君を、信じているよ
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■藤堂サクヤ視点
「さて……そろそろ時間だな」
部屋の時計を眺め、お父様の研究所へ行く支度を始める。
といっても、研究所ですることなど、ベッドの上に裸で寝そべりながら色々な管をつけられ、ただ、“ウルズの泥水”を供給されるのを眺めているだけだが、な。
「おっと、この“エリネドの指輪”も外しておかないと」
何といっても、今日は彼が言ういざという時だからな。
だけど。
「ふふ……彼は一体、この私にどれほどのものをくれるつもりなのだ……」
机の引き出しに大切に置いた“エリネドの指輪”を眺めながら、私は顔を綻ばせる。
“シルウィアヌスの指輪”と合わせ、彼は返しきれないほどのものをくれた。
だから私は、彼に一生かけて返していこうと思う。
「それにしても……」
問題はサンドラだ。
やはり彼女も彼にとって大切な女性だから、私と同じように“リネットの指輪”を手渡された。
しかもサンドラときたら、その指輪を嬉しそうに受け取ると、堂々と左手の薬指に……!
「ま、まあ、私は二つ貰っているし、しかもその指輪は、絶対に外れないようになっているがな」
などと、訳の分からないことを呟いてしまっているが……うん、やめよう。
サンドラも、私にとって大切な後輩であり、仲間なのだから。
それに、サンドラが彼に恋人役になって欲しいと頼んだ際に、私に耳打ちした言葉。
『フフ……これはあくまでも恋人のフリですかラ……ですが、もちろん勝負はフェアですわヨ?』
と、宣戦布告をされたのだから。
「なら……私も、指輪もフェアでないと、な……」
とはいえ、私も譲る気はない。
だから、正々堂々と戦おうじゃないか。
私は口の端を持ち上げると、部屋を出て研究所へ向かった。
◇
「ふむ……やはり、“ウルズの泥水”は半分しか供給されないか……」
お父様が顔をしかめながら、研究員から手渡された資料に目を通して呟く。
ふふ……彼がくれたこの“シルウィアヌスの指輪”がある限り、“ウルズの泥水”が私の中に半分以上供給されることはない。
それよりも……不快、だな。
というのも、様々な管に繋がれたこの私の裸体を見て、鼻を伸ばす研究員がちらほらといるのだ。
以前はそんなこと気にも留めていなかったが、望月くんと知り合ってから、そのような視線が嫌でたまらない。
……彼だったら、私の裸を見てどう思うかな。
綺麗だって言ってくれるかな……いや、彼のことだ。すぐに恥ずかしがって、顔を赤くしながら目を逸らすに違いない。
ふふ……やっぱり望月くんは可愛いな。
「サクヤ。この前ほどではないにしろ、また[関聖帝君]のステータスが上昇しているが……」
「……はい。つい先日、“グラハム塔”領域で、柱の守護者と思われる大蛇の幽鬼と交戦し、倒しました」
彼のことを考えていたら、急にお父様が尋ねてきたため、私は慌てて答えた。
とはいえ、努めて冷静を装ってはいるが。
「そうか……だが、サクヤは既に踏破しているし、能力的にも、 “グラハム塔”領域に行く価値はないと思うが?」
「はい。その時は、後輩の指導を行っておりました」
「ふむ……ひょっとして、彼……望月くんか?」
彼の名を告げると、お父様がニヤッと口の端を持ち上げた。
だけど……その瞳は笑ってないように見える……。
「い、いえ、彼もその場にいましたが、私はこの前転校してきた立花アオイくんとプラーミャ=レイフテンベルクスカヤさん、そして、一―二の加隈ユーイチくんの指導を……」
「ふむ……これは一度、望月くんと一度会って話をしないとな。サクヤの父として」
「お父様!?」
ななな!? お父様が望月くんと会う!? しかも、学園長としてではなくプライベートで!?
「む、何だ? 私が彼と会うとなにかマズイことでもあるのか?」
「いいい、いえ!? 決してそのようなことは!?」
「ふむ……まあいい。とりあえず、楽しみは取っておこう…………………………サクヤはやらん(ボソッ)」
「お父様!?」
こ、これは何としてでも、望月くんをお父様に認めさせねば……!
「まあ、その話は置いておいて……サクヤ、次回から“ウルズの泥水”の供給量を倍に増やす。いいな」
「っ!?」
真剣な表情に戻ったお父様はそう告げると、私は思わず息を飲んだ。
そんな……それでは、望月くんの苦労が……!
「……不満か?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
お父様にジロリ、と睨まれ、私は口をつぐむ。
「サクヤ、お前は母さんに逢いたくないのか」
「そ、そんなことは……!」
「なら、サクヤも協力してくれ。お前の中にある、その種こそが、唯一の手段なのだから」
「……はい」
お父様は微笑みながらそう告げると、私の傍から離れていった。
「っ! …………………………勝手なことを!」
お父様の言葉を思い返し、私はギリ、と歯噛みする。
もちろん私だって、あの優しかったお母様に逢いたい。
でも……もう、お母様はいないのだ。
それでもなお、お父様はお母様の面影を追い続けている。
それが……神の摂理から離れることになろうとも。
そして私は、身体の中にある種を育てる。
ただの、苗床として。
「ふ、ふふ……結局のところ、お父様にとってこの私は、ただの道具でしかないのだろうな……」
……いや、確かに私は、お母様がいなくなったあの日、苗床となることを受け入れた。
そのために血のにじむような思いで、[関銀屏]……いや、[関聖帝君]をここまで強くしたのだから。
九つの柱を、打ち倒すために。
でも。
「お母様……申し訳ありません……私は、お母様よりも大切な人に出逢ってしまいました……」
私は唇を噛みながら、左手薬指の“シルウィアヌスの指輪”に触れる。
そんな大切な彼の想いに、優しさに、私はどうやって応えるべきなのか。
決まっている。彼が望むように、この種を芽吹かせないことだ。
それこそが、彼の望んでいることなのだから。
「ふふ……正確には、種を芽吹かせないことで、この私を救うこと、だろうな……」
お父様は、種を芽吹かせたとしても、私の身体に影響はないと言っている。だが、それを素直に信じろと?
そんな曖昧な言葉などより、彼の……望月くんの想いのほうが比べることもおこがましいほど、信じることができる。
だから。
「望月くん……これからもずっと、誰よりも君を信じているよ」
たとえ、この私が救われなくても。
――君が、私を救ってくれたから。
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