ベレヌス
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“レムリア”領域のボス、“ベレヌス”は、美しい青年の姿をしていた。
輝くブロンドの髪に水色の瞳を湛え、ギリシャ彫刻のように彫りの深い端正な顔立ち。
その手には黄金の弓と矢を持ち、着ている服から覗くその身体は引き締まった肉体をしていた。
ハッキリ言おう、俺はこんな奴は大嫌いだ。
「先輩! サンドラ! あの領域ボスは、絶対に原型をとどめないくらいにギタギタにしてやろう!」
「う、うむ……」
「い、いいですけド……急にどうしたんですノ……?」
先輩もサンドラも、せっかく俺が意気込んでるっていうのに、なんでそんな心配そうに俺を見てるんだ?
『プークスクス! マスターがまさかの領域ボスに嫉妬してるのです』
「ちょ!? [シン]!?」
そそ、そんなハッキリ言うなよ! 傷つくだろ!
「む……だ、だが、私は望月くんのほうが、その……かか、可愛いと、思う……ぞ……?」
「あんな濃ゆい顔の何がいいんですノ! そ、それなら、ヨーヘイのほうが愛くるしいというカ……カッコイイというカ……」
[シン]の言葉を聞いた先輩とサンドラは、顔を真っ赤にしながらそんな恥ずかしい言葉を口にした。
うう……お世辞とはいえ、二人にそんなこと言われたらメッチャ嬉しい……!
「よっし!」
そんな二人の励ましに気合いが入った俺は、パシン、と両頬を叩いた。
「やるぞ、[シン]! そして、今日のアイスは抜きな!」
『はうはうはう!? ヒドイのです! ヒドイのです! 横暴なのです!』
はは、俺を馬鹿にした罰だ。反省しやがれ。
すると。
「っ!? [シン]!」
『ハイなのです! 【堅】!』
[シン]は素早く呪符を展開し、ベレヌスから放たれた黄金の矢を弾い……て!?
あろうことかベレヌスの奴、黄金の矢を乱れ撃ちしてきやがった!?
「先輩! サンドラ! あの矢は絶対に食らっちゃ駄目だ! あの矢じりには、毒がある!」
……正確には毒じゃなくて、致死性の高い疫病だけど。
「っ! 分かった!」
「任せテ! 【ガーディアン】!」
サンドラは[ペルーン]に無数の盾を展開させて、ベレヌスの放った矢を弾く。
先輩も、サンドラの盾に隠れつつ、取りこぼした矢を[関聖帝君]の青龍偃月刀で打ち落とした。
さあて……『攻略サイト』には、遠距離攻撃で撃ち合いをしながら少しずつ削るのが攻略法だって書いてあったけど、遠距離攻撃ができるのはサンドラしかいないし、何よりそんなチマチマしたことをする時間も惜しい。
だったら!
「[シン]! 一気にアイツに近づいて攻撃を仕掛けろ! 先輩とサンドラは、その隙に少しでも領域ボスとの距離を詰めるんだ!」
先輩とサンドラが、無言で力強く頷いた。
そして[シン]は、降り注ぐ黄金の矢を素早く躱しながら接近する。
そして。
『取ったのです! 【爆】!』
『グウッ!?』
背後に回り込んだ[シン]は、ベレヌスの背中に呪符を貼り付け、【爆】で吹き飛ばした。
「おおおおおおおおおおおおッッッ!」
「アアアアアアアアアアアアッッッ!」
同じく距離を詰めていた[関聖帝君]と[ペルーン]が、ベレヌスに向かってそれぞれ武器を叩き込む。
だけど。
「っ!? 何だと!?」
「身体が回復していきますワ!?」
そう……ベレヌスは【疫病の矢】で敵を絶望へと追い込み、【治癒の矢】で自身を癒す。
その使い分けこそが、このベレヌスの特徴でもある。
とはいえ。
「大丈夫! なら!」
『任せるのです!』
[シン]は一気に詰め寄ると、ベレヌスの両腕が見えなくなるほどに呪符で覆った。
『食らえ! なのです! 【爆】!』
『ガガガガガガガガガガガッッ!?』
連続して起こる呪符の爆発により、ベレヌスはその腕を上げることができない。
これなら、【治癒の矢】で回復することもできないだろ!
「先輩! サンドラ! 今だ!」
「うむ! 食らええええええええええッッッ!」
「【裁きの鉄槌】ッッッ!」
『ガ……ウ……!?』
ベレヌスを、先輩は青龍偃月刀で切り刻み、サンドラは打ち砕く。
何度目かの攻撃を食らった後、とうとうベレヌスは沈黙し、その姿を幽子とマテリアルに変えた。
「望月くん! やったぞ!」
「ヨーヘイ! やりましたワ!」
二人は最高の笑顔でその手を掲げる。
だから。
「はは! やった!」
「ああ! ふふ!」
「キャ! フフ!」
俺はそんな二人の手にハイタッチをした。
『マスター! [シン]も! [シン]もなのです!』
「はは! 当然!」
もちろん[シン]にもハイタッチを交わすとも。
この、俺の最高に自慢の精霊と。
「よし、じゃあ立花達が合流する前に、やることやっちまうかー」
そう言って、先輩とサンドラを手招きし、ベレヌスが飛び出してきたみすぼらしい建物の中へと入る。
すると、そこには“アルカトラズ”領域で見たものと同じ小さな祠があった。しかも、二つ。
「望月くん……あれは、ひょっとして……」
「ええ……“アルカトラズ”領域のものと同じ、ですね。[シン]」
『了解なのです!』
もう二度目だから、[シン]は喜び勇んで鎮座する赤色の水晶玉に触れると、 「シン」の身体を幽子の渦が包み込む。
しばらくして渦が消え、姿をあらわした[シン]をガイストリーダーで確認すると。
「よし! 【火属性反射】を手に入れたぞ!」
「なに! 本当か!」
「次はワタクシ達の番ですワ!」
早速先輩とサンドラも、[関聖帝君]と[ペルーン]を水晶玉に触れさせた。
「ふふ……【水属性反射】に続いて、今度は【火属性反射】か」
「これで[ペルーン]がまた強くなりましたワ!」
「あはは、二人共忘れてない? 祠は一つだけじゃないんだぞ?」
「「あ!」」
俺の言葉を聞いた先輩とサンドラが、綻んだ顔をさらに綻ばせる。
そう、ここが二つの領域でできていることを忘れてはいけない。
この祠は、あくまでも“レムリア”領域のクリア報酬であって、“アトランティス”領域のクリア報酬はもう一つのほうの祠にある。
【氷属性反射】という報酬が。
「ということで、もう一つスキルをもらいに行きましょう」
「うむ!」
「エエ!」
二人はうれしそうに返事して、我先にともう一つの祠へと向かう。
その間に……俺は、祠の裏側に回り込むと、ひっそりと置かれてある、小さな木箱の蓋を開けた。
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