学園祭の出し物
ご覧いただき、ありがとうございます!
「それでは、学園祭の一―三の出し物を決めますので、やりたいものがあれば挙手してくださーい」
朝のHRは、予定通り学園祭の出し物について決める会になった。
「ねえねえ望月くん、キミはどんな出し物がいいと思う?」
「俺? そうだなあ……」
隣の席の立花に興味津々に尋ねられ、俺は腕組みをしながら首を捻った。
……そういえば、『攻略サイト』にも学園祭イベについて書かれたページがあったな。
俺はスマホを取り出し、コッソリと『攻略サイト』のページを眺める。
ふむふむ、ゲームでは『お化け屋敷』、『メイド喫茶』、『展示ブース』の三つか。
『お化け屋敷』ではヒロインと一緒にお化け役をすることで、ちょっと嬉しいイベントがある、と。
『メイド喫茶』は言わずもがな、だなあ。
最後の『展示ブース』は、ラクチンで他のクラスの出し物を見て回る時間がある代わりに、同じクラスのヒロインとの好感度が上げづらいのかあ……。
となると、クラスに攻略対象のヒロインがいる場合は『お化け屋敷』か『メイド喫茶』、他のクラスのヒロイン狙いなら『展示ブース』、と。
でも……ゲームと同じ通りに事を進めるのは気に食わん。
なにより、このゲームは先輩を不幸にするシナリオを用意してるんだ。絶対に、思い通りになんてさせてたまるか。
ということで。
「よし、なら“脱出ゲーム”なんてどうだ? 教室内でヒントを頼りに、答えを見つけたら脱出できるやつ」
「あは! いいねそれ!」
お、立花にも賛成してもらったし、早速提案しよう。
「はい!」
「はい、望月くん」
「俺は“脱出ゲーム”がいいと思います!」
俺は脱出ゲームについて簡単に説明すると、クラスの他の連中もウンウンと頷いている奴がちらほら。
うむ、好感触。
「他にありませんか?」
「ハイ!」
「はい、サンドラさん」
「ワタクシは“執事喫茶”がいいと思いますワ! 全員執事になって、淑女の皆様をおもてなししますノ!」
なにい!? ここでまさかの、サンドラからの横やり!?
しかも執事喫茶ってなんだよ! メイド喫茶と大して変わんねーじゃん! ……って、ハッ!?
気がつくと、プラーミャが俺を射殺すような視線で睨みつけていた。
その琥珀色の瞳が物語っているのは……うん、『サンドラの提案に乗れ』ってことだな?
そしてサンドラも、まるで期待するかのように、そのアクアマリンの瞳で俺を見つめていた。
……この姉妹、ある意味卑怯だと思います。
「じゃあ多数決しますので、みなさん出し物の名前を紙に書いて、前の投票箱に入れてくださーい」
いや、もう今さら投票なんてしても無意味じゃない?
だって、男子共は可愛いからってサンドラとプラーミャの言いなりなところあるし、女子にしたって立花の執事姿を見たそうだし。ホラ、現に女子の何人かは立花をチラチラと見てやがる。
そんなことを考えながらも、俺は『執事喫茶』と書かれた紙を投票箱に入れた。
チクショウ、俺に自由はないのか。
「それでは開票しまーす。執事喫茶……執事喫茶……執事喫茶……執事喫茶……脱出ゲーム……執事喫茶……」
そして。
「開票の結果、執事喫茶が三十九票、脱出ゲームが一票で、執事喫茶に決まりましたー」
クラス委員長が語尾を間延びさせながら告げた。
そして立花よ。悪いとは思うけど、頼むから俺をジト目で睨むのはやめてくれ。
俺だって、脱出ゲームにたった一票しか入ってないから、まるで俺が自分で入れたみたいに思われてそうで超恥ずかしいんだから。
こうしてHRも終わり、俺を非難する立花の視線にさらされながら、一時間目の授業を受けた。
◇
「ふふ、では望月くん達は、執事喫茶をするのだな」
「はい……」
昼休み、食堂で先輩と一緒に食事をしながら、俺はガックリ、とうなだれた。
「モウ! いい加減、覚悟を決めなさイ!」
「いや、だけどさあ……コレ、完全に立花の一人勝ちにしかならないじゃん」
そう、そしてその他大勢の男子達は、全員立花の引き立て役と化すのだ。
「そ、そんなことないよ! ボ、ボクだって、そんなに需要はないから!」
「何言ってんだよ……クラスの女子達が、立花のほうを見てたの気づいてないのか?」
「ふあ!?」
あ、立花の奴、気づいてなかったっぽい。
「ヘエ……ヨーヘイ、面白い話じゃなイ」
え、ええと……プラーミャさん、なんで少しキレ気味なんですかね?
「だ、だが! わわ、私は望月くんの執事姿は見たいぞ!」
「モモ、モチロン! ワタクシもですワ! ……だ、だって、そのためニ……(ゴニョゴニョ)
サンドラの言葉の最後のほうは聞き取れなかったが、どうやら先輩とサンドラは俺の執事姿を見たいそうだ。
そ、それはそれで恥ずかしいな……。
「そういえば、先輩のクラスではどんな出し物をするんですか?」
「ん? 私達のクラスは、無難にプラネタリウムをする予定だ」
ああー、確かに無難だ。
でも、プラネタリウムかあ……先輩がいる時は、絶対に行こう。
「と、ところで、その……」
先輩はチラチラと俺の皿の上にある、鮭のムニエルを眺めている。
食べたいんですね、分かります。
俺はス、と皿を先輩の目の前に差し出す。
「むむ! い、いいのか……?」
無言でコクリ、と頷くと、先輩は嬉しそうにフォークとナイフで一口サイズに切り分け、口へと運んだ。
「! ふふ、美味しい……!」
幸せそうに口元を緩める先輩を、俺は微笑みながら眺めていだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!




