員が、俺の言葉を聞いて息を飲んだ。
……氷室先輩、ただ一人を除いて。
「さ、細工だと!? そんなもの、どこにあるというんだ!」
「あるよ。悪いサンドラ、生徒会室の窓を暗幕で閉めてくれ」
「エ、エエ……」
訳が分からないといった様子で、サンドラは暗幕を閉めると、当然ながら生徒会室が暗くなった。
で、俺はその細工に使ったものをポケットから取り出し、スイッチを入れる。
すると。
「「「「「っ!?」」」」」
「まあ、要はUVライトに反応するインクのペンで、各教室に配った投票用紙に色付けをしておいたんだよ。なのに、一部の投票用紙はそれが浮かびあがっていない……もう分かるよな?」
そう。今日の朝、生徒会室に来るなり、俺は投票用紙にこの色付けをしておき、それを一教室当たり三十枚の組として、十二組を用意したんだ。
そして、氷室先輩が生徒会室にやって来た時には、俺はわざとこの色付けをしていないほうの投票用紙を、これ見よがしに目の前に置いた。
氷室先輩は、色付けをしていない投票用紙を使い、『不信任』の票を水増ししたんだ。
だけど、そうすると学園の生徒数よりも投票用紙が多くなってしまう。
だから。
「……氷室先輩。すいませんが、その投票箱の中身を見せてもらっていいですか?」
「…………………………」
氷室先輩は何も答えず、静かに目を瞑った。
「失礼します……」
投票箱に近づき、その蓋を開けると……中には記入された、本来の投票用紙が入っていた。
「……これが、今回の投票が不正だったっていう証拠だ」
「フ、フザケルナ! ここ、これは僕を貶めるための、オマエ達の罠だ! だ、大体、その氷室くんは君達とグルなんだろ!」
「…………………………は?」
牧村クニオの言葉に、自分でも驚くほどの低い声が出た。
だけど、それも仕方がない。だって……コイツは、あろうことか味方であるはずの氷室先輩に罪をかぶせようとしてるんだから。
「フザケルナ、だと?」
「そ、そうだ……っ!?」
「ウルセエ! 昨日の放課後、オマエと氷室先輩が投票用紙を改ざんするって話をしてたの、バッチリ聞いてたんだよ! 氷室先輩を巻き込んでおいて、オマエだけ言い逃れできると思ってんのか!」
俺は牧村クニオにずんずんと近づき、その胸倉をつかもうとしたところで。
「望月くん、止めるんだ」
藤堂先輩に、制止された。
「……氷室くん。本当のことを、言ってくれないか……?」
先輩は真紅の瞳を潤ませながら、訴えるような視線で氷室先輩に問い掛ける。
「……今、望月さんが仰った通りです。私はその牧村クニオさんと共謀し、投票用紙の一部をすり替えました」
「っ! ……そうか」
藤堂先輩は、悔しそうに唇を噛んだ。
それは、何かの間違いで会って欲しいとの願いが、絶たれたことへの思いから。
「ふむ……さすがにこれは見逃せませんね。牧村くん、氷室さん、今回の件については、また追って連絡します」
そう言うと、教頭先生達は生徒会室から立ち去った。
「それで……オマエはどう落とし前をつけるつもりなんだ?」
俺は牧村クニオを睨みつけ、そう尋ねる。
取り巻きの連中も、さすがにマズイと思ってるんだろう。無意識のうちに、牧村クニオから遠ざかっていた。
「フ、フン! こんなもの、全てその氷室くんが勝手にやったことだ! 僕は知らない! 知らないからな!」
そんな捨て台詞を吐くと、牧村クニオはサッサと生徒会室から逃げるようにして出て行った。
残された取り巻き達も、後を追うようにして生徒会室を出て行く。
……まあ、二―一の女子生徒だけは、俺を睨んで行きやがったけど。
そして。
「今まで、お世話になりました」
氷室先輩は、ただ一言だけ告げてお辞儀をすると、静かに生徒会室を出て行った。
「……先輩、俺達も行きましょう」
「……行く? どこへ?」
顔を青くしながら肩を落とす先輩にそう告げると、先輩は鋭い視線で俺を見た。
「決まってますよ。氷室先輩と、ちゃんと話をしに、です」
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