表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/398

君を、信じているよ

ご覧いただき、ありがとうございます!

今日も幕間をお届け!

■藤堂サクヤ視点


「さて……そろそろ時間だな」


 部屋の時計を眺め、お父様の研究所へ行く支度を始める。

 といっても、研究所ですることなど、ベッドの上に裸で寝そべりながら色々な管をつけられ、ただ、“ウルズの泥水”を供給されるのを眺めているだけだが、な。


「おっと、この“エリネドの指輪”も外しておかないと」


 何といっても、今日は彼が言ういざという時(・・・・・・)だからな。

 だけど。


「ふふ……彼は一体、この私にどれほどのものをくれるつもりなのだ……」


 机の引き出しに大切に置いた“エリネドの指輪”を眺めながら、私は顔を綻ばせる。

 “シルウィアヌスの指輪”と合わせ、彼は返しきれないほどのものをくれた。

 だから私は、彼に一生かけて返していこうと思う。


「それにしても……」


 問題はサンドラだ。


 やはり彼女も彼にとって大切な女性(ひと)だから、私と同じように“リネットの指輪”を手渡された。

 しかもサンドラときたら、その指輪を嬉しそうに受け取ると、堂々と左手の薬指に……!


「ま、まあ、私は二つ貰っているし、しかもその指輪は、絶対に外れないようになっているがな」


 などと、訳の分からないことを呟いてしまっているが……うん、やめよう。

 サンドラも、私にとって大切な後輩であり、仲間なのだから。


 それに、サンドラが彼に恋人役になって欲しいと頼んだ際に、私に耳打ちした言葉。


『フフ……これはあくまでも恋人のフリですかラ……ですが、もちろん勝負はフェアですわヨ?』


 と、宣戦布告をされたのだから。


「なら……私も、指輪もフェアでないと、な……」


 とはいえ、私も譲る気はない。

 だから、正々堂々と戦おうじゃないか。


 私は口の端を持ち上げると、部屋を出て研究所へ向かった。


 ◇


「ふむ……やはり、“ウルズの泥水”は半分しか供給されないか……」


 お父様が顔をしかめながら、研究員から手渡された資料に目を通して呟く。

 ふふ……彼がくれたこの“シルウィアヌスの指輪”がある限り、“ウルズの泥水”が私の中に半分以上供給されることはない。


 それよりも……不快、だな。


 というのも、様々な管に繋がれたこの私の裸体を見て、鼻を伸ばす研究員がちらほらといるのだ。

 以前はそんなこと気にも留めていなかったが、望月くんと知り合ってから、そのような視線が嫌でたまらない。


 ……彼だったら、私の裸を見てどう思うかな。


 綺麗だって言ってくれるかな……いや、彼のことだ。すぐに恥ずかしがって、顔を赤くしながら目を逸らすに違いない。

 ふふ……やっぱり望月くんは可愛いな。


「サクヤ。この前ほどではないにしろ、また[関聖帝君]のステータスが上昇しているが……」

「……はい。つい先日、“グラハム塔”領域(エリア)で、柱の守護者と思われる大蛇の幽鬼(レブナント)と交戦し、倒しました」


 彼のことを考えていたら、急にお父様が尋ねてきたため、私は慌てて答えた。

 とはいえ、努めて冷静を装ってはいるが。


「そうか……だが、サクヤは既に踏破しているし、能力的にも、 “グラハム塔”領域(エリア)に行く価値はないと思うが?」

「はい。その時は、後輩の指導を行っておりました」

「ふむ……ひょっとして、彼……望月くんか?」


 彼の名を告げると、お父様がニヤッと口の端を持ち上げた。

 だけど……その瞳は笑ってないように見える……。


「い、いえ、彼もその場にいましたが、私はこの前転校してきた立花アオイくんとプラーミャ=レイフテンベルクスカヤさん、そして、一―二の加隈ユーイチくんの指導を……」

「ふむ……これは一度、望月くんと一度会って話をしないとな。サクヤの父として」

「お父様!?」


 ななな!? お父様が望月くんと会う!? しかも、学園長としてではなくプライベートで!?


「む、何だ? 私が彼と会うとなにかマズイことでもあるのか?」

「いいい、いえ!? 決してそのようなことは!?」

「ふむ……まあいい。とりあえず、楽しみは取っておこう…………………………サクヤはやらん(ボソッ)」

「お父様!?」


 こ、これは何としてでも、望月くんをお父様に認めさせねば……!


「まあ、その話は置いておいて……サクヤ、次回から“ウルズの泥水”の供給量を倍に増やす。いいな」

「っ!?」


 真剣な表情に戻ったお父様はそう告げると、私は思わず息を飲んだ。

 そんな……それでは、望月くんの苦労が……!


「……不満か?」

「い、いえ……そういうわけでは……」


 お父様にジロリ、と睨まれ、私は口をつぐむ。


「サクヤ、お前は母さんに逢いたくないのか(・・・・・・・・)

「そ、そんなことは……!」

「なら、サクヤも協力してくれ。お前の中にある、その()こそが、唯一の手段なのだから」

「……はい」


 お父様は微笑みながらそう告げると、私の傍から離れていった。


「っ! …………………………勝手なことを!」


 お父様の言葉を思い返し、私はギリ、と歯噛みする。

 もちろん私だって、あの優しかったお母様に逢いたい。

 でも……もう、お母様はいない(・・・・・・・)のだ。


 それでもなお、お父様はお母様の面影を追い続けている。

 それが……神の摂理から離れることになろうとも。


 そして私は、身体の中にある()を育てる。

 ただの、苗床(・・)として。


「ふ、ふふ……結局のところ、お父様にとってこの私は、ただの道具(・・・・・)でしかないのだろうな……」


 ……いや、確かに私は、お母様がいなくなったあの日、苗床となることを受け入れた。

 そのために血のにじむような思いで、[関銀屏(かんぎんぺい)]……いや、[関聖帝君]をここまで強くしたのだから。

 九つの柱(・・・・)を、打ち倒すために。


 でも。


「お母様……申し訳ありません……私は、お母様よりも大切な人に出逢ってしまいました……」


 私は唇を噛みながら、左手薬指の“シルウィアヌスの指輪”に触れる。


 そんな大切な彼の想いに、優しさに、私はどうやって応えるべきなのか。

 決まっている。彼が望むように、この()を芽吹かせないことだ。


 それこそが、彼の望んでいることなのだから。


「ふふ……正確には、()を芽吹かせないことで、この私を救うこと、だろうな……」


 お父様は、()を芽吹かせたとしても、私の身体に影響はないと言っている。だが、それを素直に信じろと?

 そんな曖昧な言葉などより、彼の……望月くんの想いのほうが比べることもおこがましいほど、信じることができる。


 だから。


「望月くん……これからもずっと、誰よりも(・・・・)君を信じているよ」

 

 たとえ、この私が救われなくても。

 

 ――君が、私を救ってくれたから。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は今日の夜更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ