二度目の面会
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「よう」
「……ふふ、相変わらずね」
土曜日、俺は藤堂先輩と一緒に、また悠木に面会しに施設にやって来た。
聞きたいことはこの前聞いたし、別に用事があるわけじゃないけど……まあ、この前約束したからな。ルフランのガトーフレーズ持ってまた来るって。
で、施設の人に許可を取ってあるから、今、悠木の目の前にはガトーフレーズとペットボトルの紅茶が置かれていた。
「はは、紅茶だけはペットボトルだけど我慢してくれ」
「……そんな、充分過ぎるほどよ」
そう言って、悠木は涙を一滴零した。
「そ、そんなことより早く食べようぜ! 時間も限られてるんだし!」
「……ふふ、そうね」
悠木は指で涙をすくうと、フォークでガトーフレーズを一口サイズに切り、口に入れた。
「……美味しい!」
「まあ、ルフランのスイーツだからな。当然だ」
そして……先輩、同じものが先輩の目の前にもありますよね? なのに、どうして俺のガトーフレーズを見つめてるんですか?
俺はそんな先輩に苦笑すると、ス、と無言で皿を差し出した。
「むむ……そ、その……いいのか……?」
ガトーフレーズと俺の顔を交互に見る先輩に、俺は無言で頷くと。
「う、うむ! ……ふふ、やはり美味しいな」
ハイ、先輩はガトーフレーズの上に鎮座しているイチゴに無慈悲にも思い切りフォークを突き刺してそのまま頬張ると……うん、口元がゆるっゆるだ。
「……相変わらず、望月くんは藤堂先輩と仲が良いのね」
「おう、まーな」
「あう!? ま、まあ、私と望月くんは仲が良いな、うん」
悠木にそんなことを言われ、先輩が焦っている。こういうところ、本当に可愛い。
普段は凛としていてすごくカッコイイんだけど、こういうギャップがたまらない。
……できれば、こんな姿を見れるのは俺だけの特権だといいんだけどな。
「あう……そ、その、あまりジロジロと見ないで欲しい……」
「あ、す、すいません……」
先輩は顔を真っ赤にして俯きながら、そんなことを呟いた。
俺も頭を掻きながら謝ってはみたものの……うん、全部先輩が尊いからいけないんだな。
「……そうだ、望月くんに大事な報告があったの忘れていたわ」
「報告?」
少し呆れた表情の悠木に声を掛けられて俺は正気に戻るが……報告って、なんだ?
「……おかげさまで、九月末にここを退所することになったの」
「本当か! 良かったな!」
オイオイ何だよ、最高の報告じゃないか!
それだったら、ガトーフレーズ食べる前に言ってくれても良かったんじゃないのか?
「……さすがに、またアレイスター学園に戻る、ってことは無理だけど、今度は“メイザース学園”に通うことが決まったわ」
「おお……!」
悠木の告げた“メイザース学園”というのは、『東のアレイスター、西のメイザース』と呼ばれるほど、“東方国”を二分する有名な精霊使い養成校だ。
「アレ? でも、メイザース学園って言ったら……」
「……ええ。彼女……木崎セシルがいる学園ね」
「あー……やっぱり……」
俺を“グラハム塔”領域の第二十一階層に閉じ込めたことで、無期限停学処分を食らった後に、勝手に退学して転校したところが、まさにメイザース学園だもんなあ……。
あのクソ女も、悠木みたいに改心したのかね。
「……ふふ、安心して。私が向こうに行っても、もう彼女とは関わり合いになることはないわ」
「そ、そう?」
どうやら俺の思考を先回りして、悠木はクスクスと笑いながらそう答えた。
いや、あのクソ女に影響されて、また悠木がおかしなことになられても困るからな。
「でも、さすがというか何というか……よくメイザースに編入できたな」
「……実は、ここの退所もそうだけど、全てアレイスター学園の学園長が手配してくれたらしいの」
そう言うと、悠木はチラリ、と先輩を見た。
もちろん、この俺も。
「ふふ……どうやら学園長が、私の知らないところでそう判断したのだろう」
先輩は肩を竦めてそう答えるけど……はは、嘘が下手だなあ。
「なら、学園長にこう伝えてください。『やっぱり、あなたは俺にとって最高の女性です』って」
「あうあうあう!? ううう、うむ、必ず伝えよう! そうとも!」
先輩は顔を赤くしてわたわたと両手を振りながら、口元を緩めた。
「すいません、時間です」
おっと、もう面会時間も終わりか。
「それじゃ悠木、また来る……って、そうかー、もう向こうに行っちまうんだよなあ」
うん、今月一杯で施設も出るし、逆に今以上に会う機会がなくなるな。
……せっかく、悠木とも仲良くなれたんだが、な。
「あ、あの!」
「ん? どうした?」
「……その、もしよかったら……連絡先、交換しない? そうすれば、向こうに行っても……」
「おう! そうだな! じゃあ……」
そう言って、俺は素早く紙切れにメッセージアプリのIDをメモすると。
「すいません、これを悠木に渡してもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
俺は施設の職員に、メモを悠木に渡してもらった。
「あ……」
「退所したら、絶対に連絡くれよ!」
「うん……! ありがとう……!」
そう言うと、悠木はそのメモをキュ、と胸に抱いた。
「じゃあな!」
「ええ! また!」
俺は笑顔の悠木に手を振りながら、面会室を出……ると。
「むううううううううううううううう!」
……先輩が、頬をプクー、と膨らませながら拗ねていた。
「え、ええとー……」
「フン! 君はいつもそうだ! いつもいつも無自覚に! その……少々だらしないのではないか?」
「ええー……」
お、俺の一体何がだらしないっていうんだろうか……。
『ハアー……藤姉さま、マスターはこういう男なのです。ここはもう、受け入れるしかないのです』
「むむ……」
[シン]の訳の分からない説明なのか慰めなのか、なんともいえない言葉を先輩に告げると、先輩は呻いた。
……ここは、先輩のご機嫌を取っておいたほうがいい気がする。
「せ、先輩! 悠木との面会も思ったより早く終わりましたし、そ、その……せっかくですから、この後ルフランに行きませんか? も、もちろん俺の奢りで!」
そう言った後、俺は上目遣いで先輩の表情をチラリ、と覗き見る。
スイーツで機嫌を取るなんて、我ながらこすいとは思うけど……ど、どうだ?
「ううう、うむ! そ、そうだな! 時間も余っているし、そ、その……私も、この後は用事もないからな!」
「! は、はい!」
よし! 先輩の機嫌がよくなったぞ!
俺は思わず小さくガッツポーズをしていると。
「だが、私は最低三つ食べるからな」
「はい……」
ジロリ、と睨まれ、俺は顔を伏せた。
その後、俺は先輩にルフランでスイーツをご馳走した。しかも、五つ……。
お読みいただき、ありがとうございました!
いよいよ明日からは第四章に突入!
第四章では、学園ファンタジーのお約束、部活動と学園祭イベントです!
もちろん、新キャラも登場予定! お楽しみに!
次回は今日の午後更新!
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