因果応報
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「くあ……」
次の日の朝、けたたましく鳴るスマホのアラームを止め、いつもの時間に目を覚ました。
「あー……まだ昨日の疲れが抜けてない……」
結局昨日は、疾走丸を五つも取りに行ったからなあ。
俺はガイストリーダーを手に取り、画面をタップする。
……うん、[ゴブ美]のステータスはピクリとも変化してない。
といっても、画面に表示されているステータスはアルファベットで大まかに示したものだから、ほんの少ししか能力アップしない疾走丸を五つ程度飲み込んだところで、そう簡単に変化が見える訳ないんだけど。
まあいいや……サッサと支度して、学園に行こう。
俺は制服に着替え、リビングへと向かう。
「お、おはよう……」
「…………………………」
今日も母さんは、窺うように俺の顔色を見る。
ハア……本当に、母さんに言ってやりたいよ。
俺の[ゴブ美]は精霊最弱で、そんなビクビクする必要なんてないってことを。
俺は無言のまま椅子に座り、テーブルに用意されている朝食を食べる。
だけど……今朝も朝食を美味しいと感じることはなかった。これは、この半年の間ずっとだ。
結局俺は今日も朝食を残し、洗面台に向かって歯磨きと洗顔をした。
「行ってきます」
身支度を整え、何の感情もこもっていない挨拶をして、家を出る。
当初は寮に入るって意気込んでたけど……あの様子じゃ、家にいるより居心地が悪そうだ。しばらくは保留にしよう。
学園に着き、下駄箱で上履きに履き替えて教室へと入ると。
「お! ゴブリンが来たぞ!」
俺を見るなり、加隈が嬉しそうにそう叫んだ。
完全に俺はイジられ要員、カースト底辺に成り下がったな……。
まあ、二学期になったら見返すから別にいいけど。
俺は加隈のそんな言葉を無視し、自分の席に座った。
「ハア……ホント、もう学園辞めたら? 才能ないんだし」
俺の横を通り過ぎ様に、今度は悠木がそう呟く。
というか、席も離れてるのにわざわざそんなことを言いに来るなんて、暇なのかよ。
「みなさん、おはようございます」
俺は木崎さんの声に反応し、教室の入口へと視線を向ける。
「! ……(ニコリ)」
あ……木崎さん、今日も俺を見て微笑んでくれた。
俺はたったそれだけのことで気合いが入る。我ながら単純だなあ……。
——キーンコーン。
朝のチャイムが鳴り、クラスメイト達が一斉に席に着く。
だけど。
「……先生が来ない」
既にチャイムが鳴って五分が経過しているが、一向に先生が教室に来る気配がない。
「オイオイ……アスカ先生が俺達のクラスの遅刻第一号かよ」
加隈の奴が冗談交じりにそう口にすると、クラスの連中はドッ、と笑った。
俺には何が面白いのか分からないけど。
とはいえ、本当にどうしたんだ?
——ガラ。
お、ようやくお出ましか。
先生は扉を開けて中に入って来ると、何故か俺をキッ、と睨みつけた。
えー……何で俺が先生に睨まれないといけないんだよ……。
「それでは朝のHRを始めます。その前に……望月くんはHRが終わったら職員室に来てください」
「……はい」
何だよ、朝からいわれのない説教でもするつもりか?
俺は憂鬱な気分で聞き流していると、時間がおしていたこともあって、あっという間にHRは終わった。
「失礼しまーす……」
俺は先生に言われた通り、職員室へとやって来ると。
「ああ、君が望月くんだね。待っていたよ」
職員室の窓際真ん中に座る先生が、慌てて駈け寄って来た。
多分、席の位置的に教頭先生っぽい。
「じゃあ、今から応接室に行こうか」
「へ?」
なんで応接室なんかに行くんだ?
職員室で説教されるんじゃないのか?
俺は首を傾げながら教頭先生? の後についていき、応接室へと入った。
すると……中には入学式の時に見た学園長と担任の伊藤先生、そして。
「藤堂先輩!?」
「やあ、おはよう」
何故か、先輩がこの場にいた。
い、一体どういうこと!?
「はは、まあ望月くんもソファーにかけなさい」
「は、はい、失礼します……」
学園長に促され、俺はソファーに座る。
「単刀直入に聞こう。君がこの伊藤先生に罰としてたった一人で初心者用の領域を見学させられたとの報告を受けたんだが、それは事実かな?」
学園長がニコニコしながら俺にそう問い掛けた。
というか……。
チラリ、と先輩を見やると、先輩はニコリ、と俺に微笑み返してくれた。
あ……昨日話したこと、先輩が学園長に言ってくれたのか……。
「……はい」
俺は小さい声で肯定すると、先生の肩がビクッとなった。
「……伊藤先生、これはどういうことかな?」
「あ、そ、それはその……」
ニコニコしていた雰囲気から打って変わり、学園長は鋭い視線で先生を見やると、先生がしどろもどろになった。
「学園長。私が彼から聞いたところによると、彼は入学式の日に多くのクラスメイト達から精霊の能力と容姿を馬鹿にされ、あろうことか範を垂れるべき担任教師からも、嘲笑に晒されたとのことです」
「ほう……」
「しかも、それによっていたたまれなくなって教室を飛び出した彼に、あろうことか集団行動を乱した罰と称して初心者用の領域にソロで送り込むという愚行を犯したのです」
そう言うと、先輩は先生をキッ、と睨んだ。
「ふむ……?」
「あ、あのあのあの……も、申し訳ありませんでした!」
とうとう観念したのか、先生は学園長に向かって深々と頭を下げた。
「謝罪すべきはこの私ではなくて、彼じゃないのかね?」
「う……」
学園長にギロリ、と睨まれ、先生は身体を硬直させた。
「ハア……伊藤先生、これは一歩間違えたら命にかかわっていたんですよ? その自覚はあるのですか?」
「で、ですが、あそこは初心者用の領域で、比較的……「何だね?」……い、いえ、何もありません……」
とうとう先生は俯いたまま黙ってしまった。
「とにかく、伊藤先生の処分については追って決めることにします。望月くん……このたびは本当に申し訳ありませんでした」
すると、学園長が俺に向かって深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!? お、俺はもう気にしてませんから、お願いですから頭を上げてください!」
「……今晩にでも、君のご両親にも正式に謝罪に向かわせてもらうよ」
学園長は頭を上げると、とんでもないことを言い出した!?
「そ、それもいいですから! 本当に!」
「そういう訳にはいかない。私達は、ご両親から大切な子どもを預かっているんだ。謝罪するのは当然のことだよ」
「ふふ。望月くん、君は気にしなくていいんだ」
学園長の後に続いて先輩がそう言うと、優しく微笑んだ。
チクショウ、先輩にそんな笑顔で言われたら、もう何も言えない……。
「わ、分かりました……」
「今後このようなことがないよう、私達もしっかりと指導するよ……では、もう教室に戻ってもいいよ」
「はい……」
俺は席を立ち、唇を噛みながら肩を震わせる先生を一瞥した後、応接室を後にした。
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